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Starlog ー星の記憶ー  作者: 八城主水
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Starlog

 地球の滅却を目論む天之御中主命あめのみなかぬしみことたちを阻止すべく彼らの聖域へと足を踏み入れた千歳(ちとせ)(かい)と出会い、戦いを挑むが過去とは比べものにならぬほどの強さに圧倒される。そこへ(おぼろ)が現れて天之御中の居場所とそこへ行く方法を教えると敵であるはずの千歳を先に進ませ、自分は"鬼"の間の封印を解除するため魁と対峙した。


 その頃、"人"の間には突如、津波が押し寄せ、停泊していた戦艦の船首にて白を基調とした軍服に身を包み、封印の守護を司る(ふしど)は納刀した軍刀を足元の甲板に杖のように打ちつけて航行を開始すると洪水から逃れる。そしてもはや宇宙空間ではありえないほどの水に覆われたこの大海に一隻の船が姿を現した。


「なはははははッ!!!縁っちゅうんがはげに不思議なもんじゃ、こうしてまたお前さんと会えるとは思うてもおらんかったぜよ!」


『・・・キサマは・・・』


 布に包んだ長い棒状のものを担ぎ、肩に掛けた着物をマントのようにたなびかせながら、船の上で堂々と高笑いを響かせる1人の若者に臥は怪訝な眼差しを向ける。見間違えるはずもない、彼は過去に千悟(ちさと)との戦いで敗れ、星の記憶に還っていった星霊(せいれい)リョーマその人だったのだから。


『この期に及んでなぜここに現れた?いやそれよりも誰が・・・』


「臥!野暮なこと気にすな!今わしゃまっことええ気分なんじゃ!日本を・・・いや世界を守るために本気でおんしと戦えるんじゃからな!」


『笑止、人間ごときに敗れた貴様が我と戦うだと?』


 互いに臨戦態勢、しかし臥の霊力によって生み出された骸骨の兵士が船に侵攻しては乗り込み、武装した骸骨たちに囲まれながらもリョーマは不敵な笑みを崩さなかった。そして布を剥いで露わになった薙刀を構えた次の瞬間、彼を包囲していた骸骨の軍団が何かの爆発に遭遇したかのように散らされる。突然のことで驚きはしたが臥は自身の軍艦にいる骸骨兵たちに砲台を準備させ一斉に射撃した。星霊の権能によって強化された身体能力で砲弾の雨と骸の群れの中を駆け抜け、リョーマは薙刀を担いだまま船首から臥のいる軍艦へ飛び移った。


 甲板にはすでに武装した骸骨兵たちが隊列を組んで待ち構えており、敵地の真っ只中にておいても怖じ気付く気配などまったくなく、臥も彼の反撃を目の当たりにしたところで焦燥に駆られる様子などはないが気を張り巡らせて互いに出方を探る。


『まさか薙刀まで扱えるとは、さすがは武芸百般の"武士"といったところか・・・』


「なははッ!そんなたいしたものやないぜよ!わしゃ銃より、刀より薙刀が得意っちゅうだけじゃ!いっちゃんは船やけどな!狭間と仕合おうた時は刀と鉄砲しかなかったき、腕前を見せられんかったのが心残りぜよ!」


 身のこなしや所作からも彼が熟練の薙刀使いであることは理解でき、臥は『なるほど』と納得して装飾の施された軍刀を鞘から引き抜く。ほんの刹那の沈黙が流れた後に2人の武器は風を切って甲高い金属の音を響かせながらぶつかり合い、リーチの差をものともしない臥の剣術にリョーマが感嘆の声を洩らす。


「なかなかやるのぉ、臥ッ!」


『星霊といえど所詮は人間、人間ごときに遅れなどとるものか・・・!』


 互角の戦いを繰り広げるなか、魔力を使用しての戦闘でリョーマには何度か隙が生じていた。だというのに臥は腰に提げた拳銃を使用することはなく、骸の兵たちも指揮官である彼を援護しようと銃や武器を構える素振りすら見せない。まるでこの場には大切なものがあり、誤ってそれを傷つけぬようにしているかのよう。不思議に思いながらリョーマはここに呼び出された際、"封印を解除せよ"と言われていたことを思い出したがその封印とやらを探すにしてもアテなどあるはずもなく─────


 ふと、戦艦の司令塔付近に不自然な大きさの号鐘(ごうしょう)が吊られているのを発見したリョーマはもしやと駆け出すが勘づいた臥に阻止されてしまう。


「やっぱあん鐘が封印っちゅうやつがか!」


『キサマも封印の解除が目的か、やらせはせん!』


 封印を特定されたことにより警戒を強めた臥に対し、リョーマは掲げた薙刀を号鐘に向かって全力でぶん投げた。意表を突いた行動にはじめて動揺を見せながら臥が駆けつけ、魔力を纏って飛翔する薙刀の柄をとっ掴む。危機一髪と安堵したのも束の間、骸骨兵から奪った銃を構えたリョーマが引き金を引く。


(狭間、おまんの技─────使わせてもらうぜよ!)


