Deep Love
気だるい、甘い匂いに誘われて夢の中へ堕ちていく……。
逃げられない場所まで、追い詰められていく。
甘い甘い香りに、思考も全て、奪われて。
「……ん」
思考が鈍くなるような、不愉快なほど甘い匂いに誘われて闇に堕ちていた柳菜の意識は、不意に覚醒した。
「どこ……?」
目覚めてまず目に飛び込んできたのは天蓋付のベッドの天井。
自分の部屋にはこんなものを置いていなかったことをすぐさま思い出し、柳菜は起き上がろうとした。
ガシャンッ
右足の足首と左手首に違和感を感じた瞬間、鎖と鎖の擦れ合う音と鎖が何かにぶつかるが耳に届き、柳菜は眉根を寄せて視線を向けた。
「枷……」
手枷と足枷。
考えるまでもなく何者かに捕らわれたことを理解した柳菜は、すぐそんなことをした人物の顔を思い浮かべて深く溜息を付いた。
「確か私、恋犁と一緒にいたはずだったんだけど……」
独り言のつもりで零した言葉に、不意に答えが返ってきた。
「安心していいよ、白羊院恋犁はちゃんと家に帰したから」
入り口と思しき扉に寄りかかり、疑問に答えてくれた青年を見て柳菜は深くため息をついた。
「紅甘……」
呆れた様な柳菜の声にどこか面白そうに微笑を向け扉の前に立っていたのは、公大十二家の中でも“異端”と呼ばれる緋巨蟹の中でも、さらに異端といわれる緋巨蟹紅甘だった。
実力重視。そんな緋巨蟹の中でも異端―異色を放っていた紅甘。
そのため緋巨蟹の跡継ぎ候補には考えられず、その座を弟の火群に奪われたと柳菜は聞いていた。
「そろそろ、俺のモノになってくれる気になった?」
現実と妄想の区別も付いていないかのような子供のように、純粋な好奇心。そしてどこか狂気にも似た瞳で自分を見つめてくる紅甘に、柳菜は再び溜息を吐いた。
「何度も言っているようだけど、私はあなたのモノにはならないわ」
全く躊躇いもせずにきっぱりと断った柳菜は、左手首を差し出した。
「コレ取って。私は王宮仕官だから忙しいのよ」
あくまで強気な態度を崩さない柳菜を見て、紅甘はどこか可笑しそうに笑みを浮かべた。
「ダメだよ」
どこか狂気にも似た気を孕む瞳を見て、柳菜は近づいてくる紅甘を睨み付けた。
ぽす
柳菜のそんな態度に紅甘はくすくすと笑いをこぼし、ベッドの上に蓋の開いたガラスの小瓶を投げた。
「?」
不思議に思ってそれを手に取った柳菜は、次の瞬間驚愕に目を見開いた。
「紅甘!!」
「驚いた? ――凍結樹の泉に咲く“秘欲香”だよ……精製してないから媚薬としては最高の効果」
面白そうに告げる紅甘に、柳菜は間近に迫ってきた紅甘を見上げながら呟いた。
「何で紅甘がこんなものを……」
絶望にも似た柳菜の声音を聞きながら、紅甘は柳菜の顎を掴み視線を合わせた。
「君は絶対、逃がさないよ――?