Reflect
ナガトの開いた両眼の魔眼は千歳の左眼に宿る霊写しとは明らかに違っていた、千歳の霊写しは黒輪が瞳孔を中心として回転しているがナガトの眼は瞳孔を中心として虹彩に白銀の粒子が渦を巻いており、その様子は宇宙の銀河を思わせるようなものであった。
「霊写しじゃ・・・ない?」
「ん?あぁそうか、御前が持っていないとなると、こっちでこの眼をもっているのは俺たちの祖父さんだけか。」
そのようなことは千歳には初耳であった。千歳の祖父である長門万尋は先代の長門家当主であり、千歳の父である玄信に家督を譲ってからは隠居している。"暇つぶし"と言って剣術の道場を開いており、丁寧な指導方法や万尋の気楽で優しい性格もあって近所の子供たちにも人気の道場となっていた。大人の部もあり近所のみならず遠方から教えを乞いにやってくる者もいる。
千歳も物心ついた時から父親に道場へ連れられ幼い頃から万尋に剣術を教わっており、稽古の合間にも万尋は千歳に自分の昔話をよくしていた。万尋が若い頃は異形や怪異、龍種や幻獣といった神秘が人間に害を及ぼさぬように撃退、あるいは撃滅するという仕事をしていたらしい。
チラッと聞いた話では現役だった頃の祖父の二つ名は『神秘殺し』、千歳の霊写しの眼が開眼した際に最初に気づいたのも万尋である。そして千歳は先程やって見せたように万尋の動きを真似て剣術の腕前を上げていき、道場の大人たちにも勝てるほどになっていったのだが万尋に勝てたことは一度もなかった。しかし何度打ち倒されても諦めず挑んでくる千歳に万尋は自分の若い頃の姿を重ねた。
『鍛錬を怠らず、大切な人のために強くなれ。そうすれば御前の眼にも、星が映る。』
千歳は万尋が自分に言ったこの言葉を思い出し、万尋がナガトと同じ眼を持っていること、そしてナガトの眼が自分の霊写しよりも上位の魔眼だということを悟った。しかし千歳に怯む様子はなく自分の手を掴んでいるナガトの手を振り払い後ろへ下がると木刀へ大量の影を集中させ構える。そして木刀を渾身の力で振り下ろすと風切り音と共に黒い斬撃がナガトに向かって飛翔する。
ナガトは自分に襲いかかる斬撃を気だるそうに見つめ、刀を軽く一振りすると千歳の黒い斬撃が跡形もなく霧散する。そしてナガトも千歳と同じように刀に大量の影を纏わせ構え、刀を振り下ろすと白銀の斬撃が千歳に襲いかかる。千歳はナガトがやったように斬撃を見切って振り消そうとするが、ナガトが放った斬撃は千歳の黒い斬撃よりも込められた影も速度も上回っており千歳は避けるので精一杯であった。
その隙をついてナガトは千歳の目前に接近すると、白銀の影を纏った刀の刃で千歳の胸部を貫く。千歳は一瞬のできごととあまりの激痛に声もあげられず顔を歪めて吐血しする。
「千歳、なぜ長門千歳のような無名の人間が星霊になれたかわかるか?」
「・・・」
ナガトからの問に千歳は答えることもできずただナガトを睨むことしかできなかった、ナガトはそんな千歳の様子を見て乾いた笑みを浮かべる。
「俺が元いたこことは違う世界、そこで俺は伊邪奈美命を殺したんだよ。」
「っ!」
千歳は眼をカッと開き苦悶と怒りが混じった表情でナガトを睨みつけ、ナガトの服の胸ぐらを掴む。
「御前、殺したのか・・・?イザナミを・・・若葉ちゃんを!?」
「そんなヤツ、俺は知らないよ。」
千歳の絞り出した声をナガトは軽くあしらい、千歳の身体から刀を引き抜き千歳を突き放す。後ろに向かって仰向けに倒れた千歳の胸部の傷からは大量の血が流れ出ており、傷口にはナガトの白銀の影が炎のように揺らめいている。見守っていた千尋たちも千歳のもとへと駆け寄り、必死に名前を呼んで声をかけたり身体を揺すったりしている。
動かなくなった千歳を見てナガトは刀を鞘に納め、後ろを振り向くと怠そうな声をあげながら伸びをしてイザナミのもとへと歩いていく。
「千歳、おい千歳!」
「千悟、どうにかならないのか!?」
「いまやってる、けど傷口にまとわりついてる魔力が邪魔しやがる!なんなんだこれは!?」
親が医者であり多少の心得もある千悟が千歳の傷口に治癒の属性を持つ魔力を流し止血と救急処置を試みてはいるが、千歳の傷口に触れようとする魔力をナガトの魔力が蒸発させてしまう。
「俺の出番は終わりかな、次はお二人さんだぜ。」
そしてナガトは鎧の男と着物の若者に声をかけると、二人は驚愕の表情で千歳たちの方を見ていた。そしてイザナミがナガトの後方を指差す。
「まだ終わっていない。」
「なに・・・?」
ナガトが振り向くと千歳が全身に黒い影を纏い立ち上がっている、胸の傷口で揺らめいているナガトの魔力も千歳の黒い影は呑み込んだ。千歳は何事もなかったかのようにただ気だるそうに伸びをして全身の骨を鳴らしナガトを睨みつける、その禍々しい視線にナガトは再び刀を構え睨み返す。
「なんだよ、さっきとは様子が違うじゃないか。御前本当に千歳か?」
ナガトの問い掛けに千歳はニヤリと口角を上げて微笑む。
『あぁ、私は千歳だよ。』




