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Starlog ー星の記憶ー  作者: 八城主水
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Cheers

 翌朝、見送りのために屋敷の外にまで出てきてくれた椎名夫婦から変な気を遣わずにまたいつでも来いと言葉を掛けられた千歳(ちとせ)は『はい』と頷き、神酒円(みきまる)町へ帰るため紗奈(さな)と一緒に椎名(しいな)家の屋敷を離れて近くのバスターミナルからバスで中部の駅に着くと新幹線に乗り継いだ。


 車内で眠っている紗奈の隣で評議会に入る旨を伝えるメッセージをRAIL(レール)千晶(ちあき)へ送ったあと田舎を巡った疲れから返信を待っている間に自分も眠ってしまいその間にも返事が送られてくる事はなかった。そして新幹線が都内の駅に到着した頃に起きた2人は行きと同じく(かえで)の運転する車に乗って神酒円町へと帰ってきた。


「紗奈ちゃん気をつけてね、って言ってもお隣さんだけど」


「おばさん、ありがとうございました。またね、千歳くん」


「うん、また─────」


 行きと帰りで送ってくれた楓に紗奈はお礼を言って手を振りながら帰宅した。千歳も母と一緒に家に帰ってすぐ2階に上がって部屋のベッドに倒れ込むと強烈な眠気に襲われ、スマホの時計を見て少し寝ようかと思ったところにRAILの通知音が鳴る。


『お前本気なのか?』


 明らかに動揺しているであろう千晶からのメッセージが届いており眠気がどこかへ飛んでいった千歳は昨夜、父と話した事も合わせて本気であると伝えた。すると直接会って話がしたいと予定が空いている日を訊ねられ、結月大社(ゆづきおおやしろ)で夏祭りが開催される週末を提案した。


『わかった、それなら土曜日の朝には関西を出よう』


『道中気をつけてな、また週末に会おう』


 それ以降のやりとりはなくメイドの桐江(きりえ)を呼んだ千晶は週末に神酒円町へ出向くと伝えて家族からも了承を得ることができた。その際、なにやら焦燥に駆られている息子の様子を不思議に思った父、(すすむ)から理由を聞かれ、一瞬言うのを躊躇った後に千歳が評議会に入るかもしれないと告げる。


 そもそも評議会とはどういう組織なのか、驚く父にも訊ねてみたがかつて所属していたといっても天翁(てんおう)や同志以外のメンバーとの面識はなく研究に明け暮れる日々を送っていたため彼自身にもその実態は不明、少なくとも人間のクローンを生み出せるという時点で()()()ではないだろうと話す。


 無論それは千歳も承知のはず、果たして自分が納得するほどの理由でもあるのだろうか。親友の意図を読めないまま土曜日を迎えた千晶が()()の桐江と一緒に新幹線とタクシーを乗り継ぎながら懐かしの地元に到着すると長門(ながと)家を訪れ、インターホンを鳴らして開いた扉から出迎える千歳の母は10年振りに会った顔を覚えていた。


 リビングでは大学生の桐江に教えられながら双子姉妹が夏休みの課題に取り組み、一方千歳と千晶、そして今さっき来たばかりの千尋(ちひろ)千悟(ちさと)が隣の応接間に集い再会の挨拶もそこそこにさっそく本題の話に入る。


「いきなりで驚いたけどよ千歳、評議会に入るってどういうことなんだ?」


「RAILでも伝えた通り、評議会の新しい議長に誘われたんだ。信頼できる人だから心配ないさ」


 伊邪奈美命(イザナミノミコト)、そして天翁とある意味この中で一番評議会と因縁の深いであろう千歳がこうも平然と言い切れるのはその新議長をよほど信頼しているからなのか、それとも─────


「あの龍災(りゅうさい)で天翁と戦った時、なにかあったのか?」


 と、核心をついてきた千尋に千歳は言葉を詰まらせるが彼らを納得させるためには話さなければならない、今日ここに親友たちを集めたのもそのためだった。


 空間の裂け目の向こう側に広がっていたのは地球から離れた月に展開された"聖域"と呼ばれる領域、そこで自分は(おぼろ)や初代長門と有間(ありま)を含む何者かの協力を得ながら天翁のもとへ辿り着く。しかしいざ戦ってみれば力の差は歴然、手も足も出せず万事休すかと思ったところへ突然現れた二代目長門、結月(ゆづき)に助けられ、同時にそれまで謎に包まれていた天翁の正体がわかったと千歳は二代目有間家当主、継陽(つぐよ)の名を親友たちに告げた。


