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Starlog ー星の記憶ー  作者: 八城主水
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Second Coming

 イザナギから告げられた怪物の正体、そして『生命からの攻撃を一切遮断する』というあまりに常識外な権能に皆が静まり返ってしまう。


「ぼ・・・千晶(ちあき)!あん化け物を倒せるとっておきとかなんかあらへんの!?」


「落ち着け、()()()()()()!けどそこのイザナギの考察が当たってるなら効かないだろうし試すにしてもこの辺りには人が多すぎる・・・!」


 めずらしくメイド口調が崩れた桐江(きりえ)に詰め寄られ、千晶はあくまで奥の手があることを示唆しながらも星神には無力だろうと他の可能性を探っている。


 その間にも星神(イザナミ)は咆哮をあげ、緩やかな動作で街の外への侵攻を開始しようとしていた。必死に思考を巡らせる千歳(ちとせ)の傍で邪龍をはじめて見る紗奈(さな)が『お〜』と感嘆の声を洩らしている。


「大っきいね、昔の人たちはどうやってあの怪獣を封印したんだろう・・・?」


「え?」


 ふと紗奈は正月に訪れた境目(さかいめ)町で聞いた昔話を思い出したと言い、彼女の何気ない一言とあの星神の身体が邪龍そのものであることから千歳はとある場所の名を口にした。


結月(ゆづき)大社だ!」


 邪龍の封印を守るために建てられたのならその封印が解けた時のための()()があるかもしれないと千歳は皆にこの事を伝え、4ヶ所に建てられた結月大社に手掛かりを探しに行ってみようと提案したところ万歳(ばんさい)が顎を手で撫でながら反応する。


「邪龍が封印されたのは100年以上も昔のこと、望みは薄いが他に手立てもあるまい・・・」


「本来ならこの件は僕たちの管轄、組織の者たちが行うべきなのですが・・・そうも言ってられる状況ではありませんね。なので─────」


 千歳の父である玄信(はるのぶ)も続いて息子の提案に賛成し、この場にいる者たちをメンバーとして緊急対策室の設立を宣言。なにそれカッケェ・・・と千悟(ちさと)が目を輝かせている。


「ではこれより緊急対策室、最初の作戦の概要を説明します!」


 玄信が提示した作戦とはこの紫ヶ丘(むらさきがおか)を中心として東西南北に建てられている結月大社、これらを手分けして捜索するというもの。"東"がある六道(りくどう)町には千晶(ちあき)桐江(きりえ)神酒円(みきまる)町の"西"は玄信、距離が離れている八萬台(はちまんだい)の"南"には千悟がバイクで、そして"北"の境目(さかいめ)町にはダンテが─────


「私も一緒に手伝います!」


 と、申し出たため紗奈も捜索チームとして共に北へ、イザナギは千歳の近くにいなければ具現化を維持できないためこの地に残ることとなった。防衛チームとして千尋(ちひろ)や祖父たちとここに残って星神の侵攻を止めるという大役を任された千歳は移動のため愛車である"アズールドラゴン"を呼び寄せたダンテに声を掛ける。


「紗奈ちゃんを頼む、ダンテの近くが一番安全だ」


「任せろ!だがその反面、一番危険なのはキミだ・・・死ぬなよ、チトセ!」


 直接対決するとなればイザナミの精神を宿している星神がイザナギの転生者である千歳を執拗に狙うであろうことは本人も理解しており、千歳が『わかってるさ!』とダンテからの助言に頷きながら手を差し伸べ、『Good luck(幸運を)!』と師弟の2人は握手を交わし互いの無事を祈った。


「頑張ってね、千歳くん!私たちも絶対に手掛かりを見つけてくるから!」


「うん、けど絶対無茶なことはしないでよ・・・」


 意気込んだ様子の紗奈からも励ましの言葉を掛けてもらい、千歳は着慣れないドレスで動き回るであろう彼女を気遣った。


─────

───


「捜索チームは目標へ到着し次第、速やかに境内および本殿内を捜索したのちここへ戻ってくること。防衛チームは星神が街の外へ侵攻するのを防ぎ・・・」


 皆に向けて開始前の作戦の確認を行うなか危険が伴う防衛チームにいる千歳を見た玄信は一瞬言葉を詰まらせるが、息子の毅然とした表情に自身もこの場に残りたい気持ちを抑え、緊急対策室の隊長として最後まで言葉を続ける。


「あくまでも自身の命を最優先に行動せよ!それでは緊急対策室、状況─────開始!」


 玄信による状況開始を告げる号令と同時に各自、4ヶ所の結月大社へと向かっていき、紫ヶ丘に残ったのは4人の人間と1体の星神のみとなった。千歳はあらためて目前にいる怪物の巨体に圧倒されながら、なにか作戦はあるかと千尋に訊ねてみたが人間の攻撃を遮断する星神を相手に『あるわけがない』と即答された。


「ひとつだけ、(わし)から案がある」


 すると千尋の祖父である万歳(ばんさい)が歩み寄り、知恵を授ける。それは千尋の帝釈天(インドラ)を完全体の阿修羅(アシュラ)と同様に巨大な姿で顕現させ、千歳の龍脈の鎧を纏わせるというもの。有間家の書物庫に保管されている古い史料にも過去、初代の長門(ながと)有間(ありま)が同じ方法で厄災を退けたとあり、"倒す"ことはできなくとも捜索チームがなにか手掛かりを探すための時間稼ぎならできるであろうという提案に千歳は乗り気な姿勢を示したが珍しく千尋が躊躇いがちに口を開いた。


「俺は、あの怪物に勝てるだろうか・・・」


 自分たちが敗れてしまえば星神は瞬く間に街の外へ侵攻し、災害は国を越えて地球へ及んでしまうという今までで感じたことのないプレッシャーを感じている千尋に千歳が拳を突き出した。


「戦うのはお前だけじゃない─────」


 紗奈を救い出した途端に訪れたこの絶望的な状況に千歳も同じ心境だったのだ。そんな親友の覚悟にあの怪物を止められるのは自分たちだけだと、千尋は己を奮い立たせ、まさか自分が励まされる日が来ようとはと微笑みながら握りしめた拳を向けられた拳にガシッと合わせる。


「いくぞ、千歳!」


「おぉ!」


 帝釈天の巨体が瞬く間に2人を覆い、内部では千歳が両手の掌を合わせて龍脈を練り上げると龍装(りゅうそう)による黒い影の鎧を紫電の身体に纏わせ、その勇姿に万尋(まひろ)と万歳は感嘆せずにはいられなかった。


「"双璧の再来"─────ってとこだな、万歳よ・・・」


「左様のようじゃな、以前であれば想像もせなんだわ・・・」


 長門と有間、この両家が対立したままであったなら、かつての人々が目にしたであろうこの光景を見ることはできていただろうかと感慨に浸りながら、心の内で万歳は道雪(どうせつ)の長門と和解するという大英断を褒め讃えた。


 そして"敵"の気配に気づいた星神がゆらっと振り向いて威圧するかのような咆哮を響かせながら街の外で蠢く生命から千歳たちへと標的を変更して移動を開始し、右手には龍脈の刀、左手には紫電の槍を持ち、臨戦態勢にて帝釈天が人類の脅威となる星神を迎え撃つ。

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