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Starlog ー星の記憶ー  作者: 八城主水
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Truth Ⅱ

 咲耶(さくや)が出ていった大広間は静かで険悪な雰囲気に包まれており、顔を俯かせている万歳(ばんさい)の隣で万尋(まひろ)が『あーあ』と声をあげた。


「お前なに考えてんだ?なにも姉御を敵に回すようなこと言わなくたってよかっただろうがよ」


 この言葉に万歳は苛立ちを覚え、『チッ』と舌打ちをしながら万尋を睨みつけた。


「呑気にも程がある、そもそも椿(つばき)嬢が厄災(わざわい)の子を身に宿していることはわかっていたはずだろう?貴様にはあの眼があるのだからな」


「人の影の色なんて千差万別だ、いちいち気にしてねぇよ。それに、孫が産まれるのを姉御がたいそう楽しみにしていた事くらいお前にだってわかるだろう?」


 再び小言を言い合う祖父たちに千歳(ちとせ)はたとえこの場にいる誰にも聞こえないとわかっていても黙ってはいられず、声を荒らげようとするがそれよりも先に紗奈(さな)の母親である椿が『あの!』と声を張り上げた。


「私、夫と一緒にどこか田舎へ引っ越してこの子を産みます。もしこの子が厄災の子であったなら、世界を滅ぼしてしまうような子ならその時は───私がこの子を殺します」


 覚悟を決めた椿は祖父たちに向けてそう言い放ち、その迫力に2人は思わずたじろぐ。そして紗奈の父親である(いわお)が隣から『よく言った』と妻の肩を抱いた。


「御二方、いま妻が言ってくれた通りです。私たち夫婦に産まれた子供を殺すなどという選択はできません、なので静かな土地に移り住んで子供の成長を見届けようと思います」


 椎名(しいな)夫婦の2人は顔を見合わせると互いに頷き、今言ったことが単なる思いつきではなく断固たる決意のものであることを示した。そしてこのことが場の空気を大きく変え、千歳の父親である玄信(はるのぶ)が立ち上がると巌の肩を背後から優しく叩き、振り向いた巌に玄信はニッと笑顔を向けた。


「気軽に会えなくなるのは残念だけど、ちょくちょく遊びに行く。俺の子供も連れていくよ、(ゲン)


「玄信・・・」


 巌は玄信の厚き友情に思わず涙を流して頷き、『泣くなよ』と笑いながら玄信は巌の肩をパシパシと叩く。


「父さん、俺は椎名夫婦を支持する。いいよな?」


「いいに決まってんだろ。俺ら長門家は椎名夫婦の決断を尊重する」


 真剣な眼差しで玄信が上座に座る万尋の方へ振り向き、伺うと万尋もニカッと笑った。そして万歳の息子である道雪(どうせつ)が父の思い悩む表情を見てなにかを決断し、『提案がある』と発言した。その提案とは─────


「父さん、有間と長門の対立関係を取り払いましょう。もはや人間同士で憎しみ、(いが)み合っている場合ではありません。御当主、何とぞ私の提案をお聞き入れください」


「珍しく発言したかと思えばなんと莫迦なことを、そんなことをすれば儂は先代に顔向けできん。こやつらとの因縁は───」


「『仕来り』だと言うのでしょう、ですがそれは父さんがそれほどに苦しんでまで後世に遺さなければならないものなのでしょうか?」


 言葉を遮り、反論してくる息子を万歳は睨みつけるが道雪は怯む様子を見せることも無く言葉を続ける。


「有間と長門、双璧が並び立てば厄災を祓うこともできます。友人に辛い決断を迫らずにすみます。そしてなにより産まれてくる命を祝福することだって・・・ですから何とぞ、長門と和解を!御当主!」


 勢いに圧され、万歳は返す言葉もなかった。隣では万尋が『ぶはっ!』と吹き出し、目に涙を浮かべるほどに大声をあげて笑う。


「あー・・・道雪!今のお前さん、この有間よりもよっぽど当主らしいぜ!」


「い、いえ、とんでもございません」


 愉快そうな万尋に道雪は遠慮がちにお辞儀をする。『よし!』と声をあげながら柏手を鳴らし、万尋は玄信の方を向いた。


「おう玄信、俺は道雪の提案に乗って有間と和解しようと考えてんだがよ。構わねぇよな?」


「もちろん、先代がどうかは知らないが俺たちは有間になんの恨みもない」


 提案を呑み、有間と和解する意思を示した万尋と玄信に道雪はお辞儀をして御礼の言葉を述べた。肝心の万歳は腕を組んでなにも言わぬまま、苦悶にも見える表情で思い悩んでいる。呆れ気味にため息をつきながら万尋は膳の上の盃に酒を注ぎ、万歳の膳の上の盃にも酒を注ぐ。


「こいつ頑固だからよ、言葉を言わすより()()()のが(はえ)ぇんだ」


 そう言って盃を持った手を差し伸ばすと万歳は酒で満たされた器をじっと見詰め、ゆっくりと組んでいた腕を解いて盃を手に取る。そして万尋のことをジロッと睨みながら盃と盃を軽く合わせ、不服そうにしながらも酒を一気に飲み干した。万尋も一緒に酒を飲み干し、『カーッ!』と嬉しそうに声をあげる。


「これで長門と有間は和解───っつうことだな?」


「あぁ、儂も奥方に殺されたくはないからな」


 万歳は空になった盃を膳の上に置くとなにかが吹っ切れ、申し訳なさそうな表情で椎名夫妻と顔を見合わせると頭を下げた。


「先程の非礼を詫びる、すまなかった。もう二度と、あなたたちの子を『厄災の子』などと呼びはしない。もし許されるのであれば、御二方にはこの地に留まっていただきたい。我ら有間家も、産まれてくる命を祝福したい」


 突然の行動に椎名夫妻は驚き戸惑ったが誠意のこもった言葉を聞き、万歳を許すことにした。そして一件落着の雰囲気の中、万尋が何かを思いついたかのように声をあげる。


「道雪よ、和解の記念として俺の名前から一文字、お前の子に付けてくれないか?」


 気軽に返事できる事ではなく、これには道雪も思わず万歳の顔色を伺うと万歳は『頂戴しろ』と頷いた。そして万尋は玄信に万歳の名前からも一文字頂戴するように提案し、その際に万尋が万歳を名前で呼んだことからまた2人の口喧嘩がはじまった。しかしお互いにもはや先程のような敵意などなく、場は微笑ましい雰囲気に包まれていた。


「先祖の名前からもらえばよかろう!?」


「そんなん和解の証になんねぇだろうが。玄信、こいつの『歳』の字をもらっちまえ!」


 こうして古くから続いていた長門と有間の因縁は終わりを告げ、後に産まれた両家の子供には『千歳』と『千尋』の名が付けられた。長門と有間の和解は狭間(はざま)家や開賀(ひらが)家にも伝わり、『千悟(ちさと)』と『千晶(ちあき)』の名が子供に付けられることとなる。この4人の名前に印された『千』の文字、その意味とは───『双璧の意志を継ぎ、一丸となってこの世を守護する』

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