 星の未来を託して消滅した結月の意志を引き継ぎ、戦いの後に崩壊を始めた聖域の中で彼からも託された。因縁があったはずの2人から託された思いに対する"答え"を出せないまま平和な日々を過ごしていたそんな時に手掛かりを掴むきっかけをくれたのが評議会の新しい議長だったと、たとえ日陰者になるとしても自分は変わらないと思いを打ち明けた。


「千尋、天翁の正体を一番最初に伝えるべきだったのに黙っていて悪かった・・・」


 そう言って頭を下げようとする千歳を『やめろ』の一言で制止した千尋は天翁の正体については以前からなんとなく気付いてはいたという。


「いったいいつから・・・?」


「幼い頃からちょくちょく祖父さんと一緒に会ってたんだが、どうも他人のような気がしなかった。俺のクローンに乗り移って目の前に現れた時にそれが確信に変わった、お前が謝る必要はないんだ・・・」


 それから千尋は千歳の思いと覚悟を尊重する姿勢を示しながらもかつて自分を救ってくれた親友が自ら邪の道に逸れようとしているのを見過ごすことはできなかった。


「卒業式の後、鬼恐山(おにおそれざん)で俺と立ち合え、千歳─────」


「わかった、それでお前が納得するのなら俺には受けて立つ義務がある」


 こうして卒業式の日に決戦の約束を交わした千尋は夕方頃から家の付き合いがあると帰り支度を始め、結月大社の祭りには参加できないがその前にまた美琴(みこと)と一緒に顔を出すと言って長門家を後にする。間もなくして千悟も卒業後はNEROへ入隊するという意思を告げ、恋人の(みお)とのデートのためお暇した。


 そして桐江が夕方から合流するはずだった紗奈を呼び出して再会を喜び、いつの間にそんな仲良くなったんだと聞かれた際には─────


「去年遊びに行った文化祭の時に友情を育んだんです〜」


「「ねー♪」」


 と、意気投合した様子を見せる。夕方になる前には再び千尋が長門家を訪れ、同郷の親友である美琴ともほんの少しの時間ではあるが再会を果たして千歳たちは双子姉妹を連れて祭りが行われている結月大社へと向かった。


─────

───


 友達と待ち合わせをしているという双子姉妹と会場の入り口で別れ、人混みを潜りながら屋台を回った千歳たち4人は境内の隅に座りラムネで乾杯した。成人したら一緒に酒を飲もうと仲睦まじく会話を繰り広げる紗奈と桐江の隣で千晶は自身がNERO(ネーロ)の関西支部へ入隊することを千歳に告げた。


「マジ?じゃあ父さんの後輩になるのか」


「支部は違うけどそういう事になるな、まあ正式な入隊は大学を卒業した後になるんだけど。あとは祖父さんがその真田(さなだ)さんて支部長の前任者だったみたいで最初は難色を示してたんだが大学の学費を負担してくれるって話を聞いた途端乗り気になってさ─────」


 それから以前、家族が世話になっていた長門家の者に直接お礼を言いたいらしく、関西へ会いに来てほしいという祖父からの伝言に快く頷きながらも開賀(ひらが)の御隠居とは会ったことがなく有間の御隠居のような厳格な御老人を想像する千歳にどちらかといえば長門の御隠居に似てるかもと気楽なイメージを抱かせた。


「にしても、千歳の家は昔とあまり変わってなかったな」


「覚えてるか?俺の部屋で夜更かししてたら母さんにバレて怒られたの」


「ふっ、覚えてる覚えてる、なにせおばさんが怒ってるとこ見たのあの時が初めてだったからな」


 ふと花火が打ち上がり始めた夜空を見上げ、共に過した幼少の頃の思い出を語り始める。当時寂しい思いをしていた自分を優しく迎えてくれた両親やまるで兄のように慕ってくれた双子姉妹、長門家の人たちに千晶は"感謝"という言葉では言い表せない恩義を感じていた。そして幼少期を最も長く共に過した千歳に対して芽生えていたどこか兄弟のような情、その本心を今になって見出す。


「─────千歳、10年も会ってなかったが、俺にとってお前はただの親友ではなく兄弟のようなものだ。成人したら兄弟分の盃でもかわそうか」


「なに言ってんのさ、"盃"なんていつでもいいじゃねぇか。ほれ─────」


 そう言って千歳がラムネの瓶を掲げ、『なるほど』と同じように千晶もラムネを持った手を差し伸べると甲高い硝子の音が鳴り、それを乾杯の音頭として一気にラムネを飲み干した。成人した2人はあらためて酒を酌みかわすことになるのだがそれはまた未来のお話─────

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