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Starlog ー星の記憶ー  作者: 八城主水
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 |超常自然現象及災害対策室《ちょうじょうしぜんげんしょうおよびたいさくしつ》の会議に突如として訪れた長門(ながと) 万尋(まひろ)、その背後から受付にいたはずの女性が慌てた様子で声を掛ける。


「お客様、こちらはただいま緊急の会議中でして関係者以外の立ち入りは禁じられています─────」


「だーからさっきからその関係者だっつってんだろうがよ、長門 万尋の名前で検索してみろい!」


 おそらく制止も聞かずにここまでやって来たのだろうと理解できた玄信(はるのぶ)は尚もうろたえている受付嬢にジェスチャーで大丈夫なことを伝え、この場から退出させるともうひとつのモニターを起動して万尋の前に表示させた。


『ほお・・・こら懐かしい、局長の座から退いたアンタが今更こんなとこにどないなさったんでっか?』


「残念だったな、俺にはまだ"大目付"っていう役職があるのさ。今朝方、有間(ありま)から国のお偉いさんが来たって電話があってな、この前の事も含めて国民に報せるにあたってのなんか色々を教授したんだと。ほんで各支部長たちを集めての会議があるなんて聞いたもんだから慌てて駆けつけたってわけよ」


 そもそも万尋がここまで堂々と来れたものも玄信の前任者だったがゆえであり、同期の尼子(あまご)以外の支部長たちにとっては大先輩にあたるが関西支部長の真田(さなだ)とは考え方の違いから度々対立していた。


『はっ、ほんでわざわざ息子さんと議長の椅子を代わるためにやって来たわけでっか、隠居されたっちゅうんにご苦労なことで─────』


「別にそんなんじゃねえよ、可愛い後輩のお前にいい人材を推薦しに来ただけだ」


 かつての名残りからの皮肉に対しての反応があまりに予想外だったのか真田は思わず"はぁ?"と、間の抜けた声をあげてしまうがすぐに気を取り直してそれは誰なのかを訊ねるといかにも自信ありげな態度と口調でその名を告げられる。


開賀(ひらが) 千晶(ちあき)─────あくまでも代行だが開賀家の現当主だ。知ってんだろ?」


『─────えぇ、そらまぁ・・・』


 千晶の祖父、開賀 鍾理(しょうり)は関西支部の前支部長でありその名前になにやら訝しげな表情を見せる真田を楽しそうに眺めながら万尋は名門、帝刻(ていこく)大附属高等部の生徒会長を務めている事にくわえ紫ヶ丘(むらさきがおか)での災害においても地皇権唱(ちおうごんしょう)で黄泉の泥を街の外へ出さぬよう食い止めていたとも伝えた。


『・・・なるほど、実力も申し分ありまへんな。せやけど前支部長はあまりこちらに協力的とは言えん、そん証拠に空に穴が開いた時かて出張って来ぉへんかった。そんな人が身内を組織に差し出しますかね?』


「そこはお前さんとこの交渉次第だろうがよ、なんか科学者になりたいらしいから大学とかの学費でも出してやればいいじゃねぇか」


『冗談キツいですわ、私立大学の学費なんてそないにポンポン出せるわけないですやんか・・・』


 そうは言いながらも地皇権唱を発現できる才覚と名門私立の生徒会長を2年の頃から任されるほどの人望、なにより重要なのは関西に在住しているということで自身が求める英雄像にピタリと当てはまっていた千晶を関西支部へ引き入れる為ならば私立大学の高額な学費さえも出すつもりだったが真田にはどうにも腑に落ちない点がある。しかしそれもたいした問題ではなく万尋からの紹介だと交渉できさえすれば好条件を提示できる自信はあった。この戸惑いを他の者たちに悟られぬようできるだけ短い時間で思考を巡らせ、メリットばかりのこの提案を受け入れる他にないと深いため息をついた。


『─────わかりました、ここはアンタの案に乗っからせていただきます。せやからひとつ教えてください、長門さんアンタ・・・いつからこうなるとわかってはったんや?』


「隠居した後っつうのは暇でな、ついアレコレと考えが浮かぶ。そのついでにしばらく会ってなかったお前らのことも気掛かりになってよ、まぁ暇な爺さんの気まぐれだと思ってくれや!」


