★#12 よぶんのいち(上)
「おとうさん、兄ちゃん、かえってこないね」
……それは突然、もろく崩れ去る。
常識だと思っていたもの、あって当たり前だと思っていたもの。
常に変化していくのが「世代交代」だというのなら、そうなんだろう。
忘れ去られる。淘汰される。それが時の流れだと。
生み出すものもあれば、壊していくものもあって――壊れたものの方が、きっとインパクトが強い。
「――はっはっは! まあ、あれだ、先生の家にお呼ばれしたって話だったろ!」
まだ小さい娘の一言に、軽い冗談のようなそれが横から返った。
「だったら大方はしゃいでんだよ。舞い上がって帰ってこないとか……どうせテンションおかしくなって、今頃帰り道のゲーセン荒らしてるとか!」
意味もなく陽気なそれが。
恰幅のいい、万年どこか酒臭い。
不健康なサンタクロース体型がいつまで経っても変わらない義父の一言に、少しだけ気が緩んだ。
「……だといいんですが」
ああ。
……覚えている。あの日は、確か。
「じゅ、15年前の、今日です……!」
……こんなに、暑くなかった。
まるで昨日みたいに、質感だって思い出せる。そんな随分前の1日がある。
錆び付いたみたいに動かない、心のなかの秒針がある。
――いまだに、「できのわるい夢」みたいだった。
街頭で声を張り上げている自分が、今だって信じられずにいる。
駅から出た瞬間……何事かと顔を上げた9割がたが、すぐに目をそらす。
ああ、頭では理解している。慣れているさ。
どうせ反響があったのも半年とか、1年くらいまでだ。
「……15年前の今日、この近辺で消息を絶った息子をさがしています!」
配ったビラが目の前で、興味なさげに捨てられた。丸められたそれが僕の前を転がって、それでも僕は慣れたように――表情をピクリとも動かさなかった。
「――フ」
いや、むしろ笑みを強めた。大丈夫。――僕は、大丈夫。
時折、心の中がくずれそうになるだけだ。
――どこにも「味方」はいないんじゃないかと、そう思うだけだ。
この世に血の通った人間は、僕しかいないのでは?
もしくは、僕は狂っているのでは? 正常な思考回路ではないのでは?
あはは、ねえ、まさか。
「あの日」を忘れるのが、本当は正しいことなのでは?
「…………!」
かぶりを振る。――忘れるだと? ああ、なるものか。そうはならない。
このあいだだって性懲りもなく来た『誹謗中傷』を思い返しながら、声を振り絞る。
「……お心当たりのある方、どんな些細なことでも構いません!」
……そうだ。知っている。変わらないじゃないか。
どんなに声をあげても。どれだけこんな、薄っぺらい紙を配っても。
「お願いします、コレを聞いている、見ている、あなただけが頼りなんです! どんな情報でもいいので……!」
あの日以来、あの子は影も形もない。
戻ってもこない。
……分かってるさ。もう、諦めた方がいいんだろうな。帰ってこない、それを受け入れた方が、きっと苦しまなくてすむ。
「……」
ああ。
そう、薄らと思い込んでいく。
薄く、薄く、嘘の膜が張られていく。
「……おゥ」
暑さにやられ、ふらついた瞬間――目つきの鋭いサンタクロースみたいな男が声をかけてきて、僕の上でパッと日傘をひらいた。義父の姿だ。
「今日もせいが出るな、ペンギン」
