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Starlog ー星の記憶ー  作者: 八城主水
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Preparedness

 千尋は険しい表情で魁を睨んでいた、『こんなことは聞いていない』と言いたげな感じだった。そして魁の部下である黒服の男が万歳に太刀を振り下ろそうとした瞬間、千尋はその男を雷の纏った拳で攻撃し妨害していた。


 だが咄嗟だったために振り切った拳がそのまま万歳の脇腹に直撃し、ご隠居は負傷してしまった。


「まぁ、こんなとこだ。お前たちにも見せてやりたかったわ、あの時の千尋の動揺振りをな・・・つっ」


 そう言いながら小さく笑うご隠居だがまだ傷が痛むようで、すぐに傷をおさえて痛がる。


「儂とせがれにあーは言ったものの、千尋自身はこの計画には反対なのであろう。でなければ『建御雷(タケミカヅチ)』を纏った拳を受けてこの程度なわけがないからな」


「タケミカヅチ・・・?」


 聞き慣れない言葉に千歳が聞き返した。


「建御雷、有間家に伝わる『神性体質』で千尋が自分に宿している神の名前だよ」



 神性体質とは有間の人間に宿る能力で、神の力を身体に発現する。個人によってどの神の能力を宿すのかは変わるが千尋の場合は、雷の神である建御雷を発現した。


 だから異形を斃すために雷を落としたりということができたのだ。


「おそらく魁は交渉のためにまず榊の娘を説得し、次に千尋を説き伏せたんじゃろうな・・・」


 そう言いながらひとつため息をつくと万歳は千歳の方を見た。


「千歳よ、ひとつ頼み事がある」


「え」


 千歳は声をあげて驚く、普段叱責を受けている有間のご隠居から『頼み事』などはじめてのことだらからだ。


「どうか、千尋を止めてやってもらえないだろうか」


 そう言いながら有間のご隠居は千歳に頭を下げる、まさかの光景に千歳はただ戸惑う。


「家族の儂らにも止められなんだが、親友のお前であれば止められるかもしれん。そしてこの話は、お前や長門にとって他人事でもなくなる」


 そう言われ千歳は思い出す、魁は千尋と自分の友好関係も絶つと言ったことを。『絶つ』というのがどういう表現なのかはわからないが、少なからず長門の人間にも関係するのだろう。


「まあ、こうなってもはや命に関わる沙汰だ。無理にやれとは言わん、元々は有間の問題であるし」


 有間のご隠居は傍にあるコップから水をひと口飲み込み、再び千歳に頼む。


「だが千尋を止められるのは千歳、お前しかおらんと儂は考えている」


 家族を敵に回してまで家を建て直す覚悟を決めた千尋を止められる自信など、千歳にはあるわけもなく答えを出せずにいる。万歳は悩む千歳に考える時間を与えた、『もし覚悟ができたなら、明朝に鬼恐山の屋敷に来てほしい。』と付け足して。


─────

───


 そのあと万尋が有間の屋敷にやってきて万歳を酒に付き合わせている、『ケガ人に酒を飲ますな!』と万歳は最初怒っていたが、次第に万尋のテンションにつられて普通に飲んでいる。



 夜になっても千歳はまだ答えを出せずにいる、親友としては止めるべきなのだろう。しかし自分には千尋ほどの覚悟があるわけでもない、そんな自分の言葉など千尋は聞き入れるだろうか。と・・・


 突然、千歳の携帯電話が鳴り出し画面を見ると紗奈からの通話の着信だった、千歳が応答ボタンを押すと電話の向こうから紗奈の声が聞こえてくる。


『・・・やほ、ちぃちゃん』


「・・・やほ」


 紗奈からの電話は素直に嬉しいが今考えてることが重く、明るく挨拶ができない千歳の声色に違和感を感じた紗奈はどうしたのかと聞いてくる。


 『なんでもない』と一回は返事する千歳だが、『ほんとに?』と再度聞いてくる紗奈に・・・


「あのさ、例えばだよ?親友が家族や友人とか周りの人を敵に回すようなことをしようとしているの、紗奈ちゃんだったらどうやって止める?」


 と、あくまで例え話として相談する。


 『んー』と紗奈が電話の向こうで少し考えていると、明るい口調で話し始める。


『私だったらまず直接話を聞くかなぁー、止められるのかどうかはまず事情を聞いて話し合わないとね』


 と、これはまあ千歳自身も考えていた。


「んーでも、こっちは相手がそんなことになるくらいの覚悟とかないんだよ?聞き入れてくれるかな・・・」


『え、だってこっちは覚悟を決めた親友を止めるっていう覚悟があるじゃん?』


 覚悟を決めている人間を止めるのにも覚悟がいるのだと、紗奈の言葉に千歳は思わず声をあげて感心する。


『それにさ、その親友を止められるのは自分だけだったら尚更止めなくちゃじゃない?』


「・・・うん。」


 紗奈の言葉だからか、自分が欲しかった言葉だからか、電話の向こうから聞こえてくる言葉に次第と千歳の表情が明るくなっていく。


『それで『お前は何様だ!』とか言われたら、『お前の親友だ!』て殴りあっちゃえばいいんじゃない?』


「いきなり殴り合いになるのか・・・」


 『ふっ』と千歳は笑みを浮かべると元気が戻り、それからは他愛のない世間話に移りしばらく話していた。


『じゃあ、また』


「うん、ありがとね紗奈ちゃん」


『ふふん♪』と満足気に微笑み通話が終わると、千歳は『よし!』と声をあげひとつ伸びをすると床につく。

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