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★#18 兵士Aの過剰な殺意(とエスプレッソ) (上)


「はい、オッケー。お疲れ様」


 ……防音室の中。ヘッドホンの向こうで聞こえる遠い声。

 ふと気づけば、画面の向こうはもう暗かった。

 外画アテレコのレッスンが終わったことに気づき、俺は唇を噛みしめる。


「……」


 息を吐く。大きく、息を吐く。

 ――落ち着け。俺、落ち着け。


「何、あの人」

土丸(どまる)さんっていっつも感じ悪いよね」


 ギロリ。


「!」


 目を合わせるのみでコソコソ逃げるのは、同じレッスン生だ。

 陰口の主は目をそらし、距離を取る。……講師が様子を伺うように口を開いた。


「土丸くん、ちょっといいか?」

「何でしょう」


 ……いや、別に、そんなつもりはないのだが。

 イライラしているのは本当だ。

 ただ、外に出さないようにはしたい。本当にしたい。漏れるらしいのだが。


「君に、話があってね――」




  *   *   *   *




 ……それとなく、スマホをプッシュしたのは次の日の午後。いつもレッスン代を死んだ目で稼いでいる老舗デパート。その真ん前の交差点。


『はい、藤崎(ふじさき)です』

「……。間違えました切りま」

永原(ながはら)です! 何!? 土丸どうした?』


 久々に、昔のレッスン仲間に声をかけた。以前レッスンで一緒だった同期だ。


「……藤崎ってなんだ」

『お母さんの旧姓だよ。今東京じゃないって言わなかったっけ』


 電話口からからからと聞こえるのは、蓮っ葉な女の声だった。――そう、異性だ。一応は。そんな意識は微塵もないが。


「知らん」

『――……本当に興味のない事柄には頓着しないな』


 途中で養成所を辞めた「永原(ながはら) (あや)」は、どこだか知らないど田舎をほっつき歩いているらしい。電話の向こうからは鳥の声が聞こえていた。あと、何か草を踏む音も。


