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Starlog ー星の記憶ー  作者: 八城主水
132/155

Entrust

 輪廻現(りんねうつ)しの眼の能力を以ってしても紫ヶ丘(むらさきがおか)の結界は未だ消えず、星神(ほしがみ)は新たな従者を黄泉の泥から生み出した。黒い血に汚れた白装束に身を包み、般若の面を被った4人の女性を見て伊邪那岐(イザナギ)はなにやら戦慄しはじめ、彼のそんな表情を珍しがった千歳(ちとせ)がどうした?と声を掛ける。


『あやつらは黄泉醜女(よもつしこめ)、以前黄泉の国から逃げようとした私を追ってきていた刺客で伊邪奈美(イザナミ)が最も信頼している眷属たちだ。まさか彼女たちまで現世にやって来るとは─────』


 一瞬、帝釈天(インドラ)越しに自身を見詰めている黄泉醜女たちと視線が合い、あの追跡から逃れるため必死に黄泉の国を駆け抜けた時のことを思い起こす。そして唸り声を響かせる星神の方へ振り向いた彼女たちは主からの勅命を承ると生まれた泥の中へ沈んでいく。


 守護神たちの結界は大地と空を覆えても()()までには及ばず、その証拠に黄泉の泥は地の底から浄化しきれないほどに湧き続けている。さらにこの泥は繋がっており泥中で紫ヶ丘(むらさきがおか)から各地の結月大社(ゆづきおおやしろ)への転移(ワープ)が可能、そうなれば黄泉醜女は結界を解除するためにダンテや紗奈(さな)たちにも襲いかかるであろう。それだけは阻止しなければならないが千歳たちに黄泉醜女たちのもとへ駆けつける余裕などなく、『まずい!』とイザナギが声を上げた。そこへ1体の龍が空から現れて"東"の結月大社へ行っていたはずの千晶(ちあき)とメイドの桐江(きりえ)を背中から降ろすと鳴き声を響かせてどこかへと飛び去っていった。


 そして黄泉醜女たちが転移で結界の外へ出ようとしていることを知った千歳が帝釈天の内部から泥をどうにかできないかと大声で訊ね、先程まで捜索していた結月大社にて翠章(すいしょう)からこの泥の性質を教えられていた千晶は状況を理解し『なるほどな!』と、黄金の魔法陣を展開して掌を地面に押し当てた。


地皇権唱(ちおうごんしょう)─────"金城統地(きんじょうとうち)"!」



 ─────数々の奇跡を起こした偉大なる王を人々は"神"と呼び、崇めたが彼自身はそれをよしとしていなかった。いわく『神とは天上より人々を見下ろす存在のこと、我はそれに(あら)ず』、石工職人の出身であった彼は大地や自然に対しての思い入れが強く、それが後に"石を通じて大地を識る"という思想にまで昇華することとなる。王はあくまでも自身を国とそこに住む民たち、果ては空や地の底までを守護する者であるとして人々に"神"と呼ぶことをやめさせようとした。王の思いに深く感じ入った家臣と民たちはそれから彼を天上にいる"神"とは呼ばず、天より遣わされた"皇"として崇めた。奇跡を引き起こす言霊も"地神権唱(ちしんごんしょう)"から"地皇権唱(ちおうごんしょう)"へと名を変え、後世へと引き継がれることとなる。


 まさに難攻不落、人も魔も地皇が治めた時代の国に攻め入ることはついぞ叶わなかった─────


 黄金の魔力が根のように地中へと広がったことで泥の湧出が緩やかになり、結界による浄化で再び紫色の蓮の花が咲き乱れはじめる。泥を通しての転移も封じられた黄泉醜女たちは行く手を阻んだ人間に殺意の視線を向け、主の勅命を果たすべく冥力によって錬成した武器を構え駆け出した。


