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Starlog ー星の記憶ー  作者: 八城主水
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Set up

「それで・・・あのバケモンを倒す作戦ってのはどんなのよ?」


 目の前では2体の巨龍が睨み合っており、まるで映画のような光景に呆然としながら千悟(ちさと)が訊ねると千晶(ちあき)は自身の相棒である輝龍(きりゅう)と対峙する邪龍(じゃりゅう)を指さした。そして異形や妖魔、神秘と呼ばれるものたちには魔力の(コア)なるものが身体の中にあり、それを破壊すれば邪龍を倒せるかもしれないと言う。


「俺も輝龍もヤツを相手にするので精一杯だ。そこで千悟、お前にはあの龍の核を撃ち抜いてもらいたい」


「なるほどな、俺ら人間で言う心臓みたいなもんか・・・」


 千晶の言ったとおり魔力の核があの邪龍にもあったとしてそれがはたして人間の手によって破壊できるものなのか、再び邪龍を見上げながら千悟はあらためてその巨大さに圧倒される。


「お前の射撃の腕を見込んでの作戦だ、いけるか?千悟───」


「・・・ふっ、当たり前だろうがよ。一発で沈めてやるぜ!」


 千晶のこの言葉で闘争本能に火がついた千悟は意気込みながらバイクに跨り、どこに行くのかと訊ねられる。するとあれだけの巨体となると魔力の核も強靭であることが予測でき、普段使用している拳銃(リボルバー)では撃ち抜けないであろう。なのでこの状況に見合った得物を用意するのに一旦この場を離れ、準備ができしだい連絡すると千晶に伝えて千悟はエンジン音を響かせながらバイクで走り去っていった。


「さて、じゃあ俺は核を引きずり出すとしますか。桐江(きりえ)、お前も遠くに避難してていいんだぞ?」


「愚問です坊ちゃん、主人を置いて逃げるメイドなど論外です」


「まぁ、そう言うと思った・・・」


 桐江の身を案じ、避難を勧めるが彼女はそれを拒む。しかしその反応も予想できていた千晶が彼女の気概に感心しながらぼやくと『じゃあ聞かないでください』と呆れ気味に言われ、『ごめんごめん』と微笑んだ。


「じゃ、俺から離れるなよ?桐江───」


「かしこまりました、坊ちゃん」


 千晶が黄金の魔法陣を展開し、地皇権唱(ちおうごんしょう)"璧立千刃(へきりつせんじん)"を唱える。煌びやかな無数の宝石が宙を漂い、そのうちのひとつを握りしめると1本の剣に姿を変えた。そして他の宝石も様々な武器に姿を変えて周りを漂い、邪龍を睨む千晶の瞳は金色に輝いていた。


─────

───


 紫ヶ丘から離れた場所に建ち並ぶ高層マンション、その屋上で千悟が千晶に準備完了の報せを送るとすぐに『了解』という桐江が打ったであろうメッセージが返ってきた。狙撃銃のスコープを覗き邪龍に照準を合わせるが、あの怪物はその巨体からおびただしい量の魔力の瘴気を撒き散らしており道中ですれ違った救急車の数からしても周囲に影響を及ぼしていることが想像できる。


「頼むぜ千晶、早めにあの怪物をぶっ倒さないとやばいかもしれねぇ・・・」


 ──────その頃、突然の緊急事態警報によって避難を余儀なくされた人々の中には突然倒れて昏睡状態になる者が相次ぎ、突然飛び起きたかと思えば墨のような黒い血を吐き出したり『声が聞こえる』と発狂して周囲の人々に襲いかかる等々、原因は不明で患者たちに共通しているのはあの紫ヶ丘から避難してきたということのみでありこれには駆けつけてきた救命救急医たちも手の施しようがないという状況に陥っていた。


 邪龍の撒き散らす魔力の瘴気、古くより"魔性"に携わってきた者たちやその家系の人間には無害なものであるが魔力を持たず耐性もない凡人たちにとってそれは猛毒であり紫ヶ丘から避難してきた人々の心身を侵蝕していた。悲鳴や怒号が響き渡り、魔性がもたらす恐怖と狂気が支配するこの状況で無力な凡人たちは正気を保つのが精一杯である。


「ちょいとすみません───あ〜これは・・・」


 そこへ白衣を纏った男が現れ、患者を見るや面倒くさそうな声をあげた。そして傍の看護婦に声をかけるとなにやら薬品が入った注射器を受け取り、それを慣れた手つきで患者の体内に注入する。


「よし、これで時間が経てば落ち着くでしょう」


「ち、ちょっとアンタ!いきなり現れてなにを勝手な─────!?」


 困惑しながらも声を張り上げる救命救急医、しかし薬品を投与された患者の表情からは段々と苦悶の色が抜けていきやがて呼吸も落ち着いた。


「き、奇跡だ・・・あなたはいったい!?」


「あ、申し遅れました。私は神酒円(みきまる)町で医院を営んでおります狭間(はざま)という者です」


 丁寧な口調で自己紹介をしながら千悟の父、英世(ひでよ)は名刺を手渡した。古来より長門(ながと)有間(ありま)と共に妖魔たちから人々を守護してきた狭間家の現当主である彼は魔性に対する知識や対策は万全に整えており、自身の医院にて看護婦を務めている妻と共にこの場へやってきたのだ。


「現在、この場で原因不明の昏睡状態にある患者は皆さんが認知できていない新種のウィルスのようなものに感染している状態です。この事態を収束するため、救命救急医の皆さんには私の指示通りに処置を行っていただきます。よろしいですね?」


 いきなり現れて突拍子もない事を言い出す英世に救命救急医たちは訝しげな表情を浮かべるが彼は自分たちが手を尽くしても快復に至らなかった患者を注射器1本で処置してしまった。絶望的な状況に現れた1人が起こしたひとつの奇跡は疑念を払拭するには十分すぎるものであり、英世の提案に一同は顔を見合わせて頷いた。


「わかりました、狭間先生の指示に従います」


「よろしくお願いします、ではまず───」


 それから英世は医師や看護師に指示をしながら自身も妻と共に患者の処置にあたった。休憩する暇などなく、彼の助手を務める妻が思わずぼやいた。


「まったく人使いが荒いねぇ、私だって普通の産婦人科の助産師なんですけど?」


「まぁまぁそう言わず、頼むよ看護師長」


「はぁ〜・・・まぁ息子が戦ってるんだし、お母さんも頑張らないとね」


 英世に笑顔を向けられた妻は大きくため息をつき、ふと紫ヶ丘の惨状を眺めながらつぶやく。そして両手で頬を叩いて自分に気合いを入れ、『よし!』と声をあげると次の患者のもとへスタスタと歩いていった。その姿に頼もしさを感じた英世も紫ヶ丘の方を見て息子たちの無事を祈り、処置を待つ患者のもとへと駆けだしていく。

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