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Starlog ー星の記憶ー  作者: 八城主水
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Hoshigami

 幾度となく目にした暗闇もかつてのような哀愁はなく、瞼を開いた彼女の視界には自分の身体を抱きしめている彼の安堵に満ちた表情が映り自然と笑みと涙が零れる。


「ただいま─────」


 この一言に千歳(ちとせ)の目からも涙が溢れ、後ろではダンテと千尋(ちひろ)たちが歓声をあげていた。自分を救うため友人たちをも巻き込んでいたのだと、申し訳なさそうな紗奈(さな)に彼らは『気にするな』と言いたげにキャプテン・ドラゴンの決めポーズであるサムズアップと笑顔を向けた。


「千歳くん、ありがとう。みんなも・・・」


 みんなが感慨に浸ろうとしていたその時、渦巻く黒い影からイザナミが現れ、呼応するかのように白銀色の龍脈が人の姿となって()は驚愕する千歳をよそにイザナミと対峙した。


『久しぶりだな、伊邪奈美(イザナミ)・・・』


『貴様・・・伊邪那岐(イザナギ)か・・・?』


 千歳たちが繰り広げた壮絶なる戦いを経てこの紫ヶ丘(むらさきがおか)は現時点だけで言えば魑魅魍魎が跋扈(ばっこ)していた時代と変わらぬほどの膨大な濃度の魔性や神秘の力が大気中を漂っている。よってそれらと同一の存在であるイザナミは身体(うつわ)がなくとも顕現することができ、それは千歳の精神世界にいるイザナギも同じで宿主の龍脈を器とすることで現世に具現化した。


『イザナミ、もう終わりにしよう。これ以上、現世の者たちを巻き込むのは─────』


『なにを勝ち誇った気でいるんだ・・・?』


 憎悪の眼差しで睨みながらイザナギの言葉を遮り、イザナミは傍らにある邪龍の亡骸に触れ、自らの冥力を注ぎ込むと傷が癒えていくにつれて彼女の意識が引き込まれていく。


『よせ、イザナミ!そんなことをしたら心が狂気に呑まれてしまう・・・!』


 その光景を目にしたイザナギが必死に彼女を止めるが、イザナミは自身に向けられた言葉を嘲笑うかのように『ふん』と鼻を鳴らした。


『心・・・?そんなもの、お前が妾に背を向けた()()()、とうに狂ったさ─────!』


 イザナギの呼び掛けも虚しくイザナミの意識は邪龍の身体を器として覚醒し、地鳴りのように恐ろしく、神々しさすら感じさせるような咆哮を辺りへ響かせた。怪物と化した彼女の足元にはドス黒い泥が湧き出し、なにかに喰い破られたかのように開いた空の穴からは宇宙の闇が覗く。


 イザナミが纏った冥力は邪龍の身体をより凶悪な外観に変貌させ、目の前の千歳たちを睨みながら再び響かせた咆哮と共に衝撃波を放ち黒い影を帯びた波は街の外にまで拡散していった。


 先程のように魔力の核を撃ち抜こうかと千悟(ちさと)がスマホを操作すると漂っていた魔力の粒子が狙撃銃へと姿を変え、スコープで覗きながら狙いを定め引き金を引いた。重厚感のある銃声が鳴り響いて魔力元素弾(まりょくげんそだん)が邪龍へ一直線に向かっていき、魔力の核があった胸部へ直撃する寸前で弾が軌道を外れた。


「やっぱ核が剥き出しになってねぇとダメか・・・!」


 スコープから目を離して狙撃銃を降ろしながら千悟が悔しげにぼやき、『それなら!』と千晶(ちあき)璧立千刃(へきりつせんじん)にて生成した無数の武器でイザナミを包囲して射ち出すが、まるで見えない壁があるかのように邪龍の鱗の鎧に触れることもなくすべて弾き落とされた。


