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And that's all...?

「っ……ケホッ」

 むせ返るような血の臭いに、息を吐くのと同時に咳き込んだ柳菜リュナは深く溜息を吐いた。


「It is an end in this...?(これでお終い?)」



××××



ぴるぴる


 王国内ではあまり流通していない小型の通信機の鳴る音がして、遙人ハルトは僅かに眉を上げて通信機を取り出した。

 個人で持っている通信機のアドレスは個人的―ごく親しい人の間にしか知られていない上に、遙人の専用アドレスを知っていそうな人物の殆どは命を落としていた。

「はい……」

 警戒しつつも声だけのそれに問いかけると、通信機の向こう側からは荒く、どこか苦しそうな息遣いがわずかに聞こえてきた。

「?」

 訝しげに思いながら耳を傾けていると、通信機から聞こえてきたのは現時点ではほとんどいない、協力者の少女の声だった。

『ハル……ト』

 傍から聞いて明らかに様子のおかしいその声音に、遙人は驚いて通信機を握り締めた。



『マキナか!?』

 驚愕した様子の声音にどことなく微笑むと、柳菜は軽く目を瞑ると言葉を紡ぐのも辛そうに声を吐き出した。



『場所……わかるでしょ? ……今すぐ、来て……お願……』

 通信機の向こう側から聞こえてきた柳菜の声に、遙人はすべてを聞き終える前に通信機を握り締めたまま、走り出した。



××××



「柳菜!」

 通信機を逆探知し、城に近い崖でその反応を見つけた遙人は、逸る鼓動を抑えながらもその場所に近づいていった。

 近づくにつれ目に入り、感じるのは、大量の血と荒らされた木々。

 胸によぎる嫌な予感を敢えて気づかないふりをしながら、遙人はどこか絶望的な気持ちで柳菜を探していた。


「こっち……」


 不意に聞こえてきたわずかな声に、雑木林を抜けると、出口の木にもたれかかっている柳菜を見つけた。

「柳菜!」

 白い―まるで死体のように青白い柳菜を見て、遙人は驚愕で心臓が凍りついたような錯覚に陥った。

「遅い……」

 どこか楽しげに告げられた言葉に、遙人は硬直から解かれ、慌てて柳菜に近寄った。

「柳菜、それは……」

 ただ慌てる遙人に苦笑し、柳菜は記憶媒体を渡しながら口を開いた。

「……潜伏場所に夷折イオルが乗り込んで来ちゃってさ……どうにも出来なくて逃げて来た。そのデータ持ち出すのだけで精一杯。兵士も結構いて……私、非戦闘員だから」

 どことなく自嘲気味な微笑を浮かべる柳菜に、遙人は柳菜を抱きしめながら聞いた。

「なんで……」

 遙人の言葉に力なく首を振ると、柳菜は億劫そうに口を開いた。

月妖族げつようぞく月神族げっしんぞくの討伐あたりから、全部狂い始めた……妖水アヤメは一番最初に気づいたから、切り捨てられた。どこからなんてわかんないけど……ぜんぶ図られてたんだよ」

「柳菜……」

 悔しそうに涙を零しながら、柳菜は吐き捨てるようにつぶやいた。

 その声にはいつものような力はなく、彼女が黄泉に向かっていることなど考えなくてもわかりきっていた。


 決して、助からない。


「王国には、何かある……私たちですら知らない、何かが」

 どこか緊迫した様子で告げると、柳菜は目を瞑り微笑んだ。

「ごめんね……最期まで力になれなくて」

 柳菜の言葉に苦笑すると、遙人は柳菜の耳元で囁くように告げた。

「いや……ありがとう、助かった。――後は任せて、ゆっくり休め」

「ん……ありがと」

 その言葉を最期に、柳菜の意識は深い闇に落ちた。




××××




「……大丈夫か、茅菜ちな

 頭上から掛けられた青年の言葉に、意識を過去に飛ばしていた茅菜は目を瞬かせた。

「大丈夫よ」

 疲れたような息を吐き出し、茅菜は席を立った。

「“見つけた”の?」

 学生鞄を片手に、茅菜はどことなく興味なさ気に青年に問いかけた。

「あぁ」

 青年は軽く頷くと、何枚かの写真を茅菜に手渡した。

「彼女が……?」

 どことなく驚いた様子の茅菜に青年は深く微笑みを浮かべた。

「そう、彼女だよ……柱姫はしらひめ―逃げおおせた、贄の姫君の血を継ぐ唯一の姫君は」





 隠された事柄、切り捨てられた命は後世に巡る。

 それすら図られていたことだと知ったのは、すでに引き返せない場所まで来た後だった……。

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