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Starlog ー星の記憶ー  作者: 八城主水
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Remember

 各支部長や本部長である玄信(はるのぶ)の決議が受理された翌日には政府が会見を開き、遥か昔に自分たちの住むこの人間界から消えたとされてきた妖怪や物の怪の類が現代においても実在することを国民に公表した。テレビやネットのニュース、新聞や雑誌などでも報道され、紫ヶ丘(むらさきがおか)を襲った災害は過去に倣い"第二次龍災(だいにじりゅうさい)"と呼ばれるようになった。


 それに伴って玄信たちが所属する|超常自然現象及災害対策室《ちょうじょうしぜんげんしょうおよびたいさくしつ》も表立って正式な自衛隊の組織となり"Natural(ナチュラル) Expert(エキスパート) and(アンド) Research(リサーチ) |Organizationオーガニゼーション"、イニシャルをとって"NERO(ネーロ)"と名を改めた。


 局員たちには組織から深緑色のバッジが貸与されていることからいつしか"グリーンバッジ"とも呼ばれるようになり、超常自然現象が起こった際にはこのグリーンバッジ所持者、つまりNERO局員の主導で現場検証を行わなければならないと定められた。


 紫ヶ丘に蔓延する瘴気の鎮静化、及び街の復旧のためNEROは各支部から人員を投入して本来ならば3ヶ月は掛かったであろう全行程を1ヶ月半で完了させ、さらに各支部の長たちは担当地域にて演説を行い、国民の守護を約束すると同時に志ある者の入隊を呼び掛けた。


 こうしてまだまだ完全にとはいかずとも着実に復旧は進み、休校状態が解除された酒蔵(さかぐら)高校は少し日にちを遅らせての夏休みに入ろうとしていた。そんな終業式の放課後、帰り道で今年の夏休みは祖母のもとを訪れようとしている紗奈(さな)から都合のいい日にちを訊ねられるが正月に続いて夏にまで同伴することに千歳(ちとせ)はどこか遠慮がちな反応を見せ、不満気に頬を膨らませる彼女に慌てて行きたい意思はあるのだと言い繕う。


 帰宅してからもリビングにいる母に相談してみるが返ってくる答えは自分と同じ、部屋のベッドに寝転んで此度の同伴はやはり遠慮する旨を紗奈に伝えるメッセージをスマホで打ち込んでいたところに椎名(しいな)さんからの電話だと呼ばれてリビングへと戻り、母から受け取った受話器を耳に当てて"もしもし"と呼び掛けてみる。


『おぉ千歳かい?久しぶりだね』


「っ!?はい、ご無沙汰しております!」


 電話の相手は椎名の奥方、驚きのあまり飛び出しそうになった悲鳴を呑み込んで挨拶を述べる。なんでも孫娘から先程の会話を伝え聞き、こうして電話をしてきたのだとか。そして子供が似合わない気を遣うものではないと奥方からも招待された千歳は母の顔をチラッと見て戸惑いながらも素直に頷き、電話を代わった楓にもなにやら和やかな雰囲気で了承を得られたようだった。


 日程なども決まって最後に奥方がその前日に境目(さかいめ)町の村長である古茶(こちゃ)の家へ行って土産を受け取ってほしいと頼んで電話を切る。予期せぬ出来ごとに呆然としながらスマホを取り出して打ち込んでいた文章を消去し、一緒に行けるようになったという旨のメッセージを送信すると紗奈からの嬉しそうな返事と共に送られてきたスタンプに千歳も微笑んだ。


─────

───


 そして訪れた出発の前日、すっかり慣れた境目町の道程を軽快な足取りで歩いて古茶の自宅を訪れ、この村で造られたという土産の日本酒を受け取った。大人になったら飲みにおいでと見送られた千歳は帰りの道中で結月大社(ゆづきおおやしろ)の前を通り掛かり、まるで引き寄せられるように入った誰もいない境内で()()()()の面影を探す中ふと長門(ながと) 結月(ゆづき)の名が彫られている石碑を見つける。


 不思議な事に没年が印されておらず岩肌を撫でても浮かび上がってこないし何も起こらない。彼女たちから託された星の未来、自分だけが(たちばな) 若葉(わかば)という女の子の存在を覚えているという事実に対しての答えを未だに見つけられていない千歳は結月の名前をもう一度そっと撫でて深いため息を洩らす。


