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Starlog ー星の記憶ー  作者: 八城主水
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Desire

 ─────その男は魔性の眼を身に宿してこの世に生を受け、幼少の頃から戦いに明け暮れていた。


 人間の敵が人間だけではなかった時代、彼は戦乱の中で生き残りいつしか"双璧"と呼ばれ崇められるようになっていた。妻を娶って子供を為し、双璧としての役目を継がせた後は隠居し妻と共に平穏な日々を過ごす。なんら不満など感じてはいなかったが思想の違いから子供たちが諍いを起こした時にはすでに新たな双璧の力は自分たちを超えており、ついぞ長門(ながと)有間(ありま)の対立を止めることはかなわなかった。


 この時、男は自らの力の衰えが摩耗によるものだと悟り、人間として生ける者であれば必然ではあるとわかっていながらも悔やんだ。そして同時に彼は自身の心の奥底、本能にて眠っていた願望に気づく。


 それは双璧としてではなく1人の武人として戦いの中で果てること、あまりにも永い年月、戦いに身を置き過ぎた彼の渇望を安寧では癒せなかったのだ。そして生前叶うことのなかった願いは今、若き長門の後継者によって果たされようとしていた。肉体が現世にいるこの瞬間、弌月(いつき)はただこの戦いを楽しむためだけに無我夢中で死に体であることを感じさせない動きと剣術で刀を振るいながら徐々にその身体は星の粒子となりはじめていた。


 そんな彼との戦いの中で千歳(ちとせ)も感情を昂らせ、呼応するかの如く湧き出た漆黒の龍脈は剣戟を響かせる度に研ぎ澄まされた鋼のような白銀色へと変化していく。その気迫に弌月は無意識のうち龍脈を纏い、2人は雄叫びを上げながら渾身の一太刀を撃ち込んだ。


 手応えあり─────と千歳は秋水を鞘に納めて後ろを振り返ると弌月の刀はいまの刹那ですでに霧散しており、振り抜いた彼の手にはなにも握られていなかった。この無情な結末に千歳の心中には言いようのない感情が渦を巻き、息遣いだけが聞こえる静寂のなか弌月が口を開いた。


「俺の─────負けだ─────」


「・・・っ・・・」


 消えてゆく彼に掛ける言葉など見つからず顔を俯かせる千歳とは逆に弌月が空を見上げ、己の宿願が果たされたことに笑みを浮かべる。


「千歳、長門を・・・頼んだぞ─────」


「っ・・・はい・・・!」


 そして弌月は星霊(せいれい)としてではなく"初代長門"として子孫に優しい笑顔を見せ、千歳と千尋(ちひろ)に見送られながら星の円環へと還っていった。


─────

───


 天翁(てんおう)は戻らず邪龍は倒され、自身を護衛する者がいなくなった伊邪奈美(イザナミ)は社殿の中から姿を現した。そして石段からこの瓦礫の街と化した紫ヶ丘(むらさきがおか)に降り立ち、指をパチンと鳴らすと社殿が瞬く間に消える。龍装(りゅうそう)を纏ってキャプテン・ドラゴンに変身したダンテを睨むその虚ろな眼差しに身体(うつわ)の主である紗奈(さな)の面影はなく、ただ両眼に浮かぶ円環の紋様に光を宿す。


Dragon(ドラゴン) Punch(パンチ)!」


 紗奈を神の呪縛から救うため、ダンテは青い龍脈の炎を纏った拳を躊躇うことなくイザナミに向けて撃ち込む。しかし彼女の周囲を渦巻く黒い影が炎となって青き炎を侵食し、華奢な少女の掌に受け止められる時にはダンテの拳から龍脈は消えていた。驚く暇もなく黒い炎が押し寄せ、咄嗟に飛び退いて躱しながら距離をとったダンテに再び龍脈が青い炎となって彼を覆った。


 "龍仙(りゅうせん)"である自身の龍脈でさえも灼き尽くした黒い陽炎にダンテは左手を前にかざすと龍脈を練り上げて拳を握り、爆散した青い炎が円形の盾に形状を変える。


「サナ、覚えているだろう?キャプテン・ドラゴンには龍脈で鍛えられた身体の他に唯一武器がある事を、それがこの─────"ドラゴン・ラウンズ"だ!」


 意識の奥深く、深淵にいるであろう紗奈に語り掛けた彼はイザナミに正面から突撃する。高密度の龍脈によって錬成された盾で襲い来る黒炎を払い除け、掛け声と共にダンテが拳を突き出した。


「Dragon───Punch───!!!」


 拳に込められた龍脈が青き龍の姿となって咆哮を上げながらイザナミを覆い、その熱く吹き抜ける突風に彼女は眉をひそめた。ダンテに攻撃の意志はなく、いま彼が放った一撃は紗奈へのメッセージである。アメリカの地にて育まれたダンテの龍脈、千歳の龍脈会得のため共に訪れていた紗奈もその豊かな大自然の息吹を感じていた。そしてアメリカこそは千歳と紗奈が互いに愛を告白した地でもあり、ダンテは自らの龍脈をぶつけることで紗奈の意識が目を覚ますことに賭けたのである。


(チトセもビーチェも、もちろん私も・・・優しいサナが帰ってくることを望んでいるんだ。だから・・・!)


Come back(帰ってこい)!サナ─────!」


 刹那、思いが届いたのか彼女の表情には優しい眼差しが宿り、透明な涙が頬を伝う。安堵したのも束の間、瞬きひとつで再び邪悪な眼差しに豹変、怒りを露わにしたイザナミの津波のような黒炎がダンテを襲う。そこへどこからともなく千歳が現れて黒炎の渦に呑み込まれる直前であった2人は忽然とその場から姿を消し、黒炎が虚空を灼き尽くした後ふたたび目の前に姿を見せた千歳たちにイザナミは笑みを浮かべながら彼女の黒い影が獲物を見つけたかのようにざわざわと揺らめく。千歳は龍装を身を纏い、ストリートカジュアル系だった服装が黒ずくめのスーツ姿に変化した。そして輪廻現しの眼を覚醒させた者同士の繋がりなのか、イザナミが纏う影の奥深く、深淵という闇の中に紗奈の存在を感じた。


『来たな・・・伊邪那岐(イザナギ)!』


「紗奈ちゃんを返してもらうぞ、伊邪奈美(イザナミ)─────!」


 千歳とイザナミ、愛情と憎悪、表裏一体とも言える2人の感情(おもい)が視線を伝って絡み合う。そして精神世界にてイザナギも千歳の視界を通して妹との再会を果たし、このあまりにも永い因縁に思いを馳せた。


『ようやくだな・・・決着を付けよう、伊邪奈美─────』


 こうして輪廻の法則をも超越した2人の神、兄と妹の戦いがいま幕を開ける─────

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