「……ペンギンは、やめてくださいよ」
大きくため息が出た。
「……だってよぉ、『つばさ』に余計なモンがくっついてんだ」
ぎろりとサンタクロースが見下ろしてくる。
「……『飛べない鳥』でペンギンでいいだろうが、可愛くて」
――ムカッ腹が立つ。静かに、沸々と。
背の高いそれを見上げながら、僕は口にした。
「……僕の名前はひらがなで書いてもカタカナで書いても『つばき』です、松市さん」
「そら、椿くん」
……余分な『一』がついてんじゃねえか。
そう言われた瞬間、跳ね上げたように僕の拳がすっとんだ。
* * * *
「……いやあ、まったく」
殴られかけたことにも気づかないように、目つきの悪いサンタは飄々と言った。
「……いつまでも変わらんっつーか、諦め悪いねえ、おめえってやつぁ」
若干べらんめえ調のお小言が、今日も僕の耳に入る。……結局あの後、怒りにまかせた僕の拳は当たらなかったし、スカッとした空振り感だけが残った。
「だいたいよぉ、椿くん。女房、娘をほったらかして、毎週毎週どこへ消えてんだと思ったら――」
「放っといてください」
……ああ。まだ、殺せてないんだな。
そうふと思う。感情なんか感じなければいい。こんなひとにやつあたりしたところで、何も解決しないのに。
「…………」
だいたいだ。こんな軽薄な人間に――あの時だって『中身のない希望測』しか口にしかなかった人間に。行方知れずの長男を探すことに関して、決してとやかく言われたくはなかった。
ああ、後悔している。
あの時、それをむやみやたらに信じなければよかった。
ちゃんと探しに行けばよかった。
この国の年間行方不明者数は、届出だけでも8万人を超えるというのに……
でもまさか、そのうちの1人がうちの子になるだなんて、思ってもみなかった。
「高校生なんてデカいじゃないか」。
そう言われもした。
「若い身空で駆け落ちでもしたんじゃねえの」、「子離れできないあんたらの束縛が嫌にでもなったんじゃないか」、「例の騒いでる高校生の親、下にも妹つくってたって話じゃん。子供が残ってるだけ有り難いと思いなよ」……
……ああ。
……なあ、君たち。
「あの子」の何が分かる?
「……聴いてねえな?」
「きいてますよ」
「右から左へ通してんだろ、おめえよ……」
そうだ、流している。こんなやつのことを考える時間はない。
……そういえば、お気に入りのラーメン屋に通うのが好きなくせに、思えばあの子は「ラーメン」をほとんど食わなかった。
「テレビみたいにすすれないから」らしい。
だから大体チャーハンを半サイズで食べているか、それにおつまみ向けのメンマを追加するか、その2択だ。
恰好を気にする。プライドも高い。
年齢の割に雰囲気がまだまだ中学生みたいな男の子だった。
レバーも嫌いで、よく僕に押し付けた。
――ああ、好き嫌いの塊だ。
そんなふうに好き嫌いをするせいか、いつまで経っても随分小柄で。
それが僕の実家前のキツい坂道を、己の自転車ひとつでカラカラカラッと瞬く間に駆け上がるさまを――今でもふとした瞬間に思い浮かべることがある。
息切れをしながら立ち漕ぎで追いつく僕に「父さんおっせえ!」とからかったように言われる都度、僕はよく負け惜しみを言った。
「お前、自転車だけは巧いからな」!
