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Starlog ー星の記憶ー  作者: 八城主水
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Zenith

 粛清という大義名分のもと、(おぼろ)を始末できるという状況に(かい)は心踊っていた。聖域に漂う高濃度の魔力によって力を増大させ、人間などに味方する裏切り者に負けるはずはないと踏んでいたのだが─────


『なぜだ、なぜ神の同志たる俺がキサマ如きに・・・!?』


 戦況はまったくの逆、蹂躙し嬲り殺しにするつもりが圧倒されている。動揺する魁に対して朧は当然だと言わんばかりの落ち着いた態度を見せた。


『私の心には今、気高い思いと共にこの聖域から得られるよりも遥かに強い力が底から湧き上がっている。龍脈とは心の力、友のために戦う私は憎悪などでは倒せませんよ、魁・・・』


 地球を守護するという志を抱いた朧が纏う龍脈は"龍仙(りゅうせん)"の称号を冠するダンテと同等、いやそれ以上であった。練り上げられた龍脈が龍の形を(かたち)どり、その迫力にたじろぎながら一歩後ろへ退いた自分を魁は恥じる。


(なにを怖じ気付くことがある、私は神の同志・・・裏切り者などに負けるわけが─────)


 そう己を奮い立たせる彼に朧が龍脈を突き出した掌に乗せて放ち、咆哮のような唸りを上げながら白き龍は黒い雷の鎧ごと魁を呑み込んだ。仙龍掌(せんりゅうしょう)と名付けられたこの技は現代において形を変え、ある名で世界中に知れ渡っている。その名も─────Dragon(ドラゴン) Punch(パンチ)


『ごあぁぁぁぁ・・・!!!』


 今や3つの封印が解除され、残るは自身が守護する"鬼"の間のみ。ゆえに魁は己が敗北を許さず、背後に供えられた瓢箪(ひょうたん)だけは死守しなければならなかった。しかし龍脈の勢いは止まらずに魁の身体が叩きつけられ、瓢箪は粉々に破壊されてしまう。すぐさま鳴り響くサイレンと共にこの"鬼"の間の封印が解除、そしていま千歳(ちとせ)がいる"天"の間へと通じる門が開かれた。


『・・・なぜだ・・・朧、なぜお前はそこまであの人間に・・・?』


 大地を背に星空を眺めながら思考を巡らせてみても同志を裏切ってまで滅びゆく生命である人間に加勢する同志の心境を理解できず、封印を解除された上に裏切り者の粛清すら果たせなかった自身への不甲斐なさからか意気消沈した様子で魁が問い掛ける。彼の前に歩み寄った朧も同じく星空と宇宙の闇を漂う地球を眺め、本来であれば自分も消えるはずの存在であったことを明かした。


 そのようなことを聞いた記憶などない、いやそもそもろくに会話など交わしていなかった彼の口から告げられた真実に魁は"そういうことか"と己が抱いていた疑念の正体に気付く。


『先ほど"友のために"と言いましたが私は─────貴方たちのことも友だと思っています』


『・・・はぁ・・・喧しいんだよ・・・そういうところが昔から気に入らないんだ・・・』


 呆れたように、しかし穏やかな声色でため息混じりにそう言い放ったあと黙り込む魁を見て以前よりは理解し合えただろうかと、笑みを浮かべながら朧が"天"の間がある方角を見詰めた。


『後は頼みましたよ、長門(ながと)さん─────』


─────"鬼"の間の封印の解除を確認!全ての封印が解除されたことにより"天"の門、解錠!繰り返す、"天"の門、開門!


 聖域中に響き渡る声を聞き、千歳(ちとせ)は心の中で朧の名を呼びながら彼を称えた。そして"天"の間へと通じる門を守護する巨大な鎧武者には双璧の2人が立ち向かう。


「お前は先に行け、千歳」


「左様、長門の末裔よ。この傀儡は我らが引き受けよう」


 突然現れたこの鎧武者の正体をすでに2人は見抜いており、傀儡と称しながらその相手を引き受ける。つまりは双璧が2人がかりで挑まなければならない程の者なのだと、『お願いします』と素直にお辞儀をして千歳は門の向こうへと走っていった。


