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終幕を願う声


「このまま世界が終わればいい」


 本心としか思えぬ真剣味を帯びた火群ホムラの瞳を見据えながら、柳菜リュナは射抜くような眼差しで火群を見据えた。

「それ、本気で言ってる?」



××××



 王国のほぼ中心に位置する王都から東南、馬を飛ばして一月という遠く離れたその場所に、王国最大の砂漠が存在した。


「何で俺が……」

 真横で溜息を吐きながら零された言葉に、柳菜の理性もいい加減限界を迎えようとしていた。

 そんな一触即発にも近い空気を敏感に察した妖水アヤメは、困惑気な表情を浮かべながら火群を宥めるために口を開いた。

「これも立派な任務でしょ? ここを根城にしている月妖族げつようぞくの討伐に成功すれば、かなりの勢力を削げるんだから」

 妖水に告げられたことにより、火群はそれ以上愚痴を零すことなく柳菜は深く溜息を吐いた。



 王宮仕官である獅子導シシドウ妖水アヤメ緋巨蟹ヒギョカイ火群ホムラ金牛門コンギュウモン柳菜リュナの三人がこんな辺境の地を訪れたのには理由があった。

 王国でもっとも残忍で凶暴、そして殺戮を好むあやかしである“月妖族”がこの砂漠を根城にしているという情報がもたらされたのである。



―月妖族討伐



 仕官の中でも攻撃系に属する妖水と火群は言うに及ばず、バックアップと記録を兼ねて柳菜が先行部隊の指揮官としてここに使わされた。



 城内、城外の王族警護と城下町の防衛強化以外にも、王宮仕官は何かとやることが山積みなのである。



××××



「……暑い」


 そう、ここは砂漠。

 穏やかな気候が一定している王都とは違い、茹だるような焼け付くような暑さに三人は閉口していた。



「妖水……私と火群で先行して掃討しておくから、さっきの村まで戻って“納涼のうりょう参号さんごう”持ってきてくれない?」

 暑さでフラフラの柳菜の言葉に、妖水は困ったように問いかけた。

「いいけど……その“納涼参号”って何?」

「耐熱使用の小型冷房。私が戻ってもいいけど……多対戦の襲撃にあったら私一人じゃ手に負えないし、このメンツなら妖水が一番機動力があるでしょう?」

「ん、わかった。それが一番無難ね」



××××



 そうして妖水と分かれてしばらくした後、柳菜は同行者に向かってポツリと呟いた。

「……ごめんね、付いてきたのが私で」

 黙々と歩き続けながら唐突とも思えるタイミングで零された柳菜の言葉に、火群は訝しげに眉を顰めた。

「他のメンツは王都の護りだから無理でも、これが変則的な恋犁レンリだったら二人で話す機会もあったでしょ?」


―私、王宮保護の一族だから。


 言外に告げられた言葉に、火群は興味なさ気に息を吐いた。

「別に……」

 普段より口数の少ない―そしてどう考えても機嫌の降下している火群に、柳菜は呆れたように溜息を付いた。

「あのね、余計なお世話かもしれないけど説得力皆無だよ? 妖水と限時キリトの噂が流れ始めてから、あんたずっと機嫌悪いもん」

 前置きなどほとんどすっ飛ばしていきなり確信に触れた柳菜の言葉に、火群は苦々しげな表情で柳菜に視線を走らせた。

「踏み込まれるので気分悪いとは思うだろうけど、あんまり抱え込むと煮詰まるよ? っていうか煮詰まり過ぎて焦げてる」

「……」

 遠慮という言葉を知らないかのように突きつけられた言葉にしばらく沈黙した後、火群は億劫そうに口を開いた。

「どうせなら、このまま世界が終われば良い」

 冗談を言う性格ではないことを知っている柳菜は、火群の瞳を見据えながらどこか悲しげに火群を見つめた。

「それ、本気でいってるんでしょ」

 呆れた声音と同時に向けられたのは、物悲しげな視線。

 本心だということを理解していないはずはないのに、敢てそれを問いかけるように呟いた柳菜に、火群は自然と視線を伏せた。

「……そうすれば、妖水がアイツのものになるところを見なくて済む」

 ポツリと、搾り出すように告げられた言葉に、柳菜は一つ溜息を吐いた。

「相変わらず難しい恋、するのね」

「……血、なんだろうな」

 僅かの逡巡の後に告げられた言葉に、柳菜は眉をひそめた。

「それ、あんまり嬉しくない」

 どこか苦々しげに吐き出された柳菜の言葉に、火群はどこか納得したような表情で問いかけた。

紅甘コウマ、か?」

 告げられた名前に柳菜は軽く溜息を吐き出した後、どこか遠くに視線を向けた。

「そうね、紅甘もそう。だけど私が言ったのは……王宮仕官の称号を持っているみんな、かな」

 柳菜の言葉に、火群は王宮仕官―公大十二家出身の王宮仕官資格を持っているものたちの顔を思い浮かべて頷いた。

「言われてみれば、そうだな」


 それこそ相手は様々だが、実の兄妹や護るべき主、既婚者に想いを寄せているものたちが割合的には多い。

 それに自分のように横恋慕している者だって。


 そこまで考えて苦笑している火群に、ふいに零された柳菜の声が届いた。

「本当、このまま世界が終わっちゃえばいいかもね」

 どこか自嘲的に零された柳菜の言葉が珍しく感じられた火群は、僅かに目を瞠った。

「報われない恋―なんて虚しすぎると思わない?」

 どこか悪戯めいて告げられた言葉に、火群も否定することなく歩を進めた。

「それでも、諦められないんだけどな」

 火群の言葉に柳菜は驚いて目を瞠り、次の瞬間くすくすと楽しそうに笑い出した。

「本当、諦めたほうが楽なのはずなのに、ね……」



××××



 一体、この想いはどこまで行ったら消し去ることが出来るのだろうか。

 問いかけながら、抱き続ける。



 愛していると、それすら告げることすら叶わない相手を、ただ想い続けながら。

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