……何度も後悔してしまう。もっと褒めておけばよかった。会えなくなるなら。生死も分からなくなるなら。埋もれたように、居なくなってしまうなら。
無論、普段が普段だ。
黙っていなくなるような子ではない。
【前科】がなかったとまでは言えないにしろ、そういう確信は持てているつもりだった。
あれは妹が生まれたばかりの頃。
確かにあの子は幾度か癇癪を起こし、僕の実家のラーメン店に押しかけた。
あの時、結局は僕らも原因究明を図った。
結果的に反省することができた。なぜなら賢い「あの子」自身がちゃんと口に出したからだ。
「自分はお兄ちゃん1年生で、少し前まで一人っ子だった男子小学生だ」と。
多くを求めるな。「お兄ちゃんだからできてあたりまえ」を押し付けるな。
頑張る。だから、少しは成長する時間をくれ。
――そう、ちゃんと思ったことを口にできる子だった。
一生懸命主張して、言いたいことを言い切った――そんな彼の晴れやかな顔は、今でもよくおぼえている。
あの子をよくかくまっていた実家の親父は、あの時電話口で笑った。
――「あいつからしたら、せっかく大好きなじいちゃんちが駅二つ分離れてんだ。困ったときのシェルターくらいにはなってやらんとな」
……あの時は、情けなさすぎて凹んだ。
結局、僕は何も家族のことを理解していなかったのだと。
だから、同じ轍は踏んでいないと思いたい。「思いたい」だけではあったけど、それで何かが変わるわけでもけれど。
「……あー、とにかく休憩だ、こんな炎天下でビラ配りとか倒れる気か」
「…………」
べらんめえなサンタクロースに引きずられて、気付けば妙なところに来ていた。
松市さんは「あの子」から見て、優しいラーメン屋とは逆側の祖父だ。僕と雰囲気の似てしまったあの子は、父方の家にはなじんでも母方の祖父には懐かなかったらしい。
だから彼も、恐らくはいい顔をしないだろう。
僕が長男を探すのを。意地になって、ムキになって探し続けるのを。
「……なあ、闇雲に探してどうにかなる次元はとうの昔に過ぎてんだよ、ペンギンくん」
ドアベルを鳴らして飲食店に入れば、耳に入る冷たい一言。
「いい加減、そうやって頑なになるのをやめろってんだ」
「……嫌です」
「嫌です、は分かるがな、おめえ」
いや、本当に酒臭いな。そう思いながらため息をつく。
体格は明らかに向こうの方が上だ。あの子もチビ助だったが、僕だって大きい方ではない。
無理やりに首根っこを掴まれていれば当然――抵抗することはできなかった。
「……あの、松市さん」
「何だ」
「……どこで飲んできたんです、昼間っから」
「お前の実家」
引きずられるがままに席に着き、すぐに出された水を一瞬でむせた。
……僕の実家は確かに飲食店だ。何せラーメン屋だから。
目の前のこれほどオシャレではないが、近場にはいくつか大学がある。サークルの打ち上げでもたまに使われるようなので、酒もなくはないだろう。
が、メインじゃない。
更にはわざわざ、よりによってこんな日に親父の所に行かなくてもよかろうにこの人は。
「いやあ、残念ながら――おれをそこまで露骨に毛嫌いするのは、おめえさんと行方知れずのミニペンギンだけで打ち止めだぜェ?」
ニヤニヤしながら松市さんは言う。
「向こうは随分懐かれてたからな。15年前の今日だろ、あの鼻ったれた優等生がいなくなったのは……大方、そういう日に一人でいるとおセンチになるんだろーさ。むしろこんな日だから行ったんだ、褒めてくれよ、気遣いのできる酔っ払いだろぉ?」
……ああ、そういえば。
あの子が懐いてたのは僕よりも、母さんよりも。
まずラーメン屋の方の「じいちゃん」だったな……母方の、このいけすかないサンタ体型の祖父ではなく。
僕は呟いた。
「……あなたのこと、ひどく苦手でしたからね、あの子」
ラーメン屋に行くのは目を輝かせるくせに、母方のほうには新年の挨拶に行くのを毎年嫌がっていた「あの子」を思い返せば、松市さんはガハハと笑う。
