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Starlog ー星の記憶ー  作者: 八城主水
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長門と有間 Ⅱ

 鬼恐山に建てられた屋敷に玄信が運転する車が着いた頃には既に万歳たちが立っており、万歳が千歳の顔を見ると安堵の笑みを浮かべる。


 すると屋敷から黒服の者達と共に魁が姿を現す、魁は万尋や万歳の両名を見ても特に慌てるようなこともなく余裕そのもの。そして千歳の姿を見つけると口角を上げニヤリと笑う。


「長門千歳!」


 魁に名前を呼ばれ千歳は思わず身構える。が、魁は黒服の男達に道を開けさせると顎でクイッと誘導する。


「千尋さんはこの先の谷にいらっしゃる。我らが真の有間と長門、因縁に決着をつけるといい。」


 魁の言葉に千歳は無言で返し、魔力を脚に纏わせて黒服の男達が開けた道を走ろうとすると、万歳が千歳を呼び止める。


「千歳、千尋のこと・・・よろしく頼む。」


「・・・はい!」


 万歳の言葉に千歳は力強い声で返事を返すとあらためて道をしっかり見据え、全力で走り出す。その姿に万歳は頼もしさを感じ、思わず笑いが込上げる。


「あの長門千歳に『頼む』などと、有間はそこまで落ちぶれてしまったのですか?ご隠居。」


「お前こそ千歳を侮り過ぎだ、魁。あやつは千尋の友だぞ?頼りにするには十分過ぎるわ。」


 魁の挑発じみた皮肉に万歳も皮肉で返すと魁は右手を空にかざし、『かかれ』の号令と共に右手を振り下ろす。すると周りの黒服達が万歳たちに向かって雄叫びをあげながら走り出す。万歳はもちろん、万尋や玄信、道雪や万歳の部下達も戦闘態勢に入る。


─────

───


(俺と千歳も、二代目のようになってしまうのだろうか・・・)



 魁に案内された谷で、滝を見つめながら考える千尋。傍らでは美琴が心配そうな顔で千尋を見つめている。そんな美琴の様子に気づかないほど千尋は己の状況を重く受け止めているのだ。


 千歳にどういう顔で、どういう心境で会えばいいのかわからない。この状況で『いつも通り』なんていくわけがないだろう、千尋は十分理解していた。だからこそ滝を見ながらなにか『言い分』を探しているのだ。


 そんな千尋に美琴はかける言葉がみつからない、本来なら千尋は魁からの誘いを断ることも出来たのだ。だけどそうしなかった、自分のせいだ。千尋の拳で万歳が傷を負った時、美琴はこの状況の重さを理解した。自分はただ万歳に、有間のご隠居に自分は千尋の嫁に相応しい女だと、そう認めてもらいたかっただけなのに。


 美琴は千尋の左手を両手で握り、千尋の目をまっすぐに見つめる。


「千尋、今からでも戻ってご隠居に頭を下げよう。こんなこと、千尋がやる必要はない。」


「美琴さん・・・」


 千尋はただ言葉を聞くことしかできなかった、美琴の頼みならと、千尋はすぐにでも万歳のところへ戻り頭を下げに行きたいだろう。だがこの計画を完遂しなけれならない理由が千尋にはあるのだ。


「俺は美琴さんのためなら、親友だって殺す。」


「千尋!そんなこと・・・!」


 美琴が感極まり千尋に抱きついた時、黒い人影が二人の目の前に現れる。黒い影が晴れその正体があらわになると、そこには千歳が立っていた。


「あー・・・っと、悪い、お取り込み中だったか?」


 千歳が気まずそうに声をかけると、千尋はさきほどまでの悩みや考えがどこかへ吹っ飛んだのか小さく笑う。


「構わねぇよ、俺とお前の仲じゃねぇか。」


「そうか、お前たちを連れて帰るように有間のご隠居に頼まれてんだ。一緒に帰ろうぜ。」


 そう言いながら来た道を戻ろうと千尋に背を向ける千歳、それを見た千尋は美琴を自分から離れさせ左手の拳に雷を纏い、構える。


「悪ぃ、千歳・・・。」


 千尋が静かにつぶやきながら千歳に向かって拳を突き出す、千歳はそれをわかっていたかのように躱し、千尋と距離を取る。


「やっぱ、戻れねぇのか。」


「・・・あぁ。」


 千歳は『はー』とため息をつくと、包んでいた布を外した木刀に黒い影を纏わせる。


「こうなるんじゃねぇかなとは思ってはいたよ、俺がお前の状況でも多分同じことをするだろうしな。けど俺も『あの』有間のご隠居に頼まれてここに来たんだ、嫌でも一緒に戻ってもらうぜ。」


 千歳が木刀を構えると千尋も拳を構え、ファイティングポーズをとる。


「そうか、なら・・・遠慮はいらねぇよな?千歳。」


 千尋の問いかけに千歳は黒い影を全身に纏いながらニヤッと笑う。


「いらねぇよ、俺とお前の仲じゃねぇか。」

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