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リトライ・ヒーローズ!  作者: ブロッコリー
2/19

スタート・ミー・アップ/何者?

深夜、都内某所、とあるトンネルの中。


ここ最近の話だが、此処では、行方不明者が続出しているらしい。


「マキナちゃん…帰り道そこのトンネル通るでしょ?気を付けなよ?もしかしたら、『機械帝国(アンドローチャー)』の残党かも知れないから…」


彼女は、バイト先の店長の言葉を回想する。


彼女の名は、『安東マキナ』…2年前、世界征服を企む悪の組織『機械帝国(アンドローチャー)』を、兄と共に打ち滅ぼしたヒーローである。


「大丈夫ですよ店長!私には、『コレ』があるからね!」


彼女は、快活な笑みで店長にサムズアップを見せ、ベルトに下げたおもちゃのような巨大な拳銃を見せる。


「だから危なっかしいんだけどなぁ…」


店長はそう言って頭を掻くと、マキナのロングコートに触れた。


「マサト君のコート、ようやく着れるようになったね。まだ地面すれすれの丈だけど」


マキナは愛車のカブに跨りながら笑う。


「そう!私だって成長してるんですよ!いずれこのコートが似合うぐらいになって、お兄ちゃんみたいなヒーローになるんだから!」


————————



マキナは目的地に着き、「さて…」と、ヘルメットを脱ぐと、眼前に広がる、薄暗いトンネルの奥を凝視した。


「暗くてよく見えないな…」


彼女は独り言を呟くと、コメカミに軽く手を触れる。


「カチリ」と、彼女の眼球に緑色の光が灯り、その視界は、赤外線カメラに切り替わった。


彼女はカブを入り口付近に止めると、トンネルの奥深くへと進んでいった。


湿った空気、苔むした足元がヌルヌルと滑って歩きづらい。


天井の結露が地面に滴り、「ピチャリ」と音を立てる様を、チラチラと点滅する壊れかけの電灯が照らしていた。


「気温が低いな…それに、なんだか空気が淀んでいる…」


不気味なトンネル内を歩く彼女は、驚くほどに冷静だった。


マキナは、見た目こそ十代の少女であるが、歴戦の戦士でもあるのだ。


「んん…そろそろ出口が見えて来たな…結局ただの噂か…」


期待を込めてトンネルを探索したものの、何も見つからない。


ここ一年、そんな事ばかりだ。もしかしたら、既に残党どもを狩り尽くしてしまったのかもしれない。


しかし、歩みを進める内、彼女は、滴り落ちる結露の音が、だんだんと増えていることに気づいた。


通常なら等間隔に聴こえていた音のリズムが、不規則な音に乱されていた。


マキナは、不意に足を止める。


「なるほどなるほど…前ばかり見ていても、中々見つからないわけだ。」


マキナはロングコートに隠していた、体に不釣り合いなほど大きな拳銃を頭上に掲げると、弾が切れるまで連射した!


直後、天井から、何らかの黒い影が転げ落ちた。


銃声と火花がトンネル内を埋め尽くし、決定的瞬間を明るく照らしす。


甲高い絶叫と共に落ちて来たのは、痩身の男の身体に、コウモリの羽を生やし、口にはスピーカーをはめ込んだ、おぞましい姿の怪人だった。


マキナはその姿を目に映すや否や、悲鳴をあげるでもなく、ため息をついた。


「中級機怪人ね…コウモリとスピーカーだから…オンキョーモリなんてどう?」


その機怪人…『オンキョーモリ』は、甲高い声で呻くと、よろよろと立ち上がり、マキナを睨んだ。


「キ…貴様…『機械鎧(マシンガイ)』…ダナ!?イズレ来ルトハ思ッテイタガ、何故我々ノ邪魔ヲスル!?オアアアアアアアアア!!」


オンキョーモリから発せられる声は、スピーカーによって何倍にも増幅し、常人ならば気絶するほどの音量に達していた!


しかしマキナは耳を塞ぐこともなく、更に、トンネル内で反響したオンキョーモリの声を一言も聞き漏らすことなく聞き取っていた。


音圧に靡くロングコートがめくれ上がる。


「知れた事…私が…ヒーローだからよ!!」


マキナは持っていた拳銃の銃身を折り畳み、左腕のブレスレットに嵌めると、今度はロングコートの内ポケットから、フロッピーディスクを取り出す。


変身(スタート・アップ)!!」


マキナが叫び声と共にフロッピーディスクのスライドを引くと、呼応するように、左腕の拳銃が輝いた。


彼女は、銃身を畳む事で露わになった電源マークを押すと、フロッピーを拳銃の前側から勢いよく挿し込む!