『やはりそうか・・・』


 その光景を目にしたイザナギはなにか確信を得たようにつぶやき、断風(たちかぜ)を撃とうと秋水に龍脈を纏わせている千歳を呼び止めた。


『待て、千歳!今のイザナミにお前たち()()()()()()()()()()!』


「なに!?いったいどういう─────」


 詳しく聞こうとしたその時、イザナミが再び咆哮を響かせた。この紫ヶ丘(むらさきがおか)を覆っていた結界はいつの間にか消え、空に開いた穴が緩やかな速度で範囲を拡大していき、人の形をした黒い影が彼女の足元に広がる泥の沼の底から這い出てきた。


「コイツらは・・・!?」


『"亡者(もうじゃ)"─────彼女の従者だ、黄泉の国の者まで現世に呼び寄せるとは・・・』


 戦闘力が無いに等しく亡者どもは一撃で墨汁のようとなって消えていくがその溜まりから新たな亡者が生まれ、紗奈と桐江(きりえ)を守りながら戦う千歳たちはやがて泥の沼から無限のように湧き続ける亡者に包囲されてしまう。万事休すかと思われたその時、1台の黒い車がエンジン音を轟かせ、亡者の群れを撥ね飛ばしながら千歳たちの前に停車し、後部座席の両側のドアが開いた。


 車から降りた2人の男に千歳たちは揃って驚愕の表情を浮かべ、杖をついた男が向かってくる亡者どもを一瞥し『失せよ』と紅蓮の炎を身に纏った。すると炎は周囲の亡者と泥の沼を灼き尽くすと神仏の姿を(かたちど)り、もう1人の刀を携えた男が悠然と歩き回ったのち『この程度か』といつの間にか抜いていた刀を鞘に納め、斬り裂かれた亡者どもは泥の溜まりと化す。そして運転席からは千歳の父親である玄信(はるのぶ)が顔を出し、息子たちの無事を喜んだ。


「すみません御二方、かなり急いでいたもので・・・」


「随分と荒い運転じゃったが、致し方なし」


「俺たちゃ助っ人だからよ、これくらい派手じゃなきゃな!」


 そして神酒円(みきまる)町から駆けつけた長門(ながと) 万尋(まひろ)有間(ありま) 万歳(ばんさい)に詫びの言葉を述べ、2人は気にしていない様子で空に開いた大穴と目の前の邪龍を順番に眺めた。


「まさか生きてるうちにこうしてお目にかかれるとはな・・・」


「呑気なことを・・・めでたいもののように言うでないわ!」


 掌を合わせて拝みそうな勢いの万尋に呆れ気味な万歳のツッコミが飛び、慌てた様子で駆け寄ってくる千歳と千尋(ちひろ)に気付いた万尋が笑顔で手を振った。


「祖父さん!?どうしてここに!?」


「よう2人とも、おっかねぇのが出てきちまったな!」


「御二方はあの邪龍のことをご存知なのですか?」


「まぁな、つっても()()()()()()だ、そこの兄ちゃんが一番詳しいんじゃねえか?」


 見慣れない少年が持つ異質な神秘の力を星映(ほしうつ)しの眼で見抜いていた万尋の問い掛けにイザナギは『如何にも』と答えるとまず名を名乗り、自身がイザナミの兄でありながら妹を止めるため転生者の千歳に協力していたこと、そしていま目の前にいる怪物がどういった存在であるのかを皆に語りはじめる。


伊邪奈美命(イザナミノミコト)でも、その器の邪龍でもない。星に生きながら星に牙を剥く厄災、事象の名を─────星神(ほしがみ)


 愛によって文明に生まれながら深い憎悪によって反転し、母である星を滅ぼすほどの力を有する厄災そのもの。


 その憎悪は権能として身に宿り、対象からの干渉を一切"拒絶"してしまうというのだ。


 そして"生命"を根絶させようとする程に憎んでいることからイザナギは星神(イザナミ)の権能を"生命の拒絶"と断定し、この星に生きる生命からの攻撃では彼女を倒すことができないだろうと分析した。

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