 銃声と共に放たれた魔力を帯びた弾丸が臥の真横を通り過ぎて行き、そのまま号鐘へと命中すると重厚な音色が空間に響き渡る。そしてすぐに"人"の間の封印が解除されたことを告げる声が聞こえ、今の一発で壊れてしまった銃を投げ捨てたリョーマにわなわなと握りしめた薙刀を手向けと言わんばかりに臥が投げ返した。


『封印を破ったことは褒めておく。しかし守護するものがなくなった今、我らは総出でキサマを始末させてもらう!』


「遠慮すな!わしゃもう役目を果たしたき、おまんらの無念、気が済むまでぶつけてこいや!!!」


 もはや憂さ晴らしとも言える宣戦布告に応じたリョーマへ軍刀の(きっさき)を向け、臥は骸の兵士たちに号令を掛けた。


『総員、武器構え!─────総員、掛かれ!!』


「おっしゃあぁぁぁぁぁッ!」


 雄叫びを上げて軍勢に立ち向かい、薙刀を振り回し、倒した敵の武器を奪い、また敵を倒す。いつしか身を投じたかもしれない戦場に思いを馳せながらリョーマは此度、世界の未来(よあけ)を守るための戦いに導いてくれた奇妙な縁に感謝した。


 一方で"帝"の間にある封印を守護する(うてな)の前にも1人の人間が現れ、黄金の刺繍が施された白のコートを椅子の背もたれに掛けながら漆黒のスーツ姿で優雅に茶を啜っていた彼は訪れた客人に感嘆の声を洩らす。


『ほう、これはこれは・・・随分と珍しい─────というよりは懐かしい顔だな』


「"天"の間に行くため封印を解除してもらいます」


『・・・ふっ、"断る"と言ったら?』


 冗談めいたような調子の問いにその人間は殺気を纏わせた眼差しで睨みつけながら腰に差した刀の柄に手を添える。


「実力行使するまでです。それが一番楽なので」


『相変わらずなのだな、お前は。封印というのは・・・ふむ、()()のことか』


 愉快そうに微笑みながら蒂はおもむろに傍に置かれている豪勢な王冠を叩き割り、これにて"帝"の間の封印が解除されることを客人に伝えた。なぜ?と怪訝な眼差しを向けられても意に介さず、星空を眺めながら茶を一口啜る。


『ちょうど退屈していたところでな、突っ立ってないでお前も一杯付き合え』


 そう言って誰も座っていない椅子を指差してはこの1人しかいない茶会へと招き、はるばる遠くからやって来た客人をもてなした。


─────

───


 "人"と"帝"、2つの封印が破られ、残るは"鬼"の間のみとなった。朧の言葉を信じて"天"の間へと続く門までやって来た千歳の前に5メートルはあろう巨大な鎧武者が立ちはだかる。


『立ち去るがよい、長門(ながと) 千歳(ちとせ)。天之御中主命の盤石なる計画はもはや、貴様ごときに止められるものではないのだ!』


「世界をなかったことにするなんて、なにが完璧なもんか!」


 息を切らしながら全力で走ってきた少年に諦観の意思はなく、眼に妖しい光を宿しながら鎧武者はゆらっとした動作で刀を抜き、構えたところに同じく鎧を纏った2人の人間が空から星と共に現れ、彼らの姿を見た千歳は驚きのあまり言葉を失う。


「遥か以前より立てられた計画、なるほど確かに盤石と呼べるものであろう」


「しかし貴様らの導師はひとつだけ失態を犯している。それは星の記憶にて召喚する者を誤ったこと、つまり─────」


「「()()()を呼んだことだ─────!!」」


 "双璧"─────初代長門である弌月(いつき)と初代有間(ありま)壱陽(いちよ)、2人は以前、星の記憶にて現世に呼び寄せられ、千歳たちと戦い縁を結んだ。人類を滅するために呼ばれた彼らだったが永い時を越え、此度は星を守護する者として人類の敵に立ち向かうべくこの聖域にて揃い踏みを果たしたのである。

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