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Starlog ー星の記憶ー  作者: 八城主水
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Valet

 "北"の結月(ゆづき)大社を捜索するためダンテと紗奈(さな)境目(さかいめ)町にやって来ていた。閑静な田舎町には似つかわしくない青いスポーツカーがエンジン音を鳴り響かせながら道を駆け抜け、村人たちに怪訝な視線を向けられながら村にひとつしかない神社の前に停車すると2人が車から降りた。


 そして本殿がある境内へとたどり着いた時に若葉(わかば)とばったり出会い、以前伊邪奈美(イザナミ)に憑依されていた彼女にその後の影響がないようでダンテは安堵する。むしろキャプテン・ドラゴンの主演であるダンテとドレス姿の紗奈の来訪に驚き戸惑わされながら紫ヶ丘(むらさきがおか)の状況を知った若葉が『そういえば』と、先程ここへ天翁(てんおう)の同志であるスーツ姿の男がやってきて本殿へ立ち入ろうとしたが結局御扉(みとびら)を開けることもないままこの場を去っていったことを伝えた。


 巫女として奉仕している彼女に了承を得るとダンテはさっそく御扉を開け、紗奈と若葉を連れて本殿へ足を踏み入れる。古い社殿のわりに内部は綺麗に清掃されており、しばらく捜索してみたが邪龍を封印できそうなものは見当たらなかった。


 そして紗奈が最奥部にてかなり古い天球儀を見つけ、傍で彼女の身体を支えている若葉がこの北の結月大社に御神体として奉られているのだと言い、同時に誰かに見られているような感覚を覚え、その視線に気づいたダンテも合流して周りを見渡すと彼女たちの前に奉られている天球儀が目に映った。


(私たちを見張っているようなこの視線の正体も気になるが、この天球儀・・・龍脈を感じる!アリマのMaster(御隠居)が言うにはこの神社が建てられたのは100年以上も前のこと、当時から奉られていたのだとすればこの社を建てた者とは一体どれほどの・・・)




 ─────そこな異国者、汝、仙人か?




 突然、誰かの声が聞こえ、天球儀が星のような光を纏って薄暗い本殿の内部を照らした。天球儀の光からは先程よりも強い龍脈と確固たる意志を感じ、『汝は仙人か?』と再び問い掛けられたダンテは紗奈と若葉を後ろへかばいながら自身は龍仙(りゅうせん)だと答えた。


『龍仙・・・なるほど、どうりでな。おそらくは我が同胞たちも目を覚ましている頃だろうか・・・』


 その光が言ったとおり東、西、南の3箇所に奉られた御神体には意志が宿り、それぞれが来訪者との邂逅を果たしていた。本殿に足を踏み入れた無礼に謝意を述べつつダンテは邪龍の封印が解け、一度は倒したが星神(ほしがみ)となって復活してまったことを伝え、再び封印するための方法を教えて欲しいと頼んだ。


『星神とは邪龍よりもさらに悪しき存在、封印などしてしまえばその怨念は瞬く間に大地を覆い尽くすであろう。主よりこの結月大社を守護するよう仰せつかっておる我らに、貴様たち人間に助力する道理などない!』


 と、彼 (?)の言葉からはまるで協力してくれそうな気配などなく、それは他の3箇所においても同じであった。しかしこの間にも紫ヶ丘で千歳(ちとせ)は戦っており、絶対に手掛かりを見つけてくるという彼との約束のため天球儀に向かって紗奈が『あのッ!』と声を上げた。


「今、私の大切な人が星神と戦ってるんです・・・どんな事でもいいんです、私たちに教えてください!」


『知ったことか!そもそも邪龍の封印が解け、星神が現世に顕現したことも貴様たち人間の─────』


 ふと彼が目の前の少女たちを見て怒号を止め、まさか、と思いながら星神と戦っているのは長門(ながと)の人間かと問い、そうです!と若葉が頷いた。するとそれまで放っていた威圧感はどこへやら、『よかろう』と声色を変えて邪龍の撃退に助力する意志を伝えた。


「え、どうしていきなり・・・?」


『我らの役目を果たす時が来た。ただそれだけのことよ・・・』


 そう言って彼は再び沈黙し、他の結月大社にいる同胞たちへ念話にて語り掛けはじめた。


 "同胞たちよ、主が御帰還なされた。いま汝らのもとに訪れているであろう人間たちに助力せよ"、と─────


─────

───


─────それはまことか?"北"の・・・


─────まさか本当に帰ってくるなんてね、主には驚かされてばかりだよ・・・


─────待て、御帰還なされたのならなぜ(わらわ)たちの前に現れぬのだ?