 とめどなく湧き出ようとする地中の泥を抑えるのに精一杯で戦闘態勢をとることができず『やべっ』と、声を洩らす千晶のもとへ青い彗星が飛来し、炎の中から現れた男が『私に任せたまえ!』と纏っている青い炎で錬成した盾を構え迫り来る凶刃を防ぐと女性を殴るのはポリシーに反すると語りながら渦巻く青い炎の爆風で彼女たちを吹き飛ばした。


「無事か!?少年!!」


「キャプテン・ドラゴン・・・!はい、助かりました!」


 千晶の返事を聞いたキャプテン・ドラゴン─────ダンテはニッと笑い、『Good(よろしい)!』と親指を突き立ててサムズアップをとった。そして一緒に戻ってきた紗奈(さな)は星神と対峙する帝釈天を遠くから見詰め、なにもできない自分にもどかしさを感じながらも道中で言われた『サナの声援がチトセの力になる』というダンテからの言葉を思い出し、祈るように掌を合わせて呟くように声援を送る。


「千歳くん・・・頑張って─────!」


 ところ変わって境目(さかいめ)町の"北"の結月大社で偶然出会った若葉(わかば)も紫ヶ丘へ行くつもりだったのだがあまりに危険だと執玄(しゅうげん)に引き止められ、彼女は白龍たちと共に境内から帝釈天と星神の戦いを見守っている。


「ファイトォォォ!負けるなあぁぁぁ!!!」


『──────────っ!!!』


 周囲に人がいないのをいいことに、紫ヶ丘にて奮闘する巨神像に向かって若葉がもどかしい思いを発散するかのように荒らげた口調で大きな声援を送り、周りの龍たちも鼓舞の咆哮を上げていた。


 それから響くエンジン音と共に千悟(ちさと)もバイクに跨って紫ヶ丘へ帰還し、自分が一番乗りではなかったことを残念がっていた。千晶もすぐに戻ってくると思っていたようで道でも混んでいたのかと冗談めかして訊いてみるとどうやら帰りの道中で()()()をしていたらしくそんな彼に感心する。


「へぇ、いいことしたじゃないか」


「"緊急対策室"のメンバーとして見逃せなくてな。よいせっと・・・」


 照れ気味にバイクから降りた千悟は4人の白装束の女と対峙するダンテを援護するために並び立ち、共闘の合図として拳を合わせた。黄泉醜女たちはクスクスと笑いはじめ、まるで『人間ごときが私たちに勝てるとでも?』と言いたげである。そんな態度の彼女らに千悟は取り出したリボルバー銃の銃口を向け、弾丸に魔力を込めながらこう言い放った。


「人間─────なめんなよ!!」


─────

───


 なぜ人間は脆い命で魔性や神秘に立ち向かうことができるのか、輪廻の旅の中でイザナギは不思議に思っていた。それは自身の転生者である千歳に対しても同じで千尋(ちひろ)のように優れた神性体質(しんせいたいしつ)と天力、そして強靭な肉体も持たぬ人間の彼が星霊に勝利することができたのは神の力を宿す魔眼と幼き頃に掛けられた(まじな)いによるものだと信じて疑わなかったがある時、『長門(ながと) 千歳(ちとせ)の強さは椎名(しいな) 紗奈(さな)への強く深い愛情から生み出されるものなのだ』と悟った。


 それからは千歳ならばこの憎悪によって廻る因縁を終結させてくれるだろうと期待を抱くようになり、此度も妹の呪縛から紗奈を解き放ってみせた。しかしイザナミが抱いていた憎悪の念はあまりにも深く、彼女は星神にへと変貌してしまう。"生命の拒絶"などという人間たちにとって絶望的な権能にも挫けることのなかった千歳たちの心の強さはもはや神である自分すらも超越するほどのものだった。


 そして今も皆が千歳と千尋に希望を託した。"双璧"の末裔だからではなく、"あの2人なら"という信頼がそうさせたのである。ならばこそイザナギもその信じる心が生み出す力、引き起こされる奇跡を信じたくなった。


『千歳、私からも─────お前に託したい』

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