すると、鋭い回転音と共に、彼女の前方の空間に、ホログラム数字が現れる。


『15%…』


電子音声が、その数字を読み上げる。


『33%…』


マキナの全身を、コンピュータの基盤のような模様が覆った。


『99%…』


更にその上を、鋼鉄の鎧が覆っていく。


『100%!Hello World!!』


最後のホログラム表示を蹴り飛ばすと、マキナはファイティングポーズを決める。


濃紺の鎧に金のライン、あどけない少女の顔は、甲虫を思わせるデザインの、二本のアンテナの生えたフルフェイスヘルメットに覆われた。


「さあ、トラブルシューティングの時間よ」


彼女は、左腕のブレスレットを拳へスライドさせると、ガントレットを形成して、すぐさま敵へと殴りかかった!


しかし、機怪人・オンキョーモリは、「キキキ!」と笑い声をあげ、その攻撃をヒラリと交わす。


空振りした拳は壁に打ち付けられ、半径にして50センチほどの亀裂を生じさせた。


「キキキ!貴様ノ動キハ、我ガ音波感知能力デスベテオ見通シヨ!」


高笑いするオンキョーモリに、マキナは追撃を繰り返す。


しかし、全ての攻撃は見切られ、その大きな翼に掠る事すら叶わなかった。


「このっ!中々!すばしっこい!」


数発、数十発と空振りを繰り返し、地面や壁をめちゃくちゃに砕きながら、マキナは悪態をついた。


「聞コエル聞コエル!貴様ノ駆動音!関節ノ予備動作!息遣イ!」


尚も余裕を見せる敵に、マキナは遂に近接攻撃を諦め、距離を取った。


拳の武器を外し、再度展開して拳銃に戻す。


しかしオンキョーモリは、そのわずかな隙を見逃さなかった!


「距離ヲ取ッテモ無駄ダ!音圧攻撃ヲ喰ラエ!」


オンキョーモリの口に嵌め込まれたスピーカーから、超音波が発生した!


マキナはすかさず聴覚を遮断し、音圧を防いだ。しかし次の瞬間、彼女は膝をついて固まってしまった、


「何!?身体が…動かない!」


音とは、『振動』、つまり、『共振』によって、彼女の鎧そのものにダメージが与えられている!


苦し紛れに拳銃を発射するも、音圧に負けて、敵に届く前に銃弾が落ちてしまっている。


しかし彼女は、極めて冷静である。


ならば、と、心の中で呟くと、彼女はあらぬ方向へ弾丸を発射した。


「キキ!何処ヲ狙ッテイル安東マキナ!遂ニ力尽キタカ!?…ブベラ!」


マキナを嘲笑うオンキョーモリの顔面に、突然の衝撃!!彼女は跳弾を利用し、敵の攻撃の発生源の破壊を試みたのだ!


「カ…我ガ自慢ノスピーカーガ…」


結果、試みは成功した。マキナは、音波攻撃が止んだ事を確認すると、再度聴覚を復活させ、ゆっくりと敵に歩み寄る。


彼女は、ふとした疑問を口にする。


「お前を作った奴は何がしたかったんだ…?自分の音波攻撃に掻き消されて、跳弾の音を感知できていなかったようだけど…」


オンキョーモリは地面に伏したまま、彼女の問いに怒声で答えた。


「俺ガ聞キテェヨ!ソンナ事!!」


彼は自身の半生を語り出した。


生み出されて半年、口がスピーカーなので、まともな食事を取れなかった事、美味しそうにご飯を食べる人間を、ずっと羨ましく思っていた事…そして、初めから、人間を攫うようにプログラムされていた事。


マキナは、その話を聞いて、一つの事実に驚愕した。


「半年…?『機械帝国』は、2年前に滅ぼしたはずだろ…!?なんでそんなに新しい機怪人が…?」


オンキョーモリは、それきり何も言わなかった。スピーカーが壊れたことにより、発声ができなくなったのだろうか?


「…まあいい…攫われた人の行方は言うつもりもないんだろう?引導を渡してやる!」


マキナは拳銃を折り畳み、再びガントレットとして左手に装着すると、拳を掌に叩きつけた。


その動作がスイッチとなり、ガントレットに青白い光が灯る。


「バスター・ブロウ・フィニッシュ!」


マキナが叫ぶと、音声認識により、『バスター・ガングローブ』が、『フィニッシュ・シークエンス』に移行する。


『バスター・ブロウ・フィニッシュ』…機怪人のコアである『センター・ギア』をスキャンし、全身のエネルギーを以って、その一点に正確な一撃を与える必殺技だ。


マキナはこの技で、多くの機怪人を葬ってきた。


しかし、この瞬間を、待っていた者がいた。


『フィニッシュ・シークエンス』の間は、マキナの防御力がゼロになる事を、機怪人達は知っていたのだ。


「今ダ!!『ワイヤモール』!!」


突然!オンキョーモリが大声を上げる!声も出せない程弱っていたのは、演技だったのだ!


