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Starlog ー星の記憶ー  作者: 八城主水
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Panacea

 千晶が千歳たちと同じ小学校に通っていた頃、母親は重い病にかかってしまっていた。当時は科学者であった父親も自分の研究室に閉じこもり母親の見舞いに行くことも、幼かった千晶と顔を合わせることもなくなっていたという。


 幸いなことに手術と治療ができる医者が近くにおり、手術の日程も決まってひと安心した時にある事が起きた。


「親父が自分の発明品とやらをおかんに使いやがってな。」


 千歳と紗奈は衝撃を受けた。会合にまだ開賀家が参加していた頃、千晶の両親に会ったことはある。千晶の父親は科学オタクで当時幼かった自分たちにはわかるはずもない科学の話を熱心に語っていた変わり者だが愛妻家で常に妻を隣で支えていた。



「結果としておかんの病気が綺麗さっぱり消えちまってな。今じゃ退院して元々病気なんて無かったんじゃないかってくらい元気だよ。」


 それを聞いて千歳は安堵したが、千晶は浮かない表情をしている。まるで『ここからが本題なのだ』と言わんばかりに。


「重病を人体にかかるリスク無しに治せる、人類が永らく求めていたであろう万能薬だと親父は学会で発表した。学会の反応は冷ややかだったらしい、『重病患者である妻で人体実験したのか!』ってな。」


 結果が良好とはいえ発明品をいきなり人体に使用したとなれば、その学会の反応は自然といえば自然である。


「そんなこんながあって親父の発明品は結局日の目を見ることはなかった。親父は学会からも、俺たち家族の目の前からも姿を消した。」


「・・・っ」


 言葉を失う千歳と紗奈、千晶はただ淡々と語る。


「親父が蒸発して俺とおかんは西にあるうちの御隠居の家で世話になることになった、このことは千歳や千尋の祖父(じい)さんたちは知っている。」


「・・・はっ?」


 そんなこと今まで自分は、千尋や千悟も知っている様子はなかった。なぜ祖父たちが自分たちに知らせてくれなかったのか、それが不思議だった。


「俺は御隠居の家で世話になりながら御前たちに会いたい気持ちもあった。だが中学に上がった俺は開賀家の当主になるための英才教育ってやつを受け始めたんだ。次期当主として一人前になるまでは御前たちに会えないと思った俺は長門や有間の御隠居に俺の居場所を御前たちに教えないでくれと頼んだんだ。」


「・・・」


 千歳は言葉を失った、確かに千晶が西にいると聞かされればすぐにでも会いに行っただろう。しかし開賀家の状況は自分たちが考えるよりも深刻だったようだ。


「そんで今年の夏休みに入る前、開賀の御隠居に呼び出されてな・・・」


─────

───


「御隠居、千晶です。」


「おう、入ってや。」


 部屋の(ふすま)の前で千晶が声をかけると、部屋の主である開賀の御隠居が返事をして千晶を部屋へと招く。千晶は襖を開け、茶を(すす)っている御隠居の前に座る。


「それで御隠居、今日は一体・・・」


「ん、とりあえずこれ受け取ってや。」



 開賀の御隠居は床から茶封筒を取り、自分と千晶の間にある机の上に置く。千晶が丁重にそれを受け取り、開けると中には新幹線の切符が入っていた。


「今までようやってくれた思てな、3年生になったら受験やらでせわしないやろう。今年の夏くらい昔の地元に帰って親友たちと会うてきなはれ。」


 茶封筒に入っていたのは千歳たちが住む町がある東へ行く新幹線の切符だった、千晶は自分の心臓がドクンッと跳ね上がるのを感じた。


(せがれ)が突然おらへんようになってから自分は親友たちに会いたいのを我慢してようやってくれた。中学にあがっていきなり儂のとこに来てあんな話するものやさかいびっくりしたけどなぁ。」


 千晶の抱いた『次期当主として一人前になるまで親友たちに会わない。』という決意、それを聞いた御隠居が少し申し訳なさそうな顔をしていたのを千晶は覚えている。



「せやけど今の自分になら、安心してこの家を任せられる。そやさかい自分はもう"超"一人前やで、胸張って親友たちに会うてきなはれ。」


 そう言って開賀の御隠居はニカッと笑う。千晶は切符を両手で持ちしばらく見つめると、親友たちに会える喜びに笑みと涙がこぼれた。

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