「……」


 色気より食い気のそいつには、思えば最初から「女の子らしい可愛さ」など微塵もなかった。

 たとえていうなら可愛い女の子というより、「終始周囲をうかがう仔犬か仔猫」だ。少なくとも尻尾を振る仔犬程度には好かれるし、愛想は俺よりいい。

 ただしレッスンの成績は一々芳しくない。何をしてもパッとしない類の、いわゆる負け組だ。更には負けん気がほとんどない。


「……俺は頭が悪いんだ。使いどころのない知識に意識を割けるわけないだろうが」

『はいはい』


 人のことはアレコレ気がつくくせに、自分のことになればなるほど、これ以上ないほど鈍感なのが昔からの永原だ。

 小手先のスキルを身につけるのが誰よりも下手っぴ。――素材勝負のマイペース。後ろから抜かれることをなんとも思っていないのかもしれんとも思う。少なくとも表面上は。


『んで、どしたの』

「ん」

『電話なんて珍しいじゃん、土丸が』


 ……確かに。

 俺はスマホをふと見つめた。普段はメールかSNSがほとんどだ。

 音声に頼るのはえらく久しぶりだった。


「……その……」

『ん?』

「聞きたいことが――あってだな」


 電話口の声はいう。


『ははん……なるほど』

「何だよ」

『いや。愚痴でもなんでも歓迎するよ。今、何と言いますか……』


 ……買い物帰りだろうか。がささっとビニールの音がした。


『ちょっとだけ、暇なので』

「……こっちからかけといてなんだが。なんもなかったのか」


 以前、通話中に呼び出されていたことを思い出せば、永原はいう。


『……いい、いい。片っぽは病院行ってるから大丈夫。どうぞ、勝手に続けてくれたまえ?』


 あっそ、と口から出そうになる。

 普段からそうだが、こいつはいつも相当な暇人だ。

 実際に暇なのでなく、何というか……存在が『暇』を体現しているかに思えた。

 余裕がある。いつだって自分のことより、他人のことばかり。


 ……俺には、できない。


「永原」

『何』


 こいつを見る都度、腹が立つ。思わず悔しくなる。

 常に自分のことでいっぱいいっぱいで、他の人間に気を回す余裕がない。


()()()()()()には、何をしたらいい」

『……えー、「何かしよう」としてアレなら、何もしなくていいんじゃない?』


 けろり。

 そんな調子で、電話口のそいつはいとも簡単にいう。


「そんなわけないだろ。少なくとも何かしら作らないと、好まれるわけがない」

『へーえ。まず聞こう。なんかあったの?』

「……まず、『お前の超絶感じの悪いのを、早急にどうにかしろ』と言われた」


 感じが悪い人間に、売れているやつはいない。

 芸人ならパラライズの塩なんとかだったか――あれがいるが、彼女は無愛想を売りにしているだけだ。

 相方もいない声優の卵で、無愛想を通り越したガンつけイライラ野郎なんざ、どこに行こうとお払い箱だろう。


『……いやあ、さすがにそんな言い方しないと思うけどな。誰か知らんけど』

「ユデスギーさんだ」

『誰だよマジで』


 実家がうどん屋だというレッスン生の一人を思い浮かべつつ、適当なことをまくしたてる。


「恐らくそう、回虫によく似た小麦粉の塊を茹ですぎるんだ」

『……あのね』


 くつくつと笑って永原は言う。


『……仲良くならないと分からないんだよ、君の旨味は』

「旨味? ハッ、雑味の間違いではなく?」

『これまた毒抜きのできてない旨味だねえ――いや、違うって。真顔でそういう「意味のわからん冗談」を突っ込む人間だって出せよ、表に!』

「すべるからやだ。俺は芸人ではない」


 そんなことを言えば、「はあ」と永原はため息をついた。


『……変にプライド高いなあ。いや、いい。とにかくだ土丸』

「ああ」

『君は確かに、いつもイライラしてる。それは好ましくない。はたからみれば』

「……はたからみればじゃなくて事実だ」


 こいつといると、昔からどうも調子が狂う。

 ただ、そうでもなければ今回、「電話をかけよう」とは思わなかった。

 ……街を歩き回りながら、イライラと小声で呟く。


「上から見ようと下から見ようと、斜め45度だろうと変わらん」

『はいはい。仮にそうだとしておこう。……でもそれ、内側から見ればどうなのよ?』

「……」


 思わず黙った瞬間、信号に引っかかる。

 ……停滞する人混み。往来の多い車。


『……土丸。君は怒ってる。誰かを害したいんじゃない。いつも自分に怒ってるんだ』


 電話の向こうから、ドアノブの音がした。


『それを誰かに伝えないと駄目だよ。誤解されるから』

「……」


 脱ぎ捨てる靴の音、チョロチョロと水のような音――電話向こうの永原は、いつの間にか家に帰り着いていたようだった。


『私の知ってる君は、いつも全力で感情表現をする。職人気質の完璧主義者ってのが、妥当な評価かなー……っと、おしっ』

「なに話の最中にお茶入れてんだ」

『コーヒーだよ』


 冷蔵庫を開け閉めしたような音と、マグカップの音が話に混ざりこんでくる。それがひどく邪魔だった。


『だいたい、いつも半端に落ち着きはらった私とは真逆に、土丸はやたらに感情豊かな性格だ……わざわざ作らなくても、ちゃんとそこには血が通ってる。本気で怒って、本気で悔しがる。でもたまに、本気で笑いもする』

「……そうか?」

『そうだよ。自覚ないだろうけどね』


 相変わらず色気はかけらもない。可愛くもない。男友達みたいな女だ。

 意見をいう立場が近すぎる。


『台本持ってるとき以外はマジでしか笑わない。そんな人間が笑うから、とてもいい表情にみえる。効果的なんだよ』

「……」

『隠したらそれを巧く使おうにも、絶対に使えないってのよ……演技だってそうだ。間のとり方なんかより、しっかり分かりやすい感情表現が武器じゃないの、君は。ツマミで動かしたみたいに微調整もきくしさ』