 "北"と呼ばれている彼からの突拍子もない言葉に"東"の古式ゆかしい口調には期待と疑念が混ざり、"西"は無邪気さを感じさせる声色で驚く。唯一"南"が女の声で疑問を呈し、いま紫ヶ丘にて星神と戦っているのだと告げられ、驚愕と共に納得した。永年経った今でも主は人の世のために戦っているのだと、そして自らの役目を果たすため人間たちに助力することを承認した。


─────随分と永く、この時を待ちわびた。


─────ようやくだ、これで恩を返せる。


─────しかし主の歩んだ道の険しさを思うと・・・できることなら妾も直にお会いしたいが、まずは・・・


─────各々、使命を果たそう・・・


─────

───


 念話を終えた彼は"執玄(しゅうげん)"と名乗り、他の同胞たちも助力すると紗奈たちに伝えた。そして邪龍を抑え込むための結界を起動するには御神体に魔力を注ぐ必要があるのだと言い、龍仙であるダンテがニッと笑いながら執玄の魂が宿る天球儀に膨大な龍脈を注ぐと身体に黒い装甲を纏い白い蛇を帯のように巻きつかせた巨大な龍の霊体が出現した。


 千晶の黄金の魔力を注がれた"東"の御神体である剣からは翡翠の鱗を纏った蛇のような龍の霊体が天から姿を現し、名を"翠章(すいしょう)"と名乗った。"南"に奉られている勾玉の首飾りには千悟(ちさと)が様々な属性の魔力を注ぐので『やめんか!くすぐったい!!』と怒鳴りながら"陵朱(りょうしゅ)"の霊体である鳳凰が紅蓮の炎を纏った翼をはためかせて空を舞い、"西"にある鏡の御神体には玄信(はるのぶ)が懸命に魔力を注ぎ、やっとのことで白銀色の虎を霊体化させその場に座り込む。


『人間にしては上出来じゃない?本当はもっと食べれるけど、君はいつもお参りに来てくれてるからオマケしてあげるよ』


「あ・・・ありがとう・・・ございます・・・あの、息子たちを・・・お願いします・・・」


 紫ヶ丘で戦っている千歳たちの力になってくれるよう頼まれ"白兵(はくひょう)"はその意志を汲みながら、疲労している玄信に『ちょっと休んでなよ』と気遣いの言葉を掛ける。


 東西南北、すべての結月大社に守護神の霊体が出現し、それぞれが紫ヶ丘にて戦いを繰り広げている星神と帝釈天(インドラ)の方を向く。懐かしき景色に思いを馳せながら魔力を触媒に具現化した翠章、白兵、陵朱は自身に流れる魔力を自然エネルギーである龍脈に変換、そして球状に圧縮した龍脈を執玄の号令と共に四方向から紫ヶ丘に向けて斉射した。


 守護神たちの撃ちだした龍脈の玉は紫ヶ丘にて衝突する寸前で上空へと飛翔、炸裂すると膨大な龍脈が雪のように降りそそぐ。やがて龍脈は渦を巻きながら巨大な光の柱となって街を覆い、突然のできごとに千歳と千尋(ちひろ)、彼らの祖父たちは驚いたがすぐに捜索チームがこの結界を起動してくれたのだと気付く。


 人間たちにとっては陽気のように優しい龍脈も星神にとっては嵐そのもの、瘴気と怨念の鎧が侵食、浄化されていき悲鳴のような咆哮を響かせる。戦いの中で生まれた黒泥からは亡者ではなく紫色の蓮の花が咲き乱れ、紫ヶ丘はかつての姿を取り戻したのだった。

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