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Starlog ー星の記憶ー  作者: 八城主水
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Reincarnation Ⅱ

 千歳(ちとせ)の前に突如として現れた伊邪那岐命(イザナギノミコト)を名乗る青年、彼は"夢"だと思っていたあの白い部屋が千歳自身の精神世界だということ、そして"長門(ながと) 千歳(ちとせ)"という人間は伊邪那岐命の転生者であることを告げた。


「それで・・・どうしてイザナギは今になってここに?俺が"転生者"ってことはずっとこの世界にいたんじゃなかったんですか?」


『あの白い部屋には入れずにいたんだ、鍵でも掛かっているかのようにね。しかし君が龍脈を会得してからは私も入れるようになり、今こうして君とも話せるしここから君に言霊を送ることもできた』


 白い部屋にいる紗奈も言っていた、『部屋に鍵が掛かっていた』と。龍脈の修行の際に千歳があの白い部屋の主である黒い人影と向き合ったことで鍵が開き、紗奈と幼い頃の紗奈に瓜二つの少女は部屋に入ることができた。つまりイザナギも部屋の外にいた者達のひとりだったのである。


『今日君をここに呼んだのは真実を話そうかと思ってね』


「真実・・・?」


 千歳が繰り返し尋ねるとイザナギは頷き、どこからか紐で閉じられた巻物を取り出す。そして紐の結び目を緩め、巻物を千歳に差し出した。


『まずはこれを読んで見てほしい』


 巻物を受け取って開いてみると筆文字で書かれており、現代では見慣れない字体の文章ではあるものの千歳には文字が読めた。


『不思議に思うことは無い。ここは汝の精神世界、ここに汝が理解出来ぬものは無いのだから』


「なるほど、たしかに・・・」


 千歳は納得し、巻物を読みはじめると文章の内容がまるで映画のように鮮明な映像となって頭に思い浮かぶ。


─────

───


 我は突如としてそこに産まれた。辺りは雲に覆われ、空を浮かんでいるかのような感覚が常にあった。不思議なことに、我とおなじ姿をした者がもう一人いたのである。その者と我は顔を見合わせ、お互いに『汝は誰?』と問いかけていたように思えた。


 やがて私は『伊邪那岐命』、()()は『伊邪奈美命(イザナミノミコト)』という名だとわかった。現世(うつしよ)に満ちた泥から大地を創造する使命を与えられた我ら兄妹は天の橋から大地を見下ろし、先人たちから授かった矛で泥を混ぜた。すると引き上げた矛の刃の先端から滴り落ちる泥の雫が固まって島となり、我らはそこへ降り立った。


 それから縁を結んだ私と伊邪奈美は国を産み、神々を産んだ。そして神たちとは別に我らと同じような姿をした『人間』という生命も誕生し、伊邪奈美は彼らを気に入っていた。"神"と"人間"が共存し、我ら夫婦も平穏を謳歌していたがそれは突如として崩れ去る。


 ある時、伊邪奈美は炎の神を産むと身体に火傷を負い、亡くなってしまう。私は哀しみと怒りのあまり剣で炎の神を斬り殺し、涙が枯れ果てるまで泣いた。そして私は伊邪奈美に会いたい一心で黄泉の国に降る門の前までやって来ると彼女の名を呼びながらその門を力強く叩いた。すると門の向こうから伊邪奈美の声が聞こえ、私は『迎えに来た』と一緒に現世に戻りたいという意思を伝えたが黄泉の国で過ごすうちに身体が穢れてしまったと伊邪奈美は現世に戻ることを拒んだ。


 それでも私は伊邪奈美と添い遂げたいと語りかけ、その想いが通じたのか彼女が共に現世へ還ると言ってくれた。身体に纏わりついた瘴気は現世の者たちには猛毒なため、禊をしてから黄泉の国を出ると言って伊邪奈美は黄泉の国の深奥に戻って行った。その際、『絶対に中に入ってはならぬ』と言われ、私は門の外で彼女を待つことにした。


 しかし待てども待てども伊邪奈美は門から出てこず、私は彼女が黄泉の国の者たちに引き止められているのではないかと門を開けて黄泉の国に足を踏み入れた。永く暗い道を歩いた先で一人の女が黒い水で禊をしている。眼は虚ろに影り、禍々しくどす黒い雷を身に纏っていた。すぐにその女が伊邪奈美だと気づいたが私の知る彼女と雰囲気があまりにもかけ離れており、虚ろで禍々しい眼差しに睨まれた私は恐怖のあまりその場から走り去ってしまった。


 伊邪奈美の怒号が黄泉の国中に響き渡り、彼女が差し向けてきた追手たちを振り切りながらなんとか黄泉の国の門を抜けた。息を切らしながら後ろを振り返るとそこで伊邪奈美が憎悪の眼差しでこちらを睨み、私は咄嗟に巨大な大岩で黄泉の国と現世の境目を塞いだ。大岩にもたれかかり、ひと息つくと向こう側にいるイザナミが怒りに満ちた声色で私に声をかける。


「なぜだ伊邪那岐!?『黄泉の国に入ってはならぬ』という契りを破って私を辱めたばかりか背を向けて逃げ去り、このような(もの)で私たちの間を遮るとは!断じて許せぬ、今すぐにこれをどけよ!」


「ならぬ!そなたはもう私の愛した伊邪奈美ではなくなってしまった・・・現世に戻ってはならぬのだ!」


 私の言葉を聞き、伊邪奈美は更に狂ったような声で私の名を呼びながら岩を殴りはじめた。声と音が向かい側にいる私にも聞こえ、恐怖に耐えながら伊邪奈美の怒りが鎮まるのを待った。やがて静かになり、慄く私に彼女はこう言い放つ。


『私の愛しい伊邪那岐、そなたが私と袂を別つというのであればもはや愛情など無い。そなたと私が産んだ国と生命、神と人間の(ことごと)くが絶え滅ぶまで呪い殺す!』


 あれほど子供たちや人間を愛していた伊邪奈美がそのような恐ろしいことを言うとは想像したこともなかった私は唖然としたが、ここでなにも言い返さなければ彼女の呪いが現実となってしまう。そう思い私は言霊を返した。


『私の最愛なる伊邪奈美よ、そなたが生命を滅絶しようと言うのであれば、私が汝の呪いから生命を守ってみせる。そなたが呪い殺した数よりも多く、生命を誕生させる!』


 互いに言霊を唱え、しばらくの沈黙が流れると伊邪奈美の気配が遠のいていくのを感じた。私はその場に座り込み、身体を休めながらふと伊邪奈美のことが思い浮かび涙を流す。


 現世に戻り、黄泉の国の瘴気で穢れた身体を禊で洗い流していると特別に強い力を宿した神が誕生した。その後にも様々な神が産まれ、このような事で神が産まれるのであれば伊邪奈美に苦しい思いをさせずいられたかもしれないと私はひどく悔やんだ。


 哀しみに暮れていたある時、伊邪奈美が人間として現世に転生したという話を聞いた私は現世と天界を禊の際に産まれた特別な神たちにまかせ、『生命の悉くを呪い殺す』と言った伊邪奈美を止めるために私も人間として現世に転生した。こうして私と伊邪奈美による因縁、輪廻の旅が始まったのである。

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