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Starlog ー星の記憶ー  作者: 八城主水
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Sanctuary

 圧倒的な力を以て地球とそこに住む生命の抹消を宣言した天翁(てんおう)改め天之御中主命あめのみなかぬしみことに招かれ、彼の生み出した空間の裂け目に足を踏み入れた千歳(ちとせ)が暗闇の中でまず感じたのはまるで猛スピードで上昇するエレベーターに乗ったかのような浮遊感。しばらくしてそれがピタッと止まり、再び開いた空間の裂け目から出るとそこは星が燦然と煌めく夜空のもとに広がる灰色の大地だった。


 何も無く、何もいない。空模様からして夜のはずだがまるで朝のように明るく、背後から感じる異様な存在感に振り向いた千歳の視界には信じられない光景が映る。


「あれは・・・地球・・・!?」


 テレビや動画などでしか見たことのない青く美しい巨大な星が夜空を漂うその全容を目の当たりにし、驚き戸惑いながら『そういえば』と周囲を見渡すと自身がいま立っているこの灰色の大地にも見覚えがあった。


「まさかここは─────」


 と、言いかけたところに天之御中の同志である(かい)が白いスーツ姿で現れ、ここまでやって来た千歳に対して彼は呆れ気味にふんっと鼻を鳴らした。


『まったく、天翁─────いや、天之御中主命の情の深さには恐れ入る。お前のような人間に挽回の機会を与え、さらにこの聖域にまで招き入れたのだからな・・・』


「聖域・・・?」


『いかにも、虚無による存在の抹消を回避するため構築された世界。あの漆黒の(あぎと)が地球を喰らい尽くした時、この月を媒介にして新たに完璧な生命が宿る星を創造するのだ!』


 天之御中は月に自分たちの世界を構築し、根城にしていたのだ。酸素はあるようだがこの聖域に充満している魔力や天力、龍脈の濃度は地球の比ではなく、耐性のない凡人は呼吸ひとつで発狂してしまうだろう。


 そして魁の語ったあまりにデタラメな規模の計画も、天之御中の力を以てすれば可能だと思わされる。


 一方、紫ヶ丘(むらさきがおか)ではこの事態をなんとかしようと千尋(ちひろ)たちが紫電の槍と青き炎の龍脈、黄金の魔力や魔力を帯びた銃弾を撃ち込むが闇の穴はそれらを呑み込みながらなおもその範囲を拡大していく。


 千歳の父親である玄信(はるのぶ)もこの未曾有の危機に|超常自然現象及災害対策室《ちょうじょうしぜんげんしょうおよびさいがいたいさくしつ》の国内支部や海外の国々にも応援を要請するよう政府に訴えてはいるが闇の穴は日本各地の上空にも出現しているためその対応に追われており、海外の組織に至っては『魔性や神秘の存在を隠蔽し、目を背けてきた代償だ』と厳しい回答が返ってきたらしい。要するに彼らに協力の意思はなく、日本が虚無に呑まれた後に初めて動き出すということだ。


 もはや千歳が天之御中を打倒する他なく、紗奈(さな)は両の掌を合わせて天を翔ける流れ星に祈りを捧げた。


─────

───


 天之御中たちの計画を阻止すべく戦いを挑んだ千歳だったが鬼恐山(おにおそれざん)で戦った時の記憶を遥かに上回る魁の戦闘力に圧倒され、聖域において無尽蔵の魔力量を有する魁はその余裕からはじめて自身が忌み嫌う人間に友好的な声色で言葉を掛ける。


『いい加減、この戦いが無駄だということはお前もわかっているだろう?長門(ながと) 千歳─────』


「地球が消えるなんて聞かされて、諦められるわけないだろ・・・!」


 阿修羅(アシュラ)はおろか龍装(りゅうそう)すらも使えず、魔眼を維持するのに精一杯でありながらなお立ち上がる千歳に辟易としながら魁はなぜこの人間は地球などという星に執着するのかと不思議に思う。


『それほどまでに"死"が恐ろしいか?安心しろ、新たな世界には死なぞ存在しない。我らが創造する新たな星にて再誕する時を待つといい・・・』


「違う、死ぬのが恐いんじゃない・・・いや、恐いけど!生まれ変わってしまったらその俺は別の人間だ・・・きっと紗奈(さな)ちゃんも。あの子がいない世界なんて、俺は耐えられない・・・!」


