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Starlog ー星の記憶ー  作者: 八城主水
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Mediocre

 入学式から1ヶ月が経ち千歳たちの通う学校では前年度の生徒会のメンバーと教師数人が生徒会室に集まり会議している、元3年生が卒業したことによる役員の空きを今年度は誰が勤めるか、はたまた今年度新たに入学してきた1年生の生徒会役員の候補の推薦などを話し合っている。


「では、今年度の生徒会長の立候補は榊だけかな?」


 1人の教員が現生徒会のメンバーに問いかけると、誰も異論はないようでみんなが『はい』と返事している。そんな中、別の教員が手を挙げた。


「あー・・・ひとつ、意見よろしいかな?私は今年度の生徒会長は有間でも大丈夫だと思うのですが・・・」


 その教師の発言に、美琴は思わず膝の上で組んでいた手を一瞬ギュッと握ってしまう。


「有間ですか?まあたしかに前年度は1年生ながら上学年の生徒に意見したり時にはまとめたりと、よくやってくれてましたからねぇ・・・」


「そうでしょう?生徒からの信頼もありますし、2年生といえど生徒会長を務めることに誰も文句は言わないでしょう」


 顔では無表情を保っているが美琴は心の中では慌てふためいていた、1年生の時に生徒会に入った時から生徒会長になるために頑張ってきたからだ。


 規律を重んじ生徒ともそれなりに信頼関係を築けているつもりだった、なにより生徒会長になれば千尋の許嫁としての面子が立ち、有間のご隠居である万歳に少しは認めてもらえるだろうと。


 しかし、その努力が水泡に帰すかもしれない、今新たな生徒会長候補が現れたからだ。


 成績優秀で生徒から信頼を受け融通も利く千尋相手には、ただのカタブツである自分は勝負にならないかもしれない。


 組んでいる手に無意識に力が入る、千尋はどう返事するだろうか、それだけが気がかりであった。しかし当の千尋本人は───


「え、いやいや俺は今年度は副会長に立候補しますけど。生徒会長候補は榊先輩以外考えてないです」


 と、唖然としながら手を顔の前で振りそう答える、美琴は思わず安堵するがそんな自分に自己嫌悪の念も抱いてしまう。


─────

───


 夜、今度の生徒集会で使う資料や役員立候補の演説の準備が一段落した美琴は有間家の屋敷の縁側で1人紅茶を飲みながら夜空を眺めていた。そして、昼間の会議のことが頭をよぎってしまう。


(有望な人間が生徒会長になるのは至極当然だというのに、私は・・・)


 ひとつため息をつき、紅茶をひと口飲むと傍に置いていた携帯電話が鳴り出し美琴は画面を見ると通話ボタンを押す。


「もしもし」


『・・・美琴か?父さんだよ』


 電話の相手は美琴の父親だった、美琴の実家は関西の方にあり有間家の許嫁になる際に関東の有間の屋敷に住むようになったのだ。


「うん、久しぶり・・・て言っても、前の月に会ったけど」


『・・・そうだな、有間家のほうはどうだ?なにか厳しいお叱りとか受けてないか?』


 心配そうに聞いてくる父親、美琴が『大丈夫』と返すと『ならいい』と安心している。


『なにか耐えられないことがあればすぐ帰って来なさい、なんだったら父さんが迎えにいくから。』


「うん、大丈夫。千尋さんはよくしてくれてるから、お爺さまは厳しいけど」


 美琴がそう言うと父親は電話の向こうでため息をつく。


『千尋・・・か、彼も意地が悪い。何人も候補がいただろうになんで美琴のような普通の女の子を選んだんだ』


「父さん、千尋さんは悪くないよ。彼を責めないであげて」


 美琴にそう言われ『すまん』と謝る父親、だが確かに美琴は不思議に思っていた時期もある。


 有間家の次期当主である千尋の許嫁を決める際、才覚溢れる女性が何人も候補に上がっていたのだが千尋はそれらを断り、平凡な女性である美琴を許嫁に選んだのだ。


 平凡な美琴が他の候補者の女性達に勝っていた点といえば、千尋と過ごした時間の長さくらいだ。


 昔から有間のご隠居がよく関西の方に行くので小さい頃の千尋はそれに付いていき、榊家に立ち寄った時に歳も近い美琴と一緒に遊んでいた。


(前は『みこ姉ちゃん』、なんて呼んでくれたっけかな・・・)


 思い出しながら『ふふっ』と笑う美琴、許嫁として会った時もそう呼んで親しくしてくれたのだが、美琴は平凡な自分を選んでくれた千尋のために自分に厳しくしていた、千尋の優しさを突き放してしまった。


『まあ、今日は生徒会のなんかが近いと聞いて電話したんだ。なれるんだろ?生徒会長』


「うん、一応は」


 千尋があの時、生徒会長に立候補していたらもしかしなくても自分はなれなかっただろうと思いつつ美琴はそう返事する。


『そうか、大変だろうが頑張ってな。体調に気をつけろよ』


「うん、ありがとう」


 美琴が礼を言うと電話が切れる、美琴は電話を縁側に置くと大きなため息をつく。


(私はあまりに平凡な女だ、なのに千尋は私を選んでくれた。それに報いるために、私は・・・)


 そこへゆっくりとした足音が近づく、美琴が振り向くとそこにはスーツ姿の男性が立っていた。会合の時、有間のご隠居の横に立っていたスーツ姿の男性である。


「ご夜分にお伺いした無礼をどうか御容赦ください。お話があり参ったのですが、部屋の明かりが点いてらっしゃらなかったので、聞きましたらここだと」


「あ、ごめんなさい。生徒集会の準備が一段落したので夜空を眺めて物思いに耽ってました、それでお話というのは?」


 美琴に聞かれるとスーツ姿の男性、(かい)は縁側で靴を脱いで揃えて置き、部屋の明かりを点け美琴に向かいに座るように促す。


 美琴が部屋の大きなテーブルを挟んで魁の向かいに座ると、魁はかけている眼鏡をクイッと指で上に押すと先程のにこやかさとは逆の真面目な表情で話を切り出す。



「有間家を元に戻すために、ぜひ榊様のお力をお借りしたいのです」

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