「真面目が過ぎてドがつく、つまらん少年だったからな! あいつは! だって四六時中のんだくれてるわ、家から追い出されようと道端でぐっすり寝るわ、朝から晩までパチ屋にいるわ……そんな、遊んだファンキー爺なんてお呼びじゃねえんだろうよ! むしろ反吐が出るって話さね」
はあ、とため息をついた。
「……自覚症状あったんですか」
「フフン、そう睨むな……! 照れるじゃねえか……!」
「褒めてませんからね」
酔っぱらいの相手なんかしている余裕はないのだ。
本日何度目かの息をつく――ああ、帰りたい。
「まあ、なんかそのへんのメニューでも見て決めろや。俺の奢りだ。――あっ、くそ、座席の下にゴミ落ちてんぞオイ」
「ああ、すみません」
店員らしい若い男に紙くずを乱暴に掴ませるそれを見ながら、僕は口を開いた。
「食欲なんかありません」
「あ?」
松市さんは有無を言わさない口調で言った。
「――何だと? 食え、馬鹿野郎。あまり怒らせるなよ、今の俺は機嫌がいいんだ」
「……この」
舌打ちをしてしまう。ああ、だから嫌いだ。
……自分のことしか考えてない、この酔っ払い野郎が。
「ハッ、怒るなら怒れよ間抜け面。全然怖くねえやい。……しかし、ガハハハ! 本当にペンギンそっくりだったよなあ、あのクソ生意気なボウズ!」
ぐいっと水を一気飲みし、松市さんはニヤニヤと早口でのたまった。
「眉毛の形から髪のくせ、輪郭までおめえ似だ。うちの梢の遺伝子なんざァ欠片もねえなと思って、最初はムッカムカきたが……あーあ。素直で可愛いのは今残ってるあずさだけだったな、あいつは可愛いよ、ちゃんと可愛い。なあ、すぐにごつくなる野郎よりもだ――可愛い方が妹として残ってるだけ儲けモンだろうがよ、違うか?」
別に自分とて、あの子ばかり可愛がっていたわけではない。その妹であるあずさが可愛くないといえば嘘になる。……だが、それは……
「……煩いです……」
「んあ、何だ、聞こえねえぞ。もっとはっきり言えよな、ペンギン」
……『いない方』を、完全に無視した発言に思えた。
「クローンといやぁ、『未来世界のSF』、最終巻出たろこの間」
「なんですかそれ」
「あれ、知らんのか。ミニペンギンが読んでたらしきラノベだよ」
文庫本6冊ぐらいの厚みを手で示した義父はニヤつきながら言った。
「本棚前にこれぐらい積んであった、水色の背表紙の……この間、あのほったらかしの部屋で半分くらい揃えてあったの見かけて、結局全部読んでみたんだな。買ってない巻はまあ、こっちで揃えて……ふん、まあまあ面白かった」
見下したように言うそれ。
「センスだけは良かったんだな、あいつ」
……「だけは」。また、拳がプルプル震えてきた。
かつての自分と同じ言葉を使っている分、また妙に腹が立つ……
「ヒロインが3人いるが、あいつ、どれが好みだったのかと思ってよぉ。気弱なショート、勝気なロング、不思議おさげ」
「……知りませんよ」
「っていうかおめえら、仮にも長男坊の部屋ほったらかしてんじゃねえ。現状維持にも限度があんだろ。ちったぁ片付けろ」
ハッとした。
「……勝手にいじったんですか!?」
「ハタキかけるぐらいだよ、悪いかってんだ!」
荒い息を吐きながら義父は2杯目の水をゴクリと飲んだ。
「……なんならあのおてんば妹なんざ、CDケース持ち出して聴いてやがんぞ勝手に。『兄ちゃんに怒られるとしたら二人揃ってですね!』なんて言われたわ」
ここの店主らしき若い男が黙ってピッチャーを持ってきた。……何やら探るような目つきをしている。
「……そもそも、あなたみたいな人が勝手に上がらないでください」
「随分な言い草だなーあ」
……慌ててメニュー表を開く。罪悪感から、つい。
ああいうのは親父もするからわかる。
「早く決めろ」というプレッシャー。
ああ、いや、しかし。
「?」
はた、と気付いて店主を見た。
誰かに似ている気がする……。
「どした?」
「いや」
「何だ、食う気になったか」
