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Starlog ー星の記憶ー  作者: 八城主水
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Pyramid

 魔力で製造した杖をクルクルと回し、鼻歌を歌いながら余裕の表情で少年は男の前に立っていた。少年の態度に男の怒りは遂に頂点に達し、千歳との戦いでは見られなかったほどの禍々しい影を全身に纏っていた。


 男のその姿に千歳は鬼恐山(おにおそれやま)で戦った(かい)が重なり、自分も加勢せねばと立ち上がろうとするがいつのまにか自分の手足が大量の砂に包まれており身動きが取れなくなっていた。


「ったく、休んでろって言っただろうが。」


 少年が呆れたようなため息をひとつつき、杖をひょいと動かすと魔力の砂が千歳を紗奈のもとへと運んでいく。


「っ!今のそいつは危険だ、一人じゃ勝てない!二人なら・・・」


「大丈夫だって、子供の頃から成長してんのは御前らだけじゃないんだぜ?千歳よ。」


 そう言って少年はニッと笑い、再び男と対峙する。紗奈のもとへと運ばれ手足の砂も解かれたので千歳が少年に加勢しようとするが、少年に桐江と呼ばれている女性に制止される。


「あの程度の敵であれば御心配には及びません。なにせ坊っちゃんは・・・」


「桐江〜、俺のセリフを取るんじゃないよ。」


 少年の声掛けに対し桐江は小さく微笑みながら一礼する、次の瞬間男の拳が少年の眼前に迫るが少年の杖の動きひとつで岩の壁が現れそれを防ぐ。


「あーすまん、お前の事はすっかり忘れていた。」


「ナメやがって人間風情が・・・!」


 男の声色はもはや人間のそれではなく、まさしく鬼としての本性を表した魁のようであった。少年は杖を動かしながらなにかを呟く、すると岩の壁が砕け散り岩の(つぶて)となって男に襲いかかる。男は咄嗟に影を使って防ぎ、反撃しようとするも目の前にいたはずの少年の姿が見当たらない。


「おい、上を見てみなよ。」


 少年は少し離れた場所で上を指差しながら男に声を掛ける、男だけではなく一同が上を見るとこの噴水広場が丸々潰せそうな程の大きさのピラミッド状の岩の塊が頂点を下に向けた状態で空に浮かんでいた。


「テメェ、いつのまにあんな物を・・・」


「俺と千歳が話してる間、アンタなにも攻撃してこなかっただろう?暇でさ。」


 『暇だったから』なんて理由で作れるスケールを超えているであろう物が空に浮かんでおり、その形状から少年があの三角形の塊をどうするかは容易に想像できた。


 男はすぐその場から立ち去ろうとするが脚が動かない、男が足元を見るといつのまにか男の両足が魔力の砂に埋められていた。男は必死にもがいているが膝から下が丸々砂に埋もれているので簡単には抜け出せない、少年は右手を上にかざしニヤリと不敵に笑う。


「お前には贅沢な墓標だろうがなんせ今日の俺は機嫌がいい、無礼講だ。遠慮なく受け取れ!」


 少年が右手を振り下ろすとピラミッドが男に向かって落ちてくる、男は逃げようと必死に身悶えしながら確実に迫ってくるピラミッドに対する恐怖から雄叫びとも言えるような断末魔をあげている。


 見るに堪えない光景に千歳は思わず視線を逸らし、傍にいる紗奈の両目を手で塞ぐ。桐江はただ立って目の前の光景を見つめていた。そしてピラミッドの頂点が男の眉間に突き刺さる寸前で少年が指をパチンと鳴らすと、ピラミッドは砂塵となり風と共に消えていった。男は恐怖のあまり口を開いたまま白目を剥いて失神していた。


「なんてな!さすがに親友(ダチ)や女の子に人の死に様は見せられんよ。」


 男の様子を見て少年はまるで喜劇を観たあとのように声をあげて笑う、そして戦いが終わるまで身を潜めていた朧が姿を現し男が死んでいないことに安堵していた。

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