「あらあら、そないなとこでなに途方に暮れてはるん?」


 背後からの聞き覚えのある訛りと声に振り向くとそこに立っていたのは巫女装束の日輪(ひのわ)だった。


「久しぶりやね、千歳はん」


「日輪・・・さん?え、なんで・・・?」


 こうして顔を見合わせる事はもうないのだろうと覚悟していた、奇跡とも言えるこの出会いに呆然とする千歳に彼女は以前と変わらぬ様子で微笑みを浮かべる。


「どしたんその顔?いや当てたるわ、大方私も若葉と一緒に()()から抹消されたとか思うてたんやろ?」


「なんでそれを・・・というか、まさか若葉ちゃんの事を知ってるんですか?」


「当たり前やんか、あの娘に"橘 若葉"としての人生をあげたんはウチなんやから─────」


 永い旅路の中で精根付き果てた結月を拾い、もうひとつの人格を与えたのだと彼女ははっきりそう言った。それも気まぐれだと、信じ難いその言葉に警戒心を抱く千歳を見て"おっと"とわざとらしく口に手を添える。


「そないに身構えんといてぇな、敵か味方か、それはあんさん次第やけど・・・」


「・・・どういう事です?」


「単刀直入に言うわ、千歳はん─────評議会に入らへん?」


 刹那、二色の魔眼に睨まれたとしても不敵な笑みを崩すことはなく、伊邪奈美命(イザナミノミコト)が評議会を去ったことにより内部では空席となった序列第1位、つまり"議長"の座を巡って派閥同士での抗争が起ころうとしている現状を話す。


 今までその動きがなかったのは序列第2位の天翁(てんおう)が議長代理として均衡(バランス)を保てていたからに他ならず、その戦火が一般人の暮らす人間界にまで及ぶのを阻止するべく日輪はある権限を行使して議長になったのだとか。


「一体どんな手段を?」


「ほらウチらって一応、()()()()()やさかい」


「あぁ、イザナミの─────・・・娘っ!?」


 ちなみに妹の月詠(つくよ)も同様にイザナミの娘だと告げられ、千歳は驚きを通り越して唖然とする他なかった。話は戻ってそんな生い立ちでありながら新参者の彼女が議長の座に着くことに不満を抱いている古参メンバーは多く、そこで共に戦ってくれる仲間、同志として千歳を勧誘しに境目町まで来たのだと言う。


「話はわかりましたけど、どうして俺を・・・?」


「あら、こっち側ではあんさん偉い有名人やで。なんせ都市伝説に等しいとまで言われとる星神(ほしがみ)に遭遇して生き残ったどころか倒してまうんやから。千歳はんがウチの仲間になってくれれば他の連中も黙るやろ思ってな」


 評議会、その名を聞いてまず思い浮かぶのはイザナミと天翁、因縁浅からぬ彼女らと同じ組織に自分が入るなど想像すらしていなかった。そんな様子を見て日輪がふと"もしかして"と呟き、そっと()()()()を耳打ちすると千歳は驚愕の表情を浮かべる。


「・・・本当なんですか?」


「妹の名に誓って千歳はんに嘘は言わへんよ」


 確かにこの状況で日輪が嘘を言う理由などなく、その言葉からしても真実なのだろうと確信を得ると同時に決心した千歳に彼女は今すぐ返事をくれなくても構わないとまた悪戯っぽく笑った。


「もともと千歳はんには高校を卒業してから入ってもらお思っててな、それまでぎょーさん悩んだらええわ。ほなウチはこれにてどろん〜♪」


 そう言ってこの場を去ろうとした際に"あっ"と振り向いた日輪に呼ばれ、この境目町が"旧酒蔵(さかぐら)"と呼ばれる程に昔の面影を残しているのは先祖の思いを継いだ人々が今でも長門(ながと) 結月(ゆづき)の帰りを待っているからだと知らされる。しかしついこの間まで彼女が生きていた事もこの世から去った事も憶えているのは自分たちだけ、自分たちだけは若葉の事を忘れずにいようと互いに誓う。


「─────えぇ、忘れませんよ。一生。」


「ふふん♪ほな、()()()〜」


 まるで神隠しにでも遭ったかのように日輪が忽然と姿を消し、境内に再び1人となったがその心は先程よりも軽く晴れやかだった。もしかしたら結月が自分と日輪を引き合わせてくれたのかもしれない─────そう思いながら千歳は彼女の名前が彫られた石碑を撫で、"また来るよ"と結月大社を後にした。

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