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Starlog ー星の記憶ー  作者: 八城主水
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Comrade

 昼食を終え帰ろうとしていた二人だったが、千歳は周りを見ても自分たち以外に誰一人いないことに違和感を抱いていた。二人がいる噴水広場はこの公園の目玉スポットとも言える場所だ、ましてやこの暑い時期には子供たちがやってきて水遊びをしてもなにも不思議はないというのに。




 『人避け』───千歳の頭にそんな言葉が浮かぶ。


「まさかな・・・」


「そのまさかです、この辺りにだけ人避けの結界を張りました。」


 一言つぶやいた瞬間声をかけられ、周りを見渡していた千歳がバッと前を向くとスーツ姿の男二人組みが立っていた。


「はじめまして、長門千歳。私は(おぼろ)、天翁の使いでやってきた者です。」


「天翁の・・・!?」


 男たちがいつの間に、どうやっていきなり目の前に現れたのか、そんな千歳の疑問も天翁の名を聞いた瞬間にどこかへ行ってしまった。鬼恐山で一度だけ目にした事があるというだけで天翁という者の実態はわかっていない、しかし万歳(ばんさい)があれほど身構える人物なのだ、かなり強い力を持っているのだろう。


「ははは。どうかそう身構えずに、私や天翁はあなた達と敵対するつもりはありません、今のところはね。」


 そう言いながら爽やかに微笑む朧、もう一人の後ろにいる男はジャケットを脱ぎ照りつける日光の暑さに文句を言っている。


「天翁にあなたを連れてくるように言われております、ご同行願えますか?」


 朧は穏やかな表情で千歳に問いかける。天翁の部下と言えば魁が真っ先に浮かぶが、この朧という男は魁とは全く違う穏やかな雰囲気がある。


「天翁のところには魁がいるでしょう?俺は以前、奴の計画を邪魔したんですが・・・。」


「えぇ、その事については私も、もちろん天翁も認知していることです。その上で天翁はあなたを同志として我らの仲間に迎え入れようとこうして私を使いに寄越したのです。」


 朧の予想外な言葉に千歳は思わず『へ?』と間の抜けた変な声が出てしまう。


「同志?俺があんたらの?冗談だろ・・・。」


「天翁は無意味な冗談など決して言いません。あなたの力が、我らには必要なのです。」


 穏やかに、しかし朧はまっすぐ千歳の眼を見て言い放つ、その迫力に千歳はたじろぎそうになるが自分の後ろには紗奈がいる。千歳はぐっとこらえ朧と視線を合わせる。


「随分と天翁のこと慕ってるんだな。」


「えぇ、天翁は我らと志を同じくする同志(どうし)であり、盟友(とも)なのです。」


 そう言いながら朧は空を見上げ、輝いている太陽に目を細める。もう一人の男は暑さに耐えかねて日陰のベンチに座り込んでしまった。


「志・・・?」


「えぇ、いわゆる『世界平和』というやつです。」


 あまりにも不似合いな言葉に千歳は怪訝そうな顔をする、それを見た朧はただ微笑んでいた。


「今は理解できないでしょう、ですが天翁の思想や理想を聞けばあなたも私の言った言葉の意味が分かる。そして我らの行っていることが最善なのだということもね。」


 自信に満ち溢れた声色で語られる朧の言葉を聞いても、千歳の疑念は晴れなかった。世界平和を謳うのであればなぜ有間家を混乱に陥れる必要があったのか、そのために千尋や美琴が辛い思いをしたということを千歳はどうしても許せなかったのだ。


「あなたの言いたいことはわかります、魁のやり方は最善策ではなかった。彼は極度の人間嫌いでね、人間を陥れる方に頭が回ってしまう。」


 やれやれと言いたいげな様子で話す朧、その後ろからもう一人の男が気だるそうに歩み寄ってくる。


「朧さん、まだ終わんないんすか?暑いしもう強引に連れて帰りましょうよ。」


「突然訪れてきたのは我々だ、そんなことをして彼の警戒心を強めてどうする。」


 くだけた敬語で話す男に朧はあくまで穏やかな雰囲気を崩さず諭す、すると男はイライラした様子で千歳の方を睨む。


「暑いのは大嫌いなんだ、黙って早くついてこい。」


「悪いが俺はお前たちのことを信用できない、ついていく気はない。」


 千歳の言葉に朧は残念そうにため息をつき、男は青筋を立てながら拳を握り影を纏わせる。それを見た千歳は後ろにいる紗奈をどうこの場から安全に避難させるかということを第一に考え、周りを見渡す。その隙をつかれ男の影を纏った拳が頬にめり込み、千歳がふっとぶ。


 突然のことに紗奈は涙目になりながら倒れている千歳のところに駆け寄る、朧は先程までの穏やかさが無くなり怒りの形相で男を睨む。


「天翁は丁重に長門さんをお連れしろと言ったんだぞ!」


「別に殺しゃしませんや!連れていきやすいように気ぃ失ってもらうだけですわ!」


 そう怒鳴りながら男は千歳と紗奈の所へ歩み寄る、紗奈は倒れている千歳を庇うように自分の方へ抱き寄せる。男は心底めんどくさそうにしながら再び拳を構え、千歳と紗奈に向かって拳を突き出す。すると千歳が影を手に纏わせ、その手で男の拳を防ぐ。その様子を見た男はニヤリと笑った。


「俺の拳受けて気ぃ失わねぇとはそこそこ頑丈だな、人間のくせによ。」


「もっとキツいのをもらったことがあるんでね、それに比べりゃ全然さ。」


 全身に影を纏わせて立ち上がり、再び紗奈を後ろに下がらせながら千歳は男を挑発する。男は全身に影を纏い高笑いをしながら千歳に向かって拳を突き出す。千歳はギリギリで避け、カウンターで男の腹部に右の掌底を打ち込む。男は嘔吐(えず)きながら後ずさり片膝をつく。


(どういうことだ?今の俺のパンチ、決して遅くはなかったはず。どうしてあんなギリギリで避けて反撃ができる?)


 不思議に思いながら目の前に立っている千歳の顔を見て、男の疑問は解けた。瞳孔を中心として回転する黒輪、千歳の左眼は霊写しの眼を開いていた。それを見た男は怯むどころか一層楽しそうに高笑いをしながら千歳に向かって突進する。


 千歳は後ろで怯えている紗奈に『大丈夫』と優しく声を掛け、男に立ち向かっていく。

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