「……できてるかは知らん」


 一時なのか永久になのか、とにかく俺たちの第一線からドロップアウトした元声優志望。それが、だいぶ偉そうにのたまうそれは、後ろに引いたから分かる一言だったのかもしれない。


『だいたいさ、文字に、それ以上の何かをのせる。……意味合いと感情をのせるのが君のお仕事。そうでしょう?』

「……ん」

『たとえば、シナリオライターさんが書いた台詞。それが君の前にあるとして、これは文字情報。――それをベースに「文字ではうまく伝えられない」、「伝えきれない領域」を私たちが作って上乗せする。のっかるように、うまく作る』


 そう――吹替にせよアニメにせよ、声優というのはまさにそういう仕事だと思う。ただ、読み上げるわけじゃなくて、そこに何かをのせる。熱さだったり、優しさだったり、悲しさだったり。


『……だから君は、想いを巡らせる』


 元声優志望の永原は言う。

 まるでこの間もひょっこり、俺のレッスン内容を見てきたように。


『注意深く、丁寧に――勿論骨組みはある。目の前の台詞原稿だ。あとは君が「言葉にならない部分」の肉付けをするだけで、目の前のキャラクターは動き出す』


 動き出す――そう、生き物を作っているのだから、破綻させるわけにはいかない。


『こんな肉付けがしたい。あんなことがしたい。こんな表現もやってみたい! いつだって、目の前のその子をうまく動かしてやりたい君は、全力でいつもレッスンに臨むよね』


 スタジオでのレッスン直前にやることは、大概ルーティーン化している。

 ミネラルウォーターで口を湿らせ、軽く表情筋を動かす。

 発声練習程度なら毎日家でこなしているから、軽くで問題ない。


『ストイックな君のことだよ。基本はしっかりしてるはずだし、あとはメンタル。きっと8割から9割以上はプラン通りにできるはず。間違いなくね』

「……そうでなければ許されない」

『だろうね』


 さらりと永原は言った。


『きっと目論見は成功するよ。でもあとの1割~2割が許せないんだろう。君はとても優しい。どうしてもだよ――キャラクターが可哀想になってきてしまう』


 頭の中では、カタチだけならできている。

 けれど外に出して、それが機能するかはまた別だ。伝わらなければ意味がない。

 うまく伝わらなかったとき――頭の内側で風船がはじける。我慢がならなくなるのだ。


()()()()()、と君は言った。……一応いうけど、君の目指してる演技に【完璧】なんてものはない。何が正しいかなんて、聞いてる側の好みで決まる。ただ土丸の中の【仮想の客席】はとっても厳しい。首を絶対、縦に振らないわけだ』


 ……そう。「ウン」とは絶対言わない。

 ふとよぎるのだ。

 ――今のところを【違う誰か】がやったなら、きっともっとうまくやる……。

 もっとこうしている……

 もっとああいうふうにしているかもしれない……。


『だからいくら実力が発揮できたとして――君の中では100パーセントが失敗扱いなんだ』


 ……そう、だからやればやるほど、ひどく落ち込む。

 悔しさでいっぱいになる。


『一言発した瞬間、君のそれは発動する。「今のじゃダメだ!」そう勝手に、君は自分に怒り始めるわけだ。「もっと巧く! もっと分かりやすく! もっと胸を打つように!」君の中には常に、自分を焼き殺さんばかりのマグマが煮えたぎっている』

