長門と有間 Ⅲ
千歳と千尋はお互い笑みを浮かべながら睨み合う、二人の表情とは裏腹に周りにはピリピリとした空気が漂い千尋を傍で見守る美琴は思わず息を飲んだ。
そして二人がお互い地を蹴り二人の初撃が繰り出されそうとしたその時、銃声がひとつ鳴り響き咄嗟に二人は脚を止める。
「おいお前ら、俺がいねぇっつのになーに始めようとしてんだ。」
声の方を向くとそこにはバイクに跨りゴーグルを額にかけた千悟がリボルバー銃を構えていた。
「千悟・・・」
千尋が後ろめたいような声色で千悟の名前を呼ぶと、千悟は『ふっ』と笑いながら右手に持っているリボルバーをクルッと1回まわす。
「勘違いすんなよ千尋、別に俺はお前を責めに来たわけじゃねぇ。ただ初代でも二代目でも、有間と長門の決闘を見届けてるのは狭間なんだよ。」
「・・・そうだったな。」
千尋の反応を見たあと千悟は千歳の方を見る。
「まあ、千歳が俺の助太刀が必要だってんなら・・・」
「いらんいらん。」
千歳の言葉にも『だよな!』とにこやかに笑うと千悟はリボルバーをしまい、跨っていたバイクから降りて腕を組んで立ちながら千歳と千尋の二人を見ている。千尋は美琴を戦いに巻き込まないように離れた場所に行かせ、千歳と再び向き合う。
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場所は変わり鬼恐山の屋敷前、魁の部下達と万尋たちの戦闘が行われているなか、万歳と魁は向き合い睨み合っている。
「魁、なぜお前はそこまで千歳を、長門を嫌う?」
万歳の問いに魁は小さく微笑みながら眼鏡を外し胸ポケットからハンカチを出してレンズを拭く。
「単純に、弱く無能な人間が嫌いなだけです。それが敬愛する有間の『友人』だと戯れ言を言っているのであれば、なおさらです。」
そう言いながら魁は眼鏡をかけ直し、指でクイッと押す。
「逆にお聞きします、ご隠居。なぜあの長門千歳をそこまで信用できるのです?」
「さっきも言ったろう、あやつが千尋の親友だからだ。そして儂の名前を一文字でも継いでおるのだ、このくらいやってもらわねばな。」
万歳の言葉に思わず魁は一瞬、顔を顰める。だがすぐに表情を戻し、不敵な笑みを浮かべながら魔力を身に纏う。
「ではその信頼が間違いだということを、僭越ながら私がご教授させていただきます。」
「若造が、儂に説法など十年どころか三、四十年早いわ。『加具土命』!」
万歳が号令をかけると紅い炎が燃え上がり、その炎は万歳の背後に鬼のような、仏ともとれるような姿を象る。
これが万歳の神性体質の能力、千尋は雷の神である建御雷を宿しているが、万歳は炎の神である『加具土命』を身体に宿している。厳かでありつつ神々しい光景に鬼山は『素晴らしい』とただ不敵に笑っていた。