マキナの真下の地面が盛り上がり、地中から、新たな機怪人が飛び出して来た。


その機怪人『ワイヤモール』は、モグラの掘削力と、鋼線(ワイヤ)の剛性を併せ持った機怪人である。


ワイヤモールは、掌から鋭いワイヤを勢いよく射出すると、マキナの『バスター・ガングローブ』を狙い、弾き飛ばした!


『フィニッシュ・シークエンス』の間、マキナの全エネルギーは、この『バスター・ガングローブ』に集約される。


つまり、このタイミングでは、一撃必殺の武器であると同時に、ウィークポイントでもあるのだ!


一撃にして、形成逆転である。


マキナは吹き飛ばされ、左手から『ガングローブ』が外れる事で、変身が解除されてしまった。


「ぐあぁ!」


ジメジメした地面に投げ出されたマキナは、すぐさま壁を背にして敵に向かうと、状況を把握しようと視野を広げた。


伏兵…地面に潜んでいたのか?恐らくは下級から中級の機怪人。ガングローブは…ダメだ、結構遠くまで飛ばされている。


人通りの多い場所でもない。


万事休す、か。


「お兄ちゃん…私じゃやっぱり、ヒーローにはなれないのかな…」


マキナは、兄に祈るように呟く。そうしている間にも、二体の敵は、ニヤニヤと笑いながらゆっくりと近づいてくる。


しかし、彼女は諦めない。これまで、兄と二人で、何度だって絶望を乗り越えて来た。


「お兄ちゃんがいなくたって…ヒーローじゃなくたって…戦える力を、私は持ってる!」


マキナは立ち上がり、拳を構える。


「オイオイ、変身解除サレテモ、マダ闘ウツモリカ?」


オンキョーモリが、マキナの行動を鼻で笑い飛ばした。


すると、彼よりもキャリアの長い機怪人であるワイヤモールが、オンキョーモリを諌める。


「油断スルナ。奴ニハ奥ノ手ガ…」


「ワカッテイル!サッサト殺シテシマオウ」


二人の機怪人が、その鋭い爪を構え、マキナにとどめを刺そうとした正にその時、突然、トンネルの暗闇の中に、声が響いた。


「いいね、この状況。実にシンプルでいい」


その声は、トンネルに反響しつつも、不思議なほどによく通った。


この場にいる全ての者が、その声の元に注目し、時の流れが止まったかの様になった。


ペタリ、ペタリと、湿った音を響かせながら、男は、含み笑いをする。


足音、布擦れの音、そしてシルエットから、その男が、和装に身を包んでいる事が推測できた。


壊れかけの照明が、不意に通電し、その男の姿を、スポットライトのように映し出す。


ボロボロの着流し、肩ほどの長さのポニーテイル。一見すると、時代劇に出てくるような浪人の姿の、小汚い青年がそこに立っていた。


不安定な照明がチラチラと点滅し、男の影を不規則にあぶり出す。


「女の子が襲われている…そいつらは、『鬼』じゃあねえ様だな…まあ、人間でもねえか」


彼は独り言の様にブツブツと喋る。


「貴様!何者ダ!?」


「怪我シネエ内ニ引ッ込ミナ!コスプレ野郎!」


機怪人達が口々に悪態を吐く。


男は凶悪な顔をした機怪人達にひるむ様子も無く、着流しの帯に手を掛けて、もう一方の手で顎をさすりながら、飄々と言う。


「まあまあ、語らせてくれよ。急にこんな訳わかんねえ世界に放り込まれて、俺だって右往左往してたんだ…今日1日で、変な板切れ持った奴らに囲まれる事3回、青い服着たおっさんに追いかけ回される事6回だ」


不明瞭な事を喋る男に、マキナは若干の恐怖を覚えつつも、彼の身を案じて、逃げる事を勧めようとした。


「何言ってっかわかんないけど、そこのあんた!コイツらはただの人間の手に負えるもんじゃ無いんだ!さっさと逃げて!」


「キキ!泣カセルネェ!見ズ知ラズノ人間二、親切ナコッテ!ジャア、マズハコノ男カラダ!」


オンキョーモリはマキナの言葉を受けて、標的をその男に変えた。


鋭い爪を構えると、一直線に飛び掛かる!