 千歳の抱く紗奈への狂気とも言える愛情の深さに魁が不快感に眉を顰め、『そうか』と残念そうにため息をつきながら黒雷で1本の槍を錬成した。千尋(ちひろ)雷霆(ヴァジュラ)を彷彿とさせるその光景を前に千歳は逃げるどころかありったけの龍脈を秋水に纏わせて正面から迎え撃つ姿勢を示す。


『さらばだ─────』


 微塵の躊躇いもなく雷槍を投擲し、人間の無駄な抵抗も終わっと思った矢先に千歳のもとへひとつの人影が現れ、漆黒のスーツに身を包んだ()は目の前に生成した白銀色の盾で迫り来る黒い閃光を防いだ。


(おぼろ)・・・さん・・・?」


『そう、あなたは諦める必要など全くないのですよ。長門さん・・・!』


 そして突然のできごとに戸惑いを隠せない千歳に励ましの言葉を掛け、同じく天之御中主命の同志である朧がこの場にいることに魁は苦言を呈する。


『朧、キサマ・・・なぜここにいる?自分の持ち場を離れ、そのうえ人間を助けるとは、()()になにかあればその時は─────』


 ふと朧の不敵な笑みを見た魁が言葉を止め、まさか!?と声を上げた次の瞬間、唸るようなサイレンがこの聖域中に響き渡り、抑揚のない機械的な声がどこかからか大音量で聞こえてくる。


『"龍"の間の封印の解除を確認─────繰り返す、龍の門、解錠!』


『朧ぉぉぉぉぉ!!!』


 なにかの封印が解除されたことを告げる警報に魁が怒号を響かせ、その姿にもはや先程まで纏っていた優雅さは失われていた。朧は咄嗟に怒気の波動からかばいながら状況を呑み込めずにいる千歳にこの聖域の構造を話し出す。


『長門さん、天翁のいる"天"の間に行くためにはここ"鬼"と"人"、そして"帝"の間にそれぞれある封印を解かねばなりません』


「いまの警報が言ってた龍の間っていうのは・・・?」


『龍の間はもともと私の管轄でしたがここに来る前、封印を解いてきました。残る封印は3つ・・・長門さんは聖域の中央にある天の間へ走ってください!』


 話の流れからして"人"か"帝"の間へ向かわされると思っていた千歳にとって朧の示した行き先は意外な場所であった。


「え、封印は・・・?」


『大丈夫、ここは私にお任せを、()()。人と帝の間の封印もじきに解除されるはずです!』


 出任せではない、確信をもって告げられたその言葉を信じて千歳は鬼の間を朧に任せ、彼の言う天の間へと通じる門がある中央へと駆け出していった。天之御中主命への忠誠心が厚い魁のこと、行く手を遮るかと思いきやそのような素振りを見せずにただ朧を睨みつけている。


『意外ですね。あなたは絶対止めるかと思いましたが・・・』


『ふん、あのような童にどうにかできるものかよ。それよりも俺はテメェにひとつ感謝してるんだ・・・』


『感謝?される筋合いは無いと思いますが、急にどうしたのです?』


 身に覚えのない感謝に疑念を抱いた朧からの問い掛けに魁は殺意剥き出しの邪悪な微笑みを浮かべながら静かに呟く。ずっと昔から気に食わなかったんだ、と─────


『同志であるお前を殺すのは御法度、だが()()()()となりゃ・・・あとは言わなくてもわかるよな?』


『なるほど、たしかに大義名分はあなたにあるでしょう。しかし私とて長門さんのため、友のために刺し違えてでも封印は解除させていただきます!』


 ─────長門さん、あなたは気づいていないでしょう。あの星を共に守るため、ここまでやって来たのは私だけではないのだと。あなたたちが守ったのは世界だけじゃない、戦いの中で繋がれた縁が彼らをここへ導いた。


 しかしそれを今は知らなくてもいい。未来を拒絶する絶望を断ち斬るため、ただ先へ・・・"未来"に向かって走れ、友よ─────

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