表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/28

第15話 初めての都市で資金調達

 ダアトの研究所を脱出したシオンとリィエルは、都市の門にたどり着いた。


「すぐ傍で見るとけっこうな高さがあるな」

「うん」


 シオンが門と城壁を見上げて目をみはり、その隣でリィエルが頷いている。高さが七、八メートルはありそうな石造りの防壁が、都市を取り囲むように展開しているのだ。防壁の上には見張りの兵も一定の間隔で配置されている。

 門の大きさはさらに大きく十メートル。おそらく内部に階段があって、城壁へと通じているのだろう。二階の部分は立て籠もり用の小窓がついた見張り台になっているようだ。


「じゃあ、入ってみようか」


 そう言って、門へと近づいてくシオン。リィエルもその隣を歩く。門の前には数名の衛兵がいた。シオン達が近づいていくと――、


「……待て。いや、お待ちを」


 衛兵の一人、二十代半ばくらいの青年が呼び止めてきた。最初は命令するように、しかし、すぐに丁寧な口調に改めてきた。シオンは魔法石を外してしまったが、二人が着ている服は質が良い。育ちの良い人間と勘ぐったのだろう。


「はい」


 シオンが応じる。


「この都市に暮らしている方ですか?」

「いえ」

「では、どちらから?」

「……王都から来ました」


 と、一瞬だけ考えてから答えるシオン。衛兵の反応から王都までの距離をある程度探れるかもしれないと思ったのだ。


「なるほど。ですが、いったいどうやって? ここから王都までは歩いて三日はかかりますよ? 王都から来たのなら反対側の門からやってくるはずですが……」


 職務熱心な衛兵なのか、相手の身分が高そうだと思っても不審な点をしっかりと探ってくる。ただ、シオンの側も得られた情報はあった。この都市がターコイズ王国の都市かどうかはまだ不明だが、徒歩で三日圏内にこの国の王都があるということだ。ということは、飛行魔法で移動すれば半日とかからずたどり着くだろう。


「飛行魔法で飛んできたんです。街道沿いに飛んでは来たんですが、恥ずかしながらあまり外出しないので、周りの地形をしっかり確認して、ここが目的の都市だと確認してから地上へ降りてきました。都市の中に直接降りるわけにはいかないでしょう?」


 まったくの出任せを言うと怪しまれると思ったので、シオンは適度に事実を織り交ぜて正直に話す。すると、相対する衛兵は納得したような顔になった。


「飛行魔法を使えるほどの魔道士の方は滅多にいらっしゃらないので実例は少ないんですが、やってしまう方はいらっしゃいますね。位の高い方の場合はあまり強く申せないのですが、冒険者だったりすると衛兵に発見されて騒ぎになって厳重注意、という話は聞いたことがあります。都市に入るには門から、というのが決まりですからね」

「でしょうね」


 シオンは苦笑交じりに相槌を打つ。


「それにしてもまだお若いのに、飛行魔法が使えるのですか。すごい」


 衛兵は尊敬の眼差しを向けてくる。


「ええ、まあ」

「一応、訪問の目的を伺っても……。ああ、お忍びでデートですか?」

「デート……。まあ、そんなところです」


 シオンのすぐ傍に立つリィエルを見て、勝手に勘違いをする衛兵。ちょうど良かったので勘違いを利用させてもらったシオンだが、デートという言葉が恥ずかしくて照れが出てしまう。しかし、そんな反応が却って説得力を持たせたようだ。


「ずいぶんと可愛い彼女さんだ。羨ましい」


 衛兵はしみじみと呟く。同僚の衛兵達もうんうんと頷いている。


「デートの資金調達に魔法石を売りたいんですが、心当たりはありませんか?」


 すっかりお忍びデートをしに来ていると勘違いされているので、シオンはその空気を利用して質問した。


「うーん、私は魔法がからきしなので利用したことはないんですが、西の区画にある商店街にそういった店があったと思いますよ。南の区画は少し治安が悪いので行かないことをオススメします」

「ご親切に、ありがとうございます」

「いえ、こちらこそ。ご協力感謝します。どうぞお通りください」


 そうして衛兵に見送られ、シオンとリィエルはいよいよ都市へ入っていく。


「しかし、どこかで見たことある気がするなあ、あの少年」


 衛兵はシオンの背中を眺めながら、不思議そうに首を傾げていた。


   ◇ ◇ ◇


 シオンとリィエルは東門から西門へと続く大通りを進んでいた。都市の中央部は貴族街やら役所やらが密集しているらしく、城壁の内側に第二の城壁が築き上げられていたので、そこを迂回して西の区画にある商店街へと向かう。


「人がたくさん」

「本当だな」


 まだ明るいので都市の中は賑わっており、人通りも多い。シオンもリィエルも都市の中を歩くのは初めてなので、物珍しそうに周囲を見回していた。そうやって人通りの多い道を歩いている内に、商店街らしい場所にたどり着く。


「アイテムを取り扱っていそうな店は……と」


 シオンは歩きながら、店の看板をきょろきょろと見回す。


「あのお店がそれっぽい」


 リィエルは通り沿いに立ち並ぶ一件の店を指さした。入り口の傍には何か道具のような絵と魔法陣のマークが描かれた看板が出ていて、マジックアイテム工房という文字も書かれている。


「確かに。入ってみようか」


 とりあえず入ってみることにしたシオン。店の扉を開けると、来客を知らせるためにつけられた鐘がチャリンと鳴り響く。

 基本的にアイテムは値が張る物が多い。店の中は整理整頓されていて、小綺麗な店内の至る所に様々なアイテムが陳列されていた。


「いらっしゃいませ。何のご用でしょうか?」


 店員と思しき身なりの良い老紳士が近づいてくる。


「こちらの店は買取は行っていますか?」

「はい。何をお売りいただけるのでしょう?」

「魔法石です」

「お見せいただいても?」

「ええ」


 シオンは魔法石を一つ取りだし、老紳士に手渡す。老紳士はモノクルをつけると、受け取った魔法石をまじまじと見つめ始めた。

 すると、モノクルのレンズに魔法陣が浮かびだす。


(あのモノクルも何かのアイテムか。鑑定のような魔法が込められているのか?)