「・・・通してよかったのか?お前は門番なのだろう、(さかき)よ」


(わっぱ)1人が天翁(てんおう)のもとへ行ったところで、我らの計画に揺らぎなど生じぬ。キサマらとて同じよ、今さら姿を現しおって。なにもかもがもはや手遅れだ!』


「あやつはいずれ、新たな双璧となる。千尋(ちひろ)と共にな・・・星の新たな未来を決する戦いに我ら過去の者など無粋、しかしてせっかくの現界だ、昔のよしみだろう?相手しろ」


 挑発じみた台詞と笑みに鎧武者はより一層、妖しい眼光を放つ。そして新たに阿修羅(アシュラ)帝釈天(インドラ)を彷彿とさせる機械的な人形が2体現れた。


「腕は鈍っていないだろうな?アリマ─────」


「ぬかせ、貴様こそ手こずったとしても加勢などせんぞ、ナガト─────」


 2人はまるで玩具を前にはしゃぐ子供のような笑みを浮かべ、龍脈と天力、阿修羅と帝釈天を纏い不自然な挙動で臨戦態勢をとる傀儡たちとの戦いに臨んだ。


─────

───


 門をくぐって"天"の間へとたどり着いた千歳が目にしたのはまるで雪に覆われたかのような真っ白な世界。雲ひとつない青空が広がり、先ほどまでいた聖域とはまったく違った風景に戸惑いながらも歩みを進めると瓦礫の大地に建つ白亜の大神殿を見つけた。


 神聖な雰囲気を纏うその神殿に足を踏み入れた千歳を待ち構えていたのは外観と同じく純白な石材に囲まれた講堂に置かれた玉座でくつろぐ天之御中主命あめのみなかぬしみことであった。


「天之御中─────」


「待て」


 頬杖をつく右手とは逆の左手の人差し指を上に突き出し、千歳の言葉を遮った天之御中は思考に耽りしばらくして再び口を開いた。


「ふむ、やはり腑に落ちんな」


「・・・なにがだ?」


「お前がここまで来るまでの間、我はあらゆる視点、角度から我らの計画を見直してみたんだ。しかしな、どう吟味したところで不備などありえないんだよ。当然のことながらな、なにせ我々はこの計画のために何世紀もの時を費やしたのだから・・・」


 彼の自信に満ち溢れた言葉に千歳は理解が追いつかず、思わず『は?』と表情を顰める。


「何世紀って・・・あんたいったいどれだけ生きてるっていうんだ?」


「さあな、歳などもう数えるのはやめた。それよりさっきから気になっていたんだが・・・」


 思い出したかのように、天之御中がおもむろに掌をかざした。そして─────


「頭が高いぞ、人間」


 彼がそう言い放った次の瞬間、身体に強力な重力が掛かり千歳はその場に跪いてしまう。咄嗟に阿修羅を発現し、龍脈の鎧越しになにか重いものがのしかかってくるような感覚を覚えながら立ち上がった。


「ほぉ、ではこれならどうだ?」


 次に天之御中がかざした掌をグッと握りしめ、阿修羅の内部から勢いよく飛び出して引き寄せられた千歳の身体に黒い塊を叩きつけるとまるで弦から撃ち出された弓矢のように吹き飛んだ。


 高密度に圧縮された魔力の塊を腹部に受け、嗚咽の声を洩らす千歳のもとへ悠然とした歩調で天之御中が歩み寄っては再び重力を掛けた。目の前で倒れている人間に対してもはや脅威など感じてはおらず、むしろ哀れみを帯びた視線を向ける。


「長門、もうよいだろう?存在の抹消を危惧しているのであらばこの聖域にお前が座る席を設けよう。共に新たな星の誕生を祝福しようではないか」


「まだ・・・まだぁ!」


 勧誘に応じる姿勢を示すことなく懸命に腕を床につきながら立ち上がろうとする千歳に呆れた様子を見せ、重力を解いた彼は吹き抜けの天井から覗く空に浮かんでいる巨大な灰色の球体を指さした。


「せめてもの手向けだ、長門。新たな世界を照らす太陽となる星が放つ陽光、その栄冠をご覧に入れよう」


 そう高らかに宣言し、天之御中の力が渦を巻いて空へと上昇する。繰り返す度に間隔を狭めながら明滅(めいめつ)はやがて光の帯となり、無機質な灰色の球体はまさに太陽と見紛う紅蓮の星へと変貌をと遂げていた。

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