「……それをどうにかして隠さなきゃいけないんだよな」

『何でだよ』


 間髪いれず永原はいう。


『さっき言ったでしょ。君は作らなくても、感情表現ができている。なら、それをちゃんと土丸のものとして表に出すべきだ』

「俺のものとして? いるかそれ?」

『演技に出せってんじゃないのさ。普段からその情熱と熱量を口に出せというんだ。そうでなくてもテンションの上下にのせろってのよ。顔だけでなく!』

「……出せば出すだけ迷惑になるのにか?」


 もっともな陰口が、脳裏によぎる。



  ――「土丸さんっていっつも感じ悪いよね」



『……当然だよ。君は、その悔しさも含めての土丸だ』


 永原の言葉を笑い飛ばす。


「は、アホらしい。俺の顔つきは、誰がどう見たって『不愉快の塊』らしいんだ。……どうせ見た全員が不快になる。不機嫌だと誤解されるって話さ!」

『……ねえ土丸』


 ビル風が吹く。――電話口の永原は、静かな声でそういった。


『それは、本当に全員か?』

「……?」

『君を見ている人間は、一枚岩か?』

「……」

『相手は君と同じ人間だぞ、土丸。――君をどう誤解するかは、相手の自由だろう』


 ――適当な理由をつけて逃げるな。

 人と接することを怖がるな。


 そう言われた気がした。


 ――君は、目の前にやってきた『キャラクター』には敬意を払うのに、現実の人間にはレッテルを貼る。「こうに違いない」と逃げすぎる!


「……あのな、永原」

『何よ』

「俺は――その【自由】が怖い」

『私も、それは怖い』


 電話の向こうでマグカップの音がした。遠くで低い何かが鳴っている。――飛行機の音? ああ。そういえば以前、空港が近いと言っていたっけ。


『……色々いるよ、そりゃあ』


 飛行機のエンジン音を背に、永原は低く呟く。


『たとえば君だって腹立つことはあるし、傷つくこともある』


 イヤホンをさしたまま、通話中のスマホでメッセージを遡る――あいつ、そういえば今、どこに住んでるんだっけか。


『でもさ。……怖がりながらだって、そのギャンブル性を楽しんでもいい。そう私は思うんだよね』


 うろ覚えの住所を特定して、近くの空港を地図で見た途端――永原はゆるゆると口にした。

 ――逃げるな。

 やはり、声の奥でそう言われた気がする。

 ――気圧されるな。押し通れ。


『ゲームと同じだよ。土丸。君が誰を嫌っても自由なように、君がどんな人間であるかは相手の自由だ。とやかく言えることじゃない』


 ああ、要するに。『お前はメンタルが弱すぎる』と責められているのか。

 地図アプリの向こうを睨む。

 何メートルも、何キロメートルも遠く――知らない街、日本の西側。子供の頃に修学旅行で降りた、あの大阪より向こうから。


『だってそれで、相手の手札が決まるんだ。……手札を選ぶ自由は、お互いにあるよ』


 手札を選ぶ自由。ふと思う。――もしかすると俺は、責められたいから。同期だった何かに叱られたいから、こいつに連絡をとったのではなかろうか……。


「……俺が弱いって話だ」


 まあ、確かに。そもそもこういうことを言われたいがために誰かに電話をかけるなど、弱さを引け散らかすにもほどがある。

 本来なら全て一人でやらなければいけない。『自分の機嫌は自分でとれ』と担当講師も言っていた。途端に頭をかち割りたくなる。――クソ、やっぱりダメだ。俺はゴミ以下だ。


『へえそうかね。――まあ、そうかもしれない。君、ストイックの方向性がたまにおかしいから、何かニュアンスが違って伝わってそうな気もするけど。まあ、要は気にすんなって話さ』


 ……。


 ……あれ、なんか違うのか?


『だいたいねえ。……人間、『全員に好かれる』ほうが難しいんだ。むしろ嫌われるのだって難しいさ。君を守ろうとする人間だっているはずだし、応援しちゃおうなんて人もここにいる』


 ゴソゴソとまたビニールの音がした。


『一人で自己完結して、早合点するのが君の悪い癖だよ……たとえばさ土丸。私は君と好みが全然違うので、君の気に入る飲み物は大概、「うっわめっちゃマズソーですね、怖っ」と思ってる』


 ……おい……。


『土丸も私がよく飲むコーヒーは嫌いでしょ? ――でもコーヒー党は世界中にいる。誰かが嫌いってことは、誰かは好きなんだ』

「はあ」


 ……お前もしかして、今、何か食ってないか?