 シオンはそう思って、老紳士が魔法石に意識を奪われている間に神眼を発動させた。


================

アイテム名:片眼鏡の鑑定士モノクル・アプレイザー

ランク:五

説明:アイテムに内包された魔法の効果と等級を鑑定できる。ただし、ランク六以上の品は鑑定できない。

================


(なるほど。鑑定魔法が込められているのか)


 シオンは鑑定結果を確認すると、すぐに神眼を消してしまう。


「…………これは、高級武具によく使われる品ですな。防具の物理防御と魔法防御を底上げする魔法が込められている。しかもランクは五」


 老紳士はシオンが事前に神眼で鑑定していた内容と同じ鑑定をする。


「買い取っていただけますか?」

「九十九万クレジットでいかがでしょう?」

「ええ。構いません」


 神眼で鑑定した買取相場に近い値段を提示してきたので、シオンは渋らずに頷く。


「即決ですな」


 老紳士はふふっと微笑む。


「相場に近い値段なら売るつもりで来たので」

「なるほど。ちなみに、どれくらいが妥当だと思っていたのか伺っても?」

「百万クレジット前後、といったところでしょうか」

「市場価格にお詳しいようだ。ご存じかもしれませんが百万クレジット以上の物品売買には国法で定められた手続が必要となります。買主と売主の双方にとって面倒な手続になるものでして、買取額を九九万クレジットとさせていただきました。売主の身元確認が要求されたり、売主の側にも税金がかかってしまいますからね。面倒だと嫌がる方も多いのですよ」


 なので、百万クレジットをほんの少し超えてしまう場合は、百万未満の買取額にしてくれと客から店に頼むケースも珍しくはない。まあ、シオンは知らなかったのだが。


(あ、危なかった……)


 内心でホッとするシオン。しかし、不審に思われたくはなかったので――、


「確かに」


 と、ぎこちなく首を振って同意する。


「ちなみに、これは貴方が作ったのですか?」


 老紳士が尋ねてきた。


「……どうしてそうお思いに?」

「年齢はお若いようですが、服装からして魔道士とお見受けしましたので」

「あいにくとマジックアイテムの製作に必要な付与魔法は習得していないものでして。魔道士としてはまだまだ駆け出しの身で、資金調達のためになけなしの財産を売りに足を運びました」


 シオンは適当に理由をでっち上げた。あははと笑みを取り繕って機転を利かせているが、内心では冷や冷やものである。

 ああ、心臓に悪い。そう思っていると――、


「然様でしたか。失礼いたしました。マジックアイテムの製作が可能な魔道士は希少でしてな。製作が可能ならぜひ依頼をと思ったのですが……、詮の無い話ですな。買取金をご用意しましょう。しばしお待ちを」


 老紳士はそう言って、代金を取りにカウンターへと向かう。


「お願いします」


 シオンは胸をなで下ろして老紳士の背中に頭を下げる。老紳士は金庫から紙幣の束を取り出すと、トレイに乗せてそれをカウンターの上に置いた。


「お待たせしました。数え間違いがないか、私と一緒にどうぞご確認ください」


 老紳士はそう前置きした上で、「一、二、三……」と一枚ずつ数えながら紙幣をトレイに積み重ねていく。十枚で一つの束を作ると、それを九個作り、最後の一束だけは九枚にまとめた上で、最後にシオンの顔を見た。


「確かに、九十九万クレジットですね」


 シオンがしっかりと頷くと、老紳士は紙幣の乗ったトレイをスッとシオンに差し出す。シオンは十個の札束を一つにまとめると、それを懐のポケットへとしまう。

 それから――、


「ご成約、ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」

「ええ。ではこれで」


 シオンとリィエルは老紳士に見送られ、マジックアイテムの工房を後にした。九九万クレジットという大金を手にして、懐は大変暖まったのだが――、


「はあ、疲れた……。慣れないことはするもんじゃないな」


 シオンは道ばたに移動して立ち止まると、大きく息をついて心労を吐き出した。


「お疲れ様、シオン」


 リィエルがシオンの頭を優しく撫でる。頑張った相手には頭を撫でてあげるというくらいの知識はあることだろうか。なんだか妙にこそばゆい。


 けど、嫌な感じはしなくて――、


「あはは、ありがとう。少し元気が出たよ」


 シオンは照れくさそうに礼を言う。


「うん」


 リィエルは優しい声で頷いた。


「さて、資金は調達できたから、次は旅の準備だな。服を買い換えて、武具を購入して……、あまり長居をするつもりはないけど、今日中に出発するのは流石に無理か」


 今日はこの都市で泊まりになりそうだと、シオンは指を折ってやるべきことを数えながら思う。となると――、


「服も買っておきたいところだけど、どの店がいいのかすらわからないし、先にご飯でも食べようか。服屋は店の人に訊けばいいだろう」


 まずは腹ごしらえだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2020年1月24日(金)に第1巻が発売
1zz3kkd355xpm5bweihom0enh4oy_2od_1ki_ei_
精霊幻想記も連載中(公式PV)
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