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Starlog ー星の記憶ー  作者: 八城主水
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Settlement

 千歳と千尋の両名は己の拳に魔力を込め睨み合っている。不自然に生えていた霜柱も、凍えるような気温の低さも千歳が意識を取り戻したと同時に収まった。


 いま戦っている二人はもちろんだが、それを見守る千悟も次の攻撃で決着だというのは雰囲気で感じていた。離れて見守っている美琴は手を合わせ、小さい声でひたすら千尋の名前を呼んでいる。



 睨み合い、息を整えていた二人は勢いをつけて地面を蹴り飛翔し、空中で拳を構える。



「千尋ぉぉぉ!!」



「千歳ぇぇぇ!!」



 そして二人が勇ましい雄叫びをあげながら拳を前に突き出すと魔力を纏った二人の拳がぶつかり合う。辺りに強い突風が吹き、強い静電気を思わせるような電流が走る。


 千悟と美琴は吹き飛ばされないように姿勢を低くしている。千歳と千尋の二人の拳は合わさったまま、お互いに力比べをするように拳を前に突き出し離そうとしない。


 しだいに二人の拳の辺りに大気の歪みができはじめ、『バチィ!』という音と衝撃波と共に二人は後方へものすごい勢いで弾き飛ばされる。


 千歳は影を、千尋は建御雷を身体に纏い着地の衝撃を和らげるがそれでもお互い数十メートル程は地面を滑走した。


─────

───


 身体中が筋肉痛のように痛む、両眼の瞼が重い。動けもしないし起き上がるのがやっとだろうと千歳が思っていると、足音が近づいてくる。


(まずい、千尋か・・・)


 千歳はすぐに重い瞼を上げて視界を開くと、そこには千悟が立っていた。



「・・・終わりか?」


 千悟の言葉を聞き、千歳は上げた瞼をまた閉じる。



「あー・・・もう、気力がないわ」


 と、ぼやきながら手足を開き大の字になって地面に寝転ぶ。



「・・・千尋は?」


「お前と同じだよ、立ち上がる感じはないな」


 千歳の問いかけに千悟は千尋の方を見ながら答えると、千歳は『そうか』とため息をつく。そして再び目を開け、立ち上がろうとするが脚に力が入らない。


「千悟、頼みがあんだけど」


「ん?」


「肩かしてくんない?」


 千悟は小さく微笑み千歳の手を引くと自分の肩に回し千歳の身体を担ぐ、そして倒れている千尋のもとへ一緒に歩き出す。


─────

───


 筋肉痛のような全身の痛みに苛まれながら、聞こえてきた足音に千尋は体に鞭を撃ち上半身を起こす。そこには美琴が座り込んでおり、目に涙を浮かべながら千尋を見つめている。


「美琴さん・・・」


「・・・」


 千尋が名前を呼ぶと美琴は黙って俯く、その様子を見て千尋は千歳が倒れていないことを悟り、千尋も俯く。


 そこへまた足音が聞こえ、千尋が顔を上げると千悟に肩を支えられて立っている千歳の姿があった。


「千尋・・・」


「千歳・・・」


 お互いに名前を呼び合い、しばらく沈黙していると千尋が口を開く。



「俺の負けか」


「・・・は?」


 口惜しげな千尋の言葉に千歳は唖然とする。


「俺は地面に倒れてて、お前は立っている・・・そういうことだろ。俺は有間を裏切ったんだ、今更命乞いなんてしない。」


「おいちょっと待て、千尋。俺は別に・・・。」


 千歳がなにか言おうとするも美琴がガバッと千尋を庇うように抱きしめ、涙目で千歳を睨みつける。


「千尋は、私のためにこっち側に来ただけなんだ。私のせいなんだ、だから千尋を殺すなら・・・代わりに私を・・・。」


「美琴さん!決めたのは俺だ!あなたがそんなことをしたら、俺が魁に加担した意味が・・・!」



 お互いのために言い争う千尋と美琴を前に、千歳は『はー』と呆れ気味にため息をつく。


「あの、二人とも・・・俺は別に千尋を殺すつもりなんてないけど?」



 千歳の言葉に千尋と美琴の二人は、きょとんとした表情で千歳を見る。


「でもお前は、うちの祖父さんに頼まれたって・・・!」


「だから、俺はお前を『止める』ように頼まれただけだっての。」


 千尋はふと思い出す、祖父の性格であれば『殺せ』と直接的な表現をすることを。そもそもそういう時は祖父自らが自分の所に来ることも。



「あと、なんか『負け』とか言ってたけど、俺だって千悟に肩かしてもらってやっと立ててるんだよ。だからお前が自力で立ち上がれたら、お前の勝ちだよ。」


 その言葉を聞き、千尋は一瞬立ち上がろうとしたが美琴の悲しい表情が目に映る。自分が誰のために戦っていたのかを思い出した千尋は再び地面に寝転んだ。


「じゃあ・・・引き分けってことにするか、千歳。」


千尋の言葉を聞き、千歳は地面に座り込む。


「あぁ、お前がいいなら、それでいいよ。」


 お互いに笑い合う千歳と千尋、二人の勝負は初代の二人同様、引き分けという形で幕を閉じた。

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