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Starlog ー星の記憶ー  作者: 八城主水
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Organization

 外では緊急事態を報せるサイレンが鳴り響き、息子に何度も電話を掛けているが出ない。兄を心配する双子姉妹に『大丈夫』と言い聞かせ、(かえで)は息子の無事を祈りながら避難のために娘たちを連れて家から出た。


─────

───


 空で炎と雷が爆ぜ、大地では2体の巨龍が戦いを繰り広げている。そんな光景に初代長門(ながと)───弌月(いつき)はどこか懐かしさのような感情を覚えながら自らの前に立つ久しく見ぬ強敵に胸を躍らせ、嬉しそうな微笑みを浮かべた。そこへスマホの着信音が鳴り、千歳(ちとせ)が『失礼』と画面を見ると父である玄信(はるのぶ)からの電話であった。


「もしもし」


『千歳か!?お母さんが心配していたぞ、どこにいるんだ!?』


 スマホを耳にあて、心配と焦燥が混じった父の声が聞こえてくる。そしてどこにいるのかという問に対して千歳は誤魔化すこともなく紫ヶ丘(むらさきがおか)にいることを伝え、すぐにその場を離れるように促されるがやらなければならないことがあると言って拒んだ。息子の言葉になにかを察した玄信はおそるおそる千歳に訊ねる。


『そこに初代長門がいるのか・・・?』


「・・・いる」


 玄信は愕然とした。守るべき息子がまたしても渦中にいること、そして───すぐに駆けつけていくことができない自分の現状に。


『すまない・・・俺はダメな父親だ。お前がピンチだというのに、駆けつけてやることすらできない』


「俺は・・・戦うことしかできない。それしか"守る"方法が思いつかないんだ」


 家族を守れないばかりか初代長門の相手を千歳に頼らざるを得ず玄信は自戒の言葉を呟き、そんな父に千歳は静かに言葉を掛ける。以前の戦いの後、千歳は玄信に言伝を頼まれた母から父が政府に属する機関の室長を務めていることを告げられた。異形や妖魔、神秘といった存在から人々を守るために設立された機密組織であり、そのことを聞いたとき千歳は各地を飛び回って人々を守っている父をとても誇らしく思った。


「父さんは俺よりも大勢の人たちを守れる・・・父さんは俺の自慢の父親だよ」


『───っ!』


 機密組織だから周りには言えないけど、と千歳は残念そうに付け足した。熱い気持ちが込み上げ、息子の意図を察した玄信は大きく息を吸って息子に告げる。


『わかった。初代長門はお前に任せるぞ、千歳───!』


「───あぁっ!」


 通話を終えた千歳はスマホをしまい、再び弌月と立ち会う。秋水の柄に手を添えて構えたその姿勢に弌月が『ほぉ』と感嘆の声を洩らした。


「お待たせしてしまい申し訳ない」


「構わんさ───その分楽しめそうだからな」


 しばしの静寂が流れ、2人は身体をゆらっと揺らめかせながら姿を消した。そして次の瞬間には剣戟の音を響かせながら刃と刃が交わり、千歳と弌月はこの時を待ちわびていたかのように笑みを浮かべる。


 ところ変わってここは紫ヶ丘駅前、"秘匿"という言葉を表現するかのような黒ずくめのスーツに身を包んだ者たちが一堂に会していた。未だ"魔性"という存在が公表されていないためここに招集された者たちが所属する組織については世間的に機密事項である。しかしこのたび紫ヶ丘にて起きた事変により人外という存在が世に知られることとなり、それは即ちこの国の影で活躍していた彼らの存在も明らかになるということでもあった。


 |超常自然現象及災害対策室《ちょうじょうしぜんげんしょうおよびさいがいたいさくしつ》─────遥か古来より人々は異形といった人外の者たちによって人知れずその命を絶たれ、喰われていった。しかし人間も全く無抵抗というわけではない。力ある者たちを集め、"祓魔師(ふつまし)"の称号を賜った彼らは人外の者たちを人知れず屠り去っていた。それから時代は流れ、祓魔師と呼ばれていた彼らは現代風にその名前を変えて変わらず人々を守っている。


 そして現在、彼らを束ねているのは千歳の父である玄信。長門家の権能である霊写(たまうつ)しの眼をその身に宿し、父親譲りの剣術で前線に立ちながら数多の異形どもを屠ってきた。そんな彼に全幅の信頼を置いていた部下たちもこの紫ヶ丘の現状を報され、不安と恐怖に表情を歪ませている。


「みんな───怖いか?」


 玄信が目の前に列をなす部下たちにこう尋ねると様々な反応が見え、同じなのは死の恐怖に怯えていること。それは此度の作戦の隊長として先頭に立つ玄信も例外ではなく、『俺もだよ』と皆に微笑みを見せた。意外そうにざわめく部下たちに玄信は『だが!』と続けながら、今もここで戦っている千歳や家族のことを思い浮かべる。


「俺は息子を───家族を守るために今日戦う。とはいえ、お前たちにまで命を懸けて戦えなんて言わない。もし死にそうになったらその時は・・・ジャケットを脱ぎ捨てて、ネクタイ解いて逃げてしまえ!」


 冗談交じりに言った言葉に皆が微なり大なり笑い声をあげ、恐怖に染まりきっていた雰囲気は和んだ。


()()()に関しては現在、()()()()が対応してくれており此度の作戦の主はあくまでも周辺の人民の避難、及び要救護者の救出だ。自身を含め人命を最優先に行動せよ!」


 玄信があらためて作戦の詳細を告げ、一同が『了解!』と声を揃えて返事をする。そして─────


「これより本作戦は状況を開始する!繰り返すが、自身の命を最優先に行動せよ!」


『了解!状況開始!』


 掛け声と共に人々が散り、彼らエージェントの作戦が開始された。そして現実離れした光景を見詰めながら玄信は息子の無事を祈り、自身も部下を率いて救護活動を開始した。エージェントたちは状況に圧倒されながらも作戦を遂行し、突如として現れた黒服たちに戸惑いつつも彼らの救護を受けた人々が魔力の瘴気と不可思議な危険に満ちたこの街から次々と離れていった。

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