 関西支部の長に就いてからというものかつての先輩、或いは恩師に抱いていた尊敬の念は対抗心に変わり、その背中に追いつく─────いや、ドロップキックをするつもりで邁進(まいしん)する日々を送ってきた。突然隠居してすると言って一線を退いた時と同じく、現在においても真意の掴めない彼の不敵な笑顔を見て真田は心の内でこう呟く。─────相変わらず食えん爺さんやな、と。


 かくして千歳を組織へ勧誘するという話は見送られ、紫ヶ丘(むらさきがおか)に蔓延する邪龍の瘴気の鎮静化と街の復旧のために各支部から応援の人員を送るという方針を固めた。そして会議の終了を宣言される直前、真田がこんなことを言い出す。


『言うとくけど長門はん、わしは長門 千歳(ちとせ)の勧誘を諦めたわけやないで?』


「おう、正式な勧誘なら別に文句はねぇよ」


 ()()─────そう続けた万尋は瞬きする間に星映(ほしうつ)しの眼を開き、他の支部長たちが映るモニターを睨みつけた。


「孫に妙な真似をすれば、俺が出張る。お前ら全員、俺に()()がある事を忘れんなよ?」


 先程までとは別人のような鋭い眼差し、その迫力に一同は息を呑むが次の瞬間には豪快な笑い声をあげながら彼は議長の玄信に会議の終了を促す。


『で、ではこれにて緊急会議を閉会とさせていただきます。お疲れ様でした─────』


 空中を漂うモニターが消え、暗かった部屋に灯りが点く。緊張感から解放された玄信は椅子にもたれ掛かると深いため息を洩らし、その背後から万尋がニヤニヤと笑みを浮かべながらバシッと肩を叩いた。


「俺が来るまでよく持ち堪えたじゃねぇか。どうだ、"本部長"ってのも大変なもんだろ?」


「・・・まぁ、楽な立場じゃないとわかってはいたさ。そんなことより父さん、支部長たちへの貸しっていうのはいったい・・・?」


「別にたいしたことじゃねぇんだけどよ、アイツらがまだ新参者(ぺえぺえ)だった頃に何度か助っ人に駆けつけてやった事があってな。俺は全然気にしちゃあいないんだが、まぁ脅し文句みたいなもんだ・・・」


 もうすぐ高校を卒業するであろう千歳がどういった道を歩むのかは知らないが組織の都合で本人の選択肢を狭めてしまう事だけはしたくないと本心を明かし、それに同意しながら玄信は真田の動向に気を付けた方がよいのかと訊ねてみるがその心配はいらないだろうと万尋はどこか彼を信頼している様子だった。そしてタクシーでここに来たという父を自分が運転する車に乗せ、基地を後にした2人は神酒円(みきまる)町への帰路に着く。


 その頃、会議の終了と同時に暗転したモニターをじっと訝しげに睨む真田のもとへ秘書であるスーツ姿の若い女性が歩み寄り、深くお辞儀をすると下がってきた眼鏡をクイッと指で押し上げて声量と声調(トーン)に気を遣いながら彼に声を掛ける。


「─────開賀前支部長のお孫さんとは、些か厄介な交渉になりそうですね」


「はっ、死んでった局員(アイツら)の遺族に比べたら大したことあらへん」


 今でこそこの国を影から支えている支部長たちや部下、その大半は魔性とは無縁の一般人だった。千歳たちが難なく倒している人間と同程度のサイズの異形にすら戦慄し、大型相手には為す術もなく部隊が全滅したということもある。当然それに伴って殉職者も出しており人間に対して憎悪を抱いている妖怪が多く出没する関西でも真田が頭を下げ、時には罵詈雑言を浴びせられながらも局員を死なせてしまった事を遺族たちに深く詫びて回っていた。


「ほんなら、開賀の爺さんとこにアポ取っといてくれるか?そしたら今日はもう上がってええわ」


「承知しました、では後ほどまたご報告に参ります。失礼します─────」


 そう言って支部長室から出て行く彼女を見送った真田は再びモニターに視線を移す。魔性共の侵攻が激しさを増すであろうこの国において最優先事項と考えていた地域を守る英雄像の確立、それを突如として会議に姿を現した万尋の案によっておそらくは最良の形で果たされようとしているこの状況に彼は舌打ちを鳴らして"敵わない"という言葉を使うのは業腹だと別の言葉で形容した。


(いきなし倅に跡を継がせて隠居した思ったらまた前触れもなく現れよって、そのくせ何もかもお見通しなんがホンマに・・・()()()()わ〜・・・)

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