闇が紡ぐ出会い
「王は、この王国に置いては法だから」
どこか遠くを見つめて口を開く少女に、青年は驚愕の視線を向けた。
「まさか、この一連の出来事は……!?」
ただ驚愕に少女を見つめる青年に、少女は硬い表情のまま肯いた。
××××
金に近い黄色の縁取りの漆黒の外套を被った少女は、深く息を吐いた。
「まさか、こんな計画が隠されていたなんてね……」
その声音から隠し切れずに滲み出すのは落胆と憎悪。
少女は王国―王に仕えていたからこそ、邪魔になったために切り捨てられた人間の中の一人だった。
「……金牛門柳菜か?」
唐突に背後からかけられた声に、少女―柳菜は外套の中からその人物を見据えた。
「そう……あなたがレオの兄?」
「獅子導遙人」
獅子導遥人と名乗った青年は、確かに柳菜の知る妖水に似ていて、彼女の血族に見えた。
「話があるって……」
訊きかけた言葉を途中で切り、柳菜は苦々しげに溜息を吐いた。
「お兄さん、戦闘は得意?」
周りを見回しながら隠し持っていた薙刀を組み立てた柳菜は、遙人に背を向けて訊いた。
「どっちかっていうと肉体労働担当なんだ。妖水と違って術式は不得手で、簡単なものしか使えない。獅子導の跡継ぎ、妖水が第一候補だったくらいだしな」
さらりと告げられた事実に、柳菜はどこか愉快そうに声を出した。
「私も王宮保護の人間だったから、戦闘経験は少ないんですよ」
囲まれていることを知りながら、遙人は妖水がよく使っていたような札を数枚取り出し、柳菜に背中を預けた。
「それは困った……一応契約魔導師とはいえ、俺も基本は非戦闘員だから」
困ったと口にしつつ、どこか楽しげな様子の遙人に、柳菜はからかい半分で口を開いた。
「それなら、死んだふりでもしてみます?」
柳菜の言葉に、周辺に札を飛ばしながら結界をはる遙人は、微笑を浮かべた。
「それも良いアイディアだとは思うんだけどね……その前にちょっと試してみたいことくらいはあるんだよ」
そう言いながら腰のベルトに掛けていた二本の斧を取り出した遙人は、どこか楽しげに呟いた。
「いくぜ! 火斬裂衝」
遙人が叫ぶと同時に結界外の広範囲の大地が割け、そこから炎が噴出した。
「さっすが……」
遙人の技が届かない―柳菜の目の前の兵士たちを倒しながら、柳菜は驚きながらも感嘆の声を上げた。
「うらぁっ!」
もう一度声を上げたと同時に、斧の柄の部分を遙人があわせると、割けた大地は何人もの兵士を飲み込みながら閉じた。
割けた事が嘘のように、元通りに。
「すごいですね~。あっという間に半数以上蹴散らすなんて……それなら私も」
自分のほうにいる兵士たちには目もくれずに遙人に感心していた柳菜は、それを見てどこか不敵に微笑むと薙刀を構えなおした。
「行きますっ!」
一度兵士たちから十分な距離をとると、柳菜はスピードをつけて彼らを薙ぎ払った。
ザンッ
一瞬、鋭い風がその場で吹き荒れると、兵士たちの中で動ける人物はいなくなった。
「戦闘行為が苦手―と言っていた割りに、今の王宮仕官と十分対等に戦えるようだ」
どこか面白げに言われた言葉に、柳菜は遙人に視線を合わせて微笑んだ。
「苦手ですよ~。仕官時代にやったトーナメントは初戦で負けるくらいでしたから。確かに他の金牛門の機械整備士たちよりは戦闘行為に慣れてはいますけど」
邪気なく微笑んだ柳菜に、遙人は一瞬だけ驚いて微笑を浮かべた。
「それではお互いの実力もわかったところで参りましょうか……機械姫」
どこか冗談交じりに告げる遙人に、柳菜は肩をすくめつつもそれに乗ることにした。
「そうですね、レオの王子様?」
遙人に微笑を向け、柳菜は強い瞳で遠く見える王宮を見据えた。
「負けるわけにはいかない……地べたを這いずり回っても、絶対に戻ってみせる」
零された柳菜の言葉は、かつてないほど強く、そして力に満ち溢れていた。
この出会いはレオこと獅子導妖水が処刑されてから半年。
第