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Starlog ー星の記憶ー  作者: 八城主水
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有間と長門 Ⅴ

 普段であれば閑静な鬼恐山は戦場と化していた、万歳の加具土命に対し(かい)は攻撃を避けるか影で壁を張り防いでいるが、反撃をする素振りは見せなかった。


「どうした魁よ、守ってばかりでは儂を倒せんぞ!?」


「ご心配には及びません、あくまで私はご隠居を倒すつもりではありませんので」



 そう言いながら不敵に笑う魁、万歳はそれを不気味に感じる。



「前からそうであったな、お前は気が利くがなにを考えておるのか掴めぬ男であった。この度の件でもそうだ、千尋をどうやって説き伏せた?」


 万歳はずっと気がかりであった、千尋が美琴に惚れ込んでいることは知っている。だからこそ彼女の望むようにしたいというのはよくわかる。


 だが、どう考えてもこの計画に『美琴のため』とはいえ千尋が賛同する理由が見当たらない、千尋であれば逆に美琴を説き伏せてこの計画を止める側につくだろう。


 そう考えていた万歳は魁に問いかけると、魁は『ふむ』と少し考える。


「まぁ・・・よいでしょう、千尋さんが長門千歳を倒せば終わる契約ですから」


「契約・・・?どういうことだ」


 万歳の問いかけに魁は右手の親指と中指の指先をくっつけた状態で上に掲げる、いわゆる指パッチンの形だ。


「もし千尋さんが我らに賛同しなかった場合、私が榊さんに殺意をもってこの指を弾き彼女に取り憑いた異形に合図をすれば、彼女の首と胴体は別れる。そういうものです」


「なんだと?では千尋は・・・」



 魁は説明をすると右手を下ろす、万歳は拳を握りしめわなわなと震えている。


 わかってはいた。もし万が一、千尋が美琴を人質に取られれでもすれば抵抗できないことは。


 だがそれだけに、千尋の美琴への愛情の深さを利用されたことはとても耐え難く、万歳は怒りを抑えられなかった。


「千尋さんも最初は賛同されませんでした。ですが彼女に取り憑く異形の姿を見せただけで、彼は私たちの仲間になったわけです。見ものでしたよ、あの千尋さんの血の気が引いた表情ーーーーー」


 次の瞬間、万歳の加具土命の炎を纏った拳が鬼山に向かって突き出される。鬼山はそれを辛うじて避け、後方へ跳んで距離をとる。


「もうよい、魁。もう喋らんでよい。もはや言葉は不要だ・・・」


「そのようですね・・・」


 憤慨した万歳を目の前にしても魁の顔から笑みは消えず、ただ不敵に笑う。


─────

───


 千尋の拳を受け吹き飛ぶ千歳、一瞬千尋の姿が消えたと思ったら顔面に衝撃が走り自分が吹き飛んだ、そんな感覚だった。


(くそ、スピードもパワーもデタラメ過ぎる・・・!)


 千歳は立ち上がり口の中を切ったのだろうか口端から漏れた血を手で拭うと、目の前に千尋が現れ蹴りを繰り出す。


 千歳は避けるも千尋が空振りした脚を地面に着け、それを軸にして逆の脚で千歳に蹴りを繰り出す。あまりの速さに千歳は木刀を両手で持ってそれを防ぐが今度は脚を振り抜かれ、千歳はまたもや吹っ飛ぶ。


 千歳が体勢を立て直そうとするがもう背後に千尋が回り込んでおり拳を突き出してくる、千歳はなんとか(かわ)し後方へ大きく跳び距離をとるが、千歳に息をつく暇を与えることもなく千尋はすぐに距離を詰め猛攻を仕掛ける。


 拳を避けたと思えば蹴りが、蹴りを防いだと思えば背後に回られまた蹴りが・・・と、霊写しの眼の動体視力でもギリギリ見切れるかどうかの速度で重い打撃を千尋は千歳に連続で繰り出す。


 そして千尋の雷を纏った左の拳を木刀で防ぐと、千尋が声をあげながら拳を振り抜く。すると千歳の持っている木刀が折れ、稲妻と共に吹き飛んでいく。




 千尋の雷の魔力の残滓か、『パチ・・・バチ・・・』と音を鳴らし千歳の身体に稲妻が走っている、折れた木刀を手に持ち千歳の意識も朦朧としている、そこへ千尋がゆっくりと歩み寄る。


 纏っていた建御雷の雷も解いたのか、立ち上がれずにいる千歳をただ見つめている。そして千尋は深くため息をつき、千歳の名前を呼ぶが千尋の言葉に千歳は反応を示さない。どうやら気を失ったようだ。千尋は建御雷を発現し、左の拳に雷を纏わせ構える。


「千歳、お前たち親友を殺してでも俺は・・・美琴さんを守る!」


 そう言い放ち千尋は左の拳を千歳に向かって突き出すと、背後の建御雷の拳が千歳に迫る。すると突然、千歳の身体からどす黒い影が溢れ出て建御雷の拳を防ぐ、千尋は目の前の光景を信じられずにいた。


 今さっきまで、自分の言葉にも反応せずただぐったりと倒れ込んでいた千歳が立ち上がり、身体をぷらぷらと動かし骨をコキコキと鳴らしている。そして最後にひとつ伸びをするとゆっくりと千歳が千尋の方を向く、すると千歳から溢れ出る黒い影が段々と形を成していきそれは黒い龍となって千歳の背後にいる。


「お前は・・・千歳なのか?」


 睨み合う千歳と千尋、千歳の眼差しに違和感を覚えた千尋の問いかけに千歳が小さく微笑む。


『あぁ、私は千歳だよ』

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