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哀しみのマリオネット

「――って……あ――」



 陽の光が殆ど届かない、薄暗い廊下にある部屋の扉の前で立ち止まると、恋犁レンリは一つ溜息を吐いた。

「……失礼します」

 返事を待たずに鍵を外し、恋犁は部屋に足を踏み入れた。


「ふ、ふふふっ――ぁ……てる……」

 恋犁が入って来たことにも気付かずに、その女性はどこにも焦点を合わせずに何事かをブツブツと繰り返していた。


「……」


 そんな姉、重音カサネの様子を見て、恋犁は眉を寄せながら深く息を吐いた。


 白羊院ハクヨウイン重音カサネ――

 恋犁の“姉の一人”であるその人は、王国公大十二家の一つである『白羊院』を継ぎ、王家に仕えるはずの人だった。

 実際、周囲も本人もそう思い、そして努力していたという。

 けれど彼女は優秀であったにも関わらず、他の者より遅い十八でようやく登城を許された。

 そして第一皇女付きの仕官になった日、帰路で暴行されそのまま狂ってしまった。


 現実から目を背け、全てを閉ざした。


 そして、重音の代わりにまだ幼かった恋犁が家と役目を継ぐことを望まれた。

 恋犁にはいくつかの選択肢が用意され、恋犁は自身で白羊院を継ぐことを決めた。


 でも、だから、だからこそ恋犁は……この姉が大嫌いだった。




××××




 不意に恋犁は、手にしていたカードのようなものに呼びかけた。

「――妖水、今すぐなんだけど……お願いできる?」

 恋犁の言葉に相手―妖水は呆れたような、疲れたような溜息を返した。

『特急料金、上乗せするから』

 妖水らしい言葉に苦笑すると、向こうから『少し待って』とだけ告げられ、通信が途切れた。


「……少しくらい、良いよね。重音“姉様ねえさま”」

 ポツリと恋犁がつぶやいたのと同時に、影のある壁から一人の少女が姿を現した。

「――で、本当にやるの?」

 突然かけられた声に驚き恋犁が辺りを見回すと、壁の影が一番濃い場所から妖水が出て来た所だった。

「妖水……驚かさないでよ」

 驚きに目を見張った恋犁に、妖水は呆れたように溜息を吐いた。

「少し、とちゃんと言ったわ。それに四年前まで獅子導の人間だったくせに、何を今更……」

 何気なく告げた妖水の言葉に、恋犁は顔を伏せた。

「私には……白羊院の方が合っているのよ。獅子導の出来損ないなのだから」

 恋犁の言葉を呆れ半分に聴きながら、妖水は重音の周囲に陣のようなものを書き込んだ。

「やろうと思えば恋犁だってできるはずなんだけどね……符術は血統とは関係なく使える術なのだから……っと、はい、準備完了」

 陣を指差しながら、妖水は恋犁に向かって聞いた。

「――で? 重音の能力どれだけ恋犁に移せばいいの?」

「全部よ」

 質問に間髪いれずに答えた恋犁に、妖水は眉を寄せた。

「理解してると思うけど、重音の能力が恋犁の身体に完璧に一致しなかったら、最悪廃人。ただの戦闘記録人形だからね?」

 最終確認、とでも言うような妖水に恋犁は迷うことなく頷いた。

「理解しているわ――お願い」

 恋犁の言葉に妖水は深く溜息を吐き、陣の一点―ちょうど重音の正面の位置を指して自分は陣の中から出た。


「それじゃあ、始めるわよ?」





 目を伏せた恋犁を、妖水は悲痛そうに見つめていた。

 それでも軽く息を吐き出すと、目の前にいる異母姉妹いもうとの依頼を、願いを叶えるためにゆっくりと契約の言葉を紡いだ。




××××




 それは「はじまり」

 これから起こる出来事に必要な、物語の一つでしかなかった……。

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