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Starlog ー星の記憶ー  作者: 八城主水
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Sniper

 輝龍(きりゅう)邪龍(じゃりゅう)の咆哮が街中に木霊し、千晶(ちあき)は輝龍を援護するために璧立千刃(へきりつせんじん)によって生み出された無数の武器を射出した。しかし鱗の鎧の硬度は凄まじくすべて弾かれ、瓦礫の上に立つ千晶を鬱陶しげに睨みながら邪龍がニヤリと邪悪な笑みを見せる。


『人間如きの武具が我に通じるとでも思ったか?』


「なっ・・・喋っ───!」


 驚愕する千晶に邪龍が口から漆黒の炎を放ち、輝龍は身体に青い紋様を浮かび上がらせ大地を強く踏みしめた。すると大地から水が湧き出して壁となり、迫る業火を遮った。人間である千晶と桐江(きりえ)を守った輝龍に対し、蔓延る蒸気のなか邪龍はどこか憎悪と哀れみが混じった視線を向ける。


『人間なんぞを守護するため、我の前に立った同胞を見るのは貴様で二度目だ。だが所詮は創りものの命、龍の王である我に及ぶ筈もなし!』


 刹那、邪龍が纏う瘴気が膨れ上がり、魔力を持たぬ凡人である桐江は睡魔に襲われたかのような感覚に陥っていた。彼女の様子に気づいた千晶が急いでこの状況を打開しなければならないと邪龍を観察すると胸部になにかで切り裂かれたかのような傷痕を発見する。手に持っている剣に黄金の魔力を纏わせながら輝龍の名を呼び、その声に応えるように輝龍も咆哮をあげた。


『軟弱なる者どもが揃いも揃って、身の程を弁えよ!』


 邪龍とは即ち"龍"という神秘の生命体において頂点に君臨する者の総称、その王者としての矜恃が自身に立ち向かってくる不届き者を許せず憤怒の咆哮を響かせた。そして大きく息を吸い込み、再び吐き出されたドス黒い炎を輝龍がその身で受け止める。金剛石の鎧が赤黒く発光しながら炎を取り込み、輝龍は邪龍の両腕をとっ掴んで抑え込むと千晶へ視線を向けた。


「───すまん!」

 

 輝龍の意図を汲み駆け出した千晶が大地を蹴って飛び上がり、渾身の力で剣を振り抜くと飛翔した黄金の斬撃が傷痕をこじ開ける。傷口からはまるで心臓のように力強く脈動する禍々しい魔力の(コア)が垣間見え、激昂した邪龍が拘束を振りほどいて怒号をあげながら鋭い爪を千晶に向けて振り下ろす。


 巨大な鋭い爪が迫るこの状況のなか千晶は遠くから『ドォンッ!』という音が聞こえ、恐れるどころか不敵な笑みを浮かべる。そして次の瞬間、どこからともなくレーザーのような一筋の光が魔力の核を貫き、邪龍は両眼を大きく見開いて動きを止めた。


「───うし、任務完了ミッションコンプリート!」


 邪龍の体内にある魔力の核を撃ち抜いた千悟はそう呟きながら狙撃銃のスコープから目を離し、安堵のため息をついた。そして地上に降りると紫ヶ丘に戻るためバイクに跨ってエンジン音を響かせながら全速力で走り出す。道中、魔力の瘴気によって身体を侵蝕され、倒れている人々を目にして魔性が一般人に与える影響というものをあらためて認識した。


 魔力の瘴気の放出が止み、邪龍は白目を剥いて動く気配を見せない。今にも倒れそうな桐江を気にかけながらすぐにでもこの場を離れようとすると魔力の核を撃ち抜かれたはずの邪龍の目に生気が戻り、瘴気を身体に纏って再び動き出した。龍種の王である邪龍には魔力の核が複数あり千悟が狙撃したのはそのひとつに過ぎず、目覚めた邪龍は同胞でありながら人間と共に反旗を翻した輝龍を尾の一撃で薙ぎ倒した。地に伏した輝龍の眼前に邪龍は歩を進め、かざした腕に禍々しい龍脈を纏わせる。


『この痴れ者が、もはや哀れみなどない。我が手を以て偽りの生命に幕を下ろしてやろう・・・!』


「輝龍─────!」


 千晶の叫びも虚しく邪龍の龍脈によって棘とも呼べるようにまで研がれた爪が輝龍に向けて振り下ろされる。しかし突如として飛来した青い彗星が邪龍の腕を弾き、砂塵を巻き上げながら滑るように千晶と桐江の前に着地した。青い炎は渦を巻いて龍の顔が光と共に浮かび上がり、炸裂した蒼炎の中からヒーロースーツに身を包んだ男───ダンテが姿を現す。


「あなたは・・・!」


「そこで休んでいろ、少年ッ!」


 そう言葉を掛けてダンテは青い炎を身体に纏うと大地を蹴り、瞬く間に邪龍の背後へ回り込む。そして───


Dragon(ドラゴン) Kick(キック)!」


 青い彗星となって邪龍の身体を貫き、体内にある魔力の核を撃滅した。断末魔の咆哮をあげながら崩れるように地へと倒れ伏し、邪龍の生命が終わりを告げる。『|Rest In Peace《安らかに眠れ》』と屍の前でダンテが静かに呟き、不自然に建てられた社殿へ視線を移すと中で悠々と座している少女を見つめた。


 映画館で初めて千歳(ちとせ)紗奈(さな)に出会った時からダンテは伊邪奈美(イザナミ)と近しいような禍々しいものを紗奈に感じていた。しかし弟子であり良き親友でもある千歳が彼女を想い、命を賭してまで守ろうとしていたがゆえに言い出せず、自身や妻、千歳と接している時の紗奈は普通の女の子でありいつしかダンテは『気のせいだ』と思うことにした。


 そして今、紗奈の影に潜んでいた邪悪なる者が世界に牙を剥いた。優しかった少女の面影はなく、禍々しい眼差しで自らの敵を睨む。一瞬、妻であるベアトリーチェの顔が浮かび上がり、ダンテは悲しげな表情を見せた。


「サナ、今の君の姿をビーチェが見たらどれだけ悲しむことか・・・だが安心したまえ。英雄(ヒーロー)として、友人として私が君を救おう!私のファンである君なら知っているだろう?」


 青い炎の龍脈を渦状に辺りへ放出し、霧のようにこの場を満たしていた邪龍の瘴気を熱風で吹き飛ばす。太陽の光が射し込みクリアになった景色の中でダンテはポーズを取り、()()決めゼリフを言い放った。


『私が来たからには、君たちに"不安"や"絶望"は有り得ないッ!』

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