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伝わらない想いなんて

 貴方が誰を想っているかなんて、すぐにわかってしまった。

 貴方の視線がどこにあるのかなんて、嫌でも目に入ってしまう。



 ねぇ、気づいてないでしょう?

 私がどんなに、貴方を愛しているのかなんて……。



××××



 深紅。それは火群ホムラに一番似合う色。そして同時に、あの人を表す色。



「火群!」

 王家に仕える“攻撃系”仕官の証の制服を見つけて、聖水アキミは急いでその青年を呼び止めた。

「チッ」

 そんな聖水に対して火群は眉を寄せて振り返ると、軽く舌打ちして足を止めた。

「んだよ……」

 悪態を吐く火群の態度に胸を痛めながらも、聖水は表情を変えずに足早に火群に近づき、火群の端整な顔を睨み付けた。

「いつも言っているでしょう!? 総特務隊長から任務が言い渡されているの! 火群は特務従事なんだから、毎朝任務を聞きに来ることも仕事のうちだって!」

「……」

 遠慮なしで耳元で大声で言い聞かせている聖水の様子にうんざりしているのか、火群はただでさえ冷たい視線を聖水に向けた。

 最初の頃は近づくことすら怯んでいた聖水だったが、この頃は慣れたもの。そんな火群を睨み付けながら手にしていた書類を火群の顔面に押し付けた。

「これが今日の火群の任務。各隊長たちだって忙しい合間を縫って顔を出すというのに……こんな問題児を抱えるなんて、妖水アヤメ様も可哀想」

 彼女の名前である『妖水様』を強調するように口に乗せ、嫌味半分で言った聖水に火群は溜息を吐きながら書類にざっと目を通した。



 特務隊、第三部隊。

 王直属の部隊である特務隊。その中に存在する十三部隊の中でも最も攻撃力に秀でているものが名を連ねるのが第三部隊だった。

 王宮仕官の中でも戦闘能力が高く、戦闘専門と言ってもいい仕官がまとう紅いラインの入った軍服。

 それをまとう事が許された仕官たちを統括しているのが、獅子導妖水だった。


 王国内にある公大十二家の一つ獅子導家。

 獅子導妖水は符術と呼ばれる特異な術を使い、魔道と呪術に精通している一族の跡取りでもあり、歴代最強とまで言われている符術師でもあった。



××××



「おはよう聖水……と、火群?」


 呼ばれた声に振り返り、聖水は一瞬困ったような微笑を浮かべた。

「おはようございます。妖水隊長」

 隊長と呼ばれるのをあまり好んではいない妖水は、聖水の言葉に眉を寄せて深く溜息を吐いた。

「任務中以外それはやめてっていったでしょう、聖水」

 火群とはまた違った意味で端整な貌に不機嫌さをにじませて告げられた言葉に、聖水はにっこりと笑顔の仮面を貼り付けた。

「おはようございます、妖水様」

 そんな会話を交わしている間に、火群は聖水と会話をしていた時と一転、無表情ながらもどこか嬉しそうに妖水を見ていた。



ツキン



 そんな些細な火群の変化を感じた聖水は、顔に出さないように胸を痛めた。


 火群が妖水に想いを寄せていることなど、初めて見たときから知っていた。

 それを知っていながら、聖水は火群を好きになってしまったのだから。





「――任務の予定が変更になって、午前中の聖水たちは通常勤務。火群は私と一緒に城外警備になったから」

 それまでの思考を頭の隅に振り払うと、聖水は妖水に笑顔を向けた。

「はい、了解しました……けれど妖水様は火群と一緒ですか?」

 聖水の言葉に驚いたように目を瞬かせると、妖水は苦笑しながら火群に視線を向けた。

「攻守のバランスから言って火群と組むのが一番良いから……火群も聖水も一緒に組みたかったの?」


「嫌です!」

「遠慮します」


 苦笑しながら告げられた妖水の言葉に、聖水も火群も間髪いれずに拒否の反応を示した。

「そ?」

 そんな二人の様子に気にした風もなく軽く頷いた妖水は、軽く息を吐き出すと火群を見上げた。

「それじゃあ行こっか。城外警備のついでに結界の修復をしたいから」

 そういって火群と連れ立ってその場を離れている妖水を見て、聖水は深く溜息を吐いた。



××××



 妖水が聖水の実兄である限時キリトに想いを寄せているのを聖水は知っていた。

 聖水だけではない。王宮仕官の中ではそれは暗黙の了解だった。


 最初に出会った時はあまり仲が良くなく、それでもお互いの得意なことを師事し合っていた二人がそうなるのは自然なことだった。



「……不毛、過ぎるよ火群」

 そんな妖水に想いを寄せている火群を想いながら誰もいない廊下に呟くと、聖水も自身の想いに苦笑するしかなかった。

 聖水だって、叶わない想いを抱き続ける火群を想っているのだから。


 そういう所は聖水と火群はよく似ていた。

 手に入れる事の出来ないものを欲しがる所も、欲したものを諦めない所も。



「どうして……手に入らないものほど、欲しくなるんだろうね」



 もういない火群に問いかけるように呟くと、聖水は踵返して歩き出した。







 叶わない想いを抱いたまま、運命は速度を増して進む。

 誰もが予期しいえなかった、最悪な未来にむけて――

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