『土丸は確かに、「愛想がいい」わけではないかもしれないよ』

「……」

『ただ、他人にゴマをするのが苦手でも――人ってのは案外、生きていける』


 永原は何らかの液体をチャポチャポ言わせながら、小さく呟いた。


『何より君はきっと、愛情深い性格だ。……本当は懐が深くて、出会う人を大切にすることができる性格だ』

「……」

『出会う相手を常に大切にするからこそ、ちゃんと身構える。深読みをして傷もつく。交流自体はずっとしようとする。そうでなければ友達なんて一人もできないよ』



 ……確かに、ここまでたった一人で走り続けたわけじゃない。

 陰口を叩くやつは確かにいる。

 遠巻きに、関わらないやつも大勢いる。でも。



  ――「同じクラスの人だよね。永原と言います!」



 帰りの電車を待つ最中、わざわざその存在を覚えていて――へらへら笑いながら、隣にやってきた物好きもいた。



  ――「土丸くんだっけ。さっきのレッスン驚いたよー。君、すごく()()()声してるよね。顔はしかめっ面だったけど!」



 それはきっと、意外な一言だった。

 それに……なんだか悪くない評価だった。


 おかしいな。初めてのレッスンだって、あんなにダメダメだったのに。



『――結局さ土丸。君がやることってのは、割と単純なんじゃないの』


 からからとスプーンの音をさせながら、電話口の永原は口を開いた。


『いつも通りの君でいればいい。出会う誰かを君なりに大切にして、そしてそれが通じなかったら、潔く諦める……』


 常時しかめっ面の、感じの悪い同期を往来でつかまえておいて、『優しい声だ』とあの時いったそいつは。

 今、電話口のはるか遠くにいて。


『その人一人にこだわる必要はみじんもない。人間は星の数ほどいて、出会いを増やすことはできるんだから……気の合う人を逃さなきゃいい』


 ――こうして、誰かに電話をかけるようにだよ?

 永原の言葉に、俺は仏頂面のまま突っ込んだ。


「出来てりゃしてる。お前みたいに」

『……君さあ』


 呆れ半分。そして苦笑い半分の永原は言った。


『一方的に話すのは得意なのに、相手の話をかみ砕くのは苦手ってどうなんだよ。私が他人のことばかり考えてると思ってるでしょ』

「違うのか」

『大きな誤解だわ』


 ――自分のことばっかりで必死なのは、結局同じだよ。

 自嘲気味に言って、永原は一拍置いた。


『……私はずるいからね。結局、他人から見た自分のことを常に考えてる』

「そうなのか?」

()()()()()()()か、()()()()()()()()()()()か。人の耳を気にして、言葉の端々まで気を巡らせて。疲れて。疲れきって。それでも膝をつきたくないから夢に向かって突っ走り続けて――でも、不器用すぎて』


 ふと思う。――自分は、永原の視点に立ったことはあっただろうか。


 ……いや。


 立てたことはない。

 意味が分からんやつだが、嫌なやつではない。

 ただ、すごく変なヤツだなと思うだけだ。


『結局色々な人に抜かされていくけれど、それをどこか当たり前のように思ってしまって――みんなが自分よりうまくできて、器用で、自分だけ不器用な仲間外れなんだから仕方ない。そう思ってしまうこともあって。で、その「器用なやつ」のど真ん中にさ。ふっと見たら土丸がいるんだ』


 それは、ある意味はじめて聞いた永原の本音だった。


 ……抜かされて「悔しい」。

 そう思った様子がないのは知っていた。


「そうか」

『そうだよ。……劣等生丸出しで悪かったな』

「誰もそうは言ってない」


 闘争心がないお人好しなのだと思っていたのだけど――今のを聞いて、ふと思う。

 むしろそんな自分に、妙な情けなさを覚えたのがこの女だったのだろうか、と。


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