“あれ以来どこ連れてっても、砂かじるような顔しかしてねえだろ”、なんて言われつつ、かぶりをふってとにかくメニュー表をめくった。……今更とんでもないページ数なことに今気付いたが、ヤケだ。早いところビラ配りに戻りたい。
何せこっちはまだ定年前。休日返上で動き回ってるんだ。
「……食べないと解放してくれないでしょう、『人攫い』みたいに」
……ああ、見た目が一食分に見えればいいし、腹が満たせればいい。
「……本当に俺が嫌いだな、おめえ」
「気まぐれランチで」
結局少し迷った末に、選択するのを投げ出した僕は口を開く。
薄っぺらなリーフレットを指し示せば……。
「なあ、おめえ――やっぱ何でもいいって顔してんじゃねえか」
不満げな顔をした、義父。
「悪いですか?」
「……それでも食い物屋の息子か。拘りぐらい持ちやがれ」
ふん。面倒臭いなと思いつつ、そう鼻を鳴らした瞬間。
――スン。
「……なるほど。うっすら中華の匂いがしますね」
「え?」
違う鼻も鳴ったのが聞こえた。ハンディの機械ではなく、今時珍しい手書きのメモ帳の向こう。若い店員――いや、店主のものだ。
今更彼が「雇われ」らしくないことに気付きつつ、僕は聞き返した。
「匂い?」
「ええ、分かるんです。なんとなく」
若い店主はメモをエプロンのポケットにしまいながらゆっくりと言った。
「あなたの好きなもの、今までの人生で思い入れの強いメニューが、大体のお客さんなら――手に取るように」
「……」
「記憶の匂いというんですかね……勿論、それはすぐにがらりと変わります。だから気まぐれランチなんですよ」
『好きなもの』が複数あるような人なんか、特に匂いが日替わりだしね! ……なんて笑いつつ、
「お客様の心持ちひとつで『作るもの』が変わる。それは、そういうメニューです」
店主がニコリと笑う――20代としか思えないような見た目だが、妙に老成した雰囲気のある、若い店主。
「記憶から匂いがする? オカルトじゃあるまいし」。
そう切り出そうかとも一瞬思ったが、妙に気圧されてやめた。
……その目は、子供の頃によく見たそれと似ている。
やはり、実家に残してきた親父の目だ。
「……君、なんでも作れるのか?」
気づけば思わず、ボソッと言っていた。
「ええ、なんでも」
親父は昔からラーメン屋だったわけではない。純粋な公務員というわけでもなかったが、人材系の会社から派遣された役所の職員だった。完全な事務職だ。
定年を控えたそこから、なぜいきなりラーメン屋をやろうと言い出したのかまでは分からない。
当時、興味はなかった。
ただ、開店したときには既に「あの子」が生まれていた。
親父にとっては初孫だ。出来立ての看板を乾かしている前で、よちよち歩きで手形をつけて苦笑いされていた、「あの子」。
――「こいつにもお祝いしてもらえたみたいだな」
ちいさい手形のついた看板前で笑った親父。息子が家を出、独立したタイミングで一気に「今まで押し殺していた夢」に向かって走り出した、そんな印象だった。
……夢……。
「……『好きなものを、ひとつは必ず当てることができます』……」
あれは、料理人を志す者の目なのかもしれない。
親父のそれ、この若い店主のそれ。
それと同じもの――目の奥の光を、僕は、どこかで見たことがなかったか?
「……なるほど」
「まあ、期待はせずにお待ちください」
あの子は。
――「こら、危ないから厨房入るな」
――「じいちゃんメンマー!」
――「メンマ食いたい? はいはい荷物置くから待ってろ、勝手につまみ食いするんじゃないぞ」
……幼い頃から、事あるごとに親父のラーメン屋に逃げ込んだあの子は。
――「お前、本当じいちゃんのお店好きだよな。……将来じいちゃんちで働くか?」
――「うん!」
今……生きていたとして、どんな大人になっただろう。同じような目をしただろうか。
似たような――しかし、別の光を見つけただろうか。
想像してしまう。
何度も、答えのない記憶を。
擦り切れていくそれを。
――幾度も、幾度も。まるで、呪いのように。




