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 その日、特別用事があった訳でもなく気まぐれに立ち寄った場所で、妖水は珍しい人物と遭遇した。

「――まさか、天秤遣てんびんづかの御曹司と武器屋で会えるとは……」

 思わず、というように漏らされた妖水の言葉に、煌は形の良い眉をわずかに顰めた。

「――『武蔵』は天秤遣と古くからの付き合いだ。王国内でここほど“品”が揃う店もないし……」

 心底うんざりしたような、言い訳じみた煌の言葉に妖水は僅かに驚いたまま言葉を漏らした。

「『武蔵倉むさしぐら』は闇商だから、王宮勤務でここに来るのは私か……あの腹黒魔導師くらいだと思っていたのよ」

「腹黒……って、仮にも弟子だろ」

 どこか呆れたように呟いた煌に、妖水は微笑んで告げた。

「あら? 私が今まで関わった人物の中で、最も適切な評価よ」

 笑顔―そう恐ろしいほどの笑顔だったため、その微笑にはかなりうすら寒いものを感じた煌は、話しをそらすことにした。


 懸命な判断だと言えよう。


「ところで制服という事は、これから王宮か?」

「そう。煌もでしょ」

 妖水の言葉に煌は頷き、買い物を終えると二人は連れ立って店を出た。




××××




「煌……」

 店を出てしばらく歩いている途中、妖水は煌に口を動かしているのが判らないような僅かな声で呼びかけた。

 妖水の呼びかけに煌も気づかれないように、不自然では無いように頷き、人気のない路地へと足を向けた。

 誰も入ってくることが無さそうな路地の空き地―中央まで進むと、妖水は深く溜息を吐いた。


「いつまで隠れているつもり? 出てきなさい!」


 辺りに響いた妖水の声に、漆黒のフードをかぶった反勢力。王家ではなく、王家に仕える公大十二家を中心とした『宮仕え』が気に入らない者たちがぞろぞろと姿を現した。


 その数ざっと見積もって二十人弱。

 よくこれだけの人数で自分たちと戦おうなどと考えた反勢力のメンバーに、妖水は内心溜息を付いた。


「宮廷仕官だな……」

 問いかけられた言葉に煌は呆然と彼らを見つめ、妖水はワンテンポずれて大爆笑した。

「なっ! 何が可笑しい!?」

 二人の反応を見てどこか焦りだした反勢力のメンバーに、妖水は不敵に微笑んだ。

「『筆頭王宮魔道士』兼『第一符術士』獅子導妖水」

 瞳を光らせて名を告げた妖水に、煌は溜息混じりに呟いた。

「好戦的……嬉しそうだな」

 戦ってもいないのにすでに疲労している煌に向かい、妖水は微笑みながらのたまった。

「もっちろん。煌は?」

 にっこりと、絶対的に裏がありそうなのに邪気無く綺麗に微笑みで圧力をかけられた煌は、深く息を吐いた。

「――天秤遣、煌」

 名乗りを上げた二人に、周りにいた者たちは驚愕に目を見開いた。


「獅子導!? 『あの』術師の一族のっ!?」

「なっ! 王宮筆頭といえば、一月前『西域さいいき』で月妖族げつようぞくの討伐時に、千の月妖族を一度で封じたという!?」

「天秤遣といえば、あの剣術・剣技指南の……煌といえば、末息子の跡継ぎか!?」

「王族護衛隊長のか!?」

「嘘だろう!? まだ死にたくねぇ!!」


 二人の名前を聞いたとたん慌てふためく様子を見ながら、妖水は楽しそうに言った。

「さすが三人の兄をしのいだ『跡継ぎ息子キラ』は有名ね~」

「妖水も充分過ぎるほど有名だろう」

 溜息を吐きながら言った煌に、妖水は強気な微笑を浮かべた。

「でも名前だけで全員が退いてはくれないようなので、さっさと片付けてお仕事に向かいましょうか」

 札を構えて臨戦態勢をとった妖水に、煌は深く息を吐くと妖水の横に立ち槍を構えた。

「行くぞ」

「多く倒せたほうに夕食オゴリだから。数、覚えておいてよ?」

「っとに――わかったよ」



ザンッ



 刀が空を切った音を皮切りに、優秀な士官と反勢力の戦いの火蓋は切って落とされた。

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