対する男は、不敵に笑い、半身になって立っていた。


「シンプルでいい…ここ最近、小難しい事が多過ぎたんだ…英雄じゃない…困ってる女の子を助けてやれる…それだけで良いんだ」


男とオンキョーモリが、すれ違った。少なくともマキナには、そう見えていた。


次の瞬間、オンキョーモリの体は真っ二つに裂け、血を吹き出しながら水溜りに沈んでいった。


男の肘には、白い、角か爪の様な、硬質のブレードが伸びていた。


「はあ…スッとした」と、男は、溜息をついた。


「語らせてくれてありがとう…お前らはもう、用済みだ」


男はそう言うと、ワイヤモールの方に目線を向けた。


ワイヤモールは、即座に戦闘態勢に入る。


「貴様…ヨクモ…!相当ナ手練レノ様ダナ!シカシ、タダデハ帰サンゾ!!」


ワイヤモールは掌からワイヤーを連続で射出し、この狭いトンネルの空間の中、四方八方に張り巡らせた。


「コレゾ我ガ必殺ノ型!身動キ一ツ取レヌママ、死ヌガ良イ!」


ワイヤモールはそう叫ぶと、地中へ飛び込み、その鋭い爪でもって、高速で掘り進んだ。


彼は、己の技に絶対の自信を持っていた。


「我ガ鋼線(ワイヤ)ノ強度ハ無敵…!上級機怪人デスラ切ル事ガ出来ナイ!」


相手をワイヤで囲み、身動きを制限してから、地中からの不意打ちで急所を仕留める!これが彼の必殺の型だ。


「危ない!」


マキナが動揺し、思わず大声を出す。


しかし、浪人姿の男は、対照的に落ち着き払っていた。


彼は、迫り来るワイヤモールに、低い声で語りかける。


「俺は…お前ほど親切じゃあないから、技の内容を教えたりはしない…だが、まあ、本気で行くから、お前…死ぬぞ」


そう言うと男は、獣の様な唸り声を上げた。


一瞬、陽炎の様に、彼の輪郭がぼやけた。


すると瞬く間に彼の全身は炎に包まれ、辺り一帯が照らし出された。


水溜りが蒸発し、マキナも熱に顔を歪める。


「オォアアア!!」


雄叫びとともに炎を振り払い、煙を立てて現れた彼の姿は、先程までの浪人姿とは全く違っていた。


肌は黒々とした赤紫色で、筋骨隆々、背丈も、2メートルは優に超えるほどの大きさになっていた。


肘や膝、そして指先には、先程見せた、硬質の白い爪が生え、極め付けに、額に、同様の一本角を湛えていた。


そのおぞましい姿を見て、マキナは、これまで戦ってきたどの怪物とも、異なる存在である事を理解した。


「お…鬼…」


マキナの口から、自然と言葉が漏れる。


『鬼』としか形容のしようがない程の、恐ろしい『それ』は、「ふしゅう」と、息を吐き出すと、背中を丸める様に縮こまった。


彼の全身の強張りを見るに、これは、何らかの攻撃の予備動作だ。


マキナは歴戦の勘により、その事を察して身を屈めた。


その刹那、鬼の全身から、白いブレードが無数に生えてきた!


無数のブレードは、トンネル内に張り巡らされたワイヤをいとも簡単に全て切り裂き、マキナの頭上にまで突き刺さった。


マキナはそのブレードを間近で見る事で、その材質が何であるかを理解した。


「これは…骨!?しかもこのワイヤの断面…溶けてる…もしかして、超高温なの!?」


ワイヤモールは、地上で起こった、自らの作戦の完全なる破綻を知覚する事なく、勢いよく、鬼の背後の地面から飛び出した。


鬼は振り向きざまにワイヤモールの鳩尾に拳を叩き込むと、そのまま地面に叩きつけた!


アスファルトが割れ、地面には、大きなクレーターができた。


そしてワイヤモールは、そのまま、二度と動くことはなかった。


鬼はワイヤモールの体内まで拳をめり込ませ、そのまま体内で、骨の劔を展開したのだ。


彼は血に塗れた拳を引き抜き、手首の関節を「ゴキッ」と、小気味好く鳴らすと、瞬く間に人間の姿に戻った。


浪人姿に戻った男は、乱れた着物を直すと、マキナの方を振り返り、「無事か?」と、語りかけた。


静寂が流れた。マキナは、自分が苦戦した相手を、いとも簡単に倒して見せたこの男を、まじまじと観察する。


見るからに、まともな人間ではなさそうだが、まずは、敵か、味方かだ。


マキナは大急ぎで『バスター・ガングローブ』を拾うと、彼に銃口を向けた。


「あなた…何者?」

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