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Starlog ー星の記憶ー  作者: 八城主水
123/155

Ability

 戦いによる摩耗で意識は闇に融け、鼻孔をくすぐる花のような甘い香りと頭の柔らかい感触に深い微睡みから目を覚ますと千歳(ちとせ)はあの"白い部屋"のソファーで紗奈(さな)に膝枕をされていた。いつ頃からこうしていたのか穏やかな表情で千歳の頭を撫で、自身を見つめる視線にニコッと微笑む。


「起きたね千歳くん、よく眠れた?」


「え・・・あ、うん、ありがとう・・・」


 襖の向こうで伊邪那岐(イザナギ)が待っていると紗奈から告げられ、ゆっくりと身体を起こした千歳が襖を開けるといつものように『来たな』とイザナギに挨拶の言葉を掛けられる。


長門(ながと) 弌月(いつき)・・・たいした男だな、星霊(せいれい)とはいえ私たち兄妹の転生者でもない人間があそこまで"輪廻現(りんねうつ)しの眼"を使いこなすとは─────』


 向かいに敷かれている座布団に座ってイザナギの眼を凝視し、彼の両眼に浮かぶ紋様を見た千歳は『やっぱり』と呟いた。


「俺の左眼もその・・・輪廻現しの眼?ってのだ、どうすれば初代長門やイザナミのような能力を使えるようになる?」


『お前はもうすでにその能力を使ったことがある。思い出せ千歳、その時お前は─────なにを()()()?』


 イザナギは千歳の左眼に宿る輪廻現しの眼を一瞥し、いつしか彼に掛けた言葉を口にした。そして『願い』と呟きながら思考に耽る千歳がふとなにかを理解したかのような表情を浮かべ、微笑むイザナギと顔を見合せて頷いた。


「わかった─────いや、思い出したよ。ありがとうイザナギ」


「礼を言う必要などない、そうあるべきものなのだから」


 千歳は立ち上がり襖を開けて白い部屋に戻ると周りを見渡すが黒い人影の姿はなく、ソファーでコーヒーを啜りながらくつろいでいる紗奈に『行ってきます』と声を掛けて扉を開く。


─────

───


 その頃、現実世界では共に輪廻現しの眼を開眼した者同士による戦いが繰り広げられており、豹変した千歳に圧倒されながらも弌月は愉悦に満ちた笑い声を響かせる。辺りを覆う冷気と瘴気が剣戟によって斬り裂かれ、あまりの壮絶な光景に千尋(ちひろ)は加勢しようにも力が暴走している()()()()の千歳に近づくことなどできなかった。


 突如、千歳の修羅道・非天権現(ひてんごんげん)によって創造された神像が動きを止め、影となって融けるかのように消え失せた。凍てつく冷気はそよ風に変わり、冷たく殺気に満ちた眼差しが瞬きひとつで穏やかな色に変化した。氷の結晶を乗せた煌びやかな旋風に吹かれながら千歳が弌月の方を見詰め、左眼の輪廻現しの眼に龍脈を集中させて右脚を一歩前に踏み出すとその場から忽然と姿を消した。


 同時に背後から足音が聞こえ、咄嗟に弌月が後ろを振り向いた時には千歳が刀を構え振り下ろしていた。意識外からの斬撃を非天権化(ひてんごんげ)の刀を持つ腕が防ぎ、槍を持つ腕の刺突による反撃も千歳は姿を消して躱す。そして再び目の前に現れた千歳に先程とはまるで違った不気味さを感じ、弌月は自身の眼でも捉えられぬ瞬間移動を輪廻現しの眼による能力だと悟った。


「なにがあった?死に体だった先程とはまるで別人ではないか」


「色々ありましてね、でもやっとわかりましたよ。この眼の使い方を─────」


 イザナギから告げられたヒントに千歳は輪廻現しの眼が発現する能力には宿主の強い願いが結びつくのだと思いあたる。それは傲慢とも言えるほどの強い願望のようなもので、()()()も千歳はただ『紗奈(さな)の傍にいたい』と強く願っていた。その願いに応え、輪廻現しの眼が千歳に(もたら)した権能こそが"天道・現身(うつせみ)"である。


「千歳!」


 そこへ千尋が駆け寄って千歳の身体を眺めながら大丈夫かと声を掛け、彼の心配を払拭しようと千歳はちょっと寝てただけだと、冗談混じりに言った。そして変わらず弌月の周囲を漂う非天権化の腕を見た千歳がひとつ策を思いつき、なにか一撃必殺の技を撃てるか尋ねると千尋は紫電で1本の槍を錬成した。


「まだ開発したばっかでな、打ち合うとすぐ崩れてしまって投げ飛ばすことしかできないが・・・」


「十分だ、いつでも投げられるようにしてくれ!」


 そう言って千歳は秋水を鞘に納めて龍脈を練り上げながら駆け出すと行く手を遮る非天権化の2本の腕に対して黒と白の阿修羅を発現し、咆哮と共に2色の阿修羅は千歳を守護するかのように非天権化の前に立ちはだかった。弌月との距離を詰め、千歳が抜刀術による一太刀を浴びせるが難なく防がれてしまう。


「どうした、これで終いか!?」


「まだ・・・まだぁ!」


 雄叫びを上げながら千歳は秋水に大量の龍脈を纏わせ、断風(たちかぜ)の斬撃を乗せて薙ぎ払う。弌月の身体は押しのけられ、すぐさま千歳が千尋の方を振り向いて左眼に龍脈を集中させた。


 すると目の前にいたはずの千歳と離れていた千尋が入れ替わり、この一瞬のできごとに戸惑う弌月に千尋が左手の雷槍を突き出した。


雷霆(ヴァジュラ)ッ!」


 紫電の閃光が走り、咄嗟に防御した刀には千歳が放った一撃で亀裂が走っており砕け散る。なおも雷槍は弌月が纏う龍脈の鎧を灼きながら体内で脈動する魔力の核を貫き、雷鳴と共に天高く飛翔して行った。墨のような黒い血を口から垂らし、輪廻現しの眼の能力も使えずに弌月は残った龍脈で錬成した刀を地に立てて今にも倒れそうな身体を支える。


 無尽蔵な体力と魔力を誇る星霊(せいれい)も魔力の核が消滅してしまえば星の粒子となって霧散するのを待つのみ。しかしそんな状態でも弌月の闘志が潰えることなどなく『まだだ』と己を昂らせながら強く大地を踏みしめ、緩やかではあるが確実に千歳のもとへと歩みを進める。その闘志に答えるかのように千歳も秋水を手に歩きだし、千尋に呼び止められても自身の手で決着を付けると言ってもはや死に体である弌月と対峙した。


「気遣い・・・感謝する・・・」


「つまらない幕引きになんてさせませんよ─────」


 阿修羅はおろか龍脈も練れない弌月に対し千歳も阿修羅や龍脈を解いて1人の剣士として彼の前に立ち、『いざ』と声を上げながら刀を構えた2人の長門(ながと)が駆け出すと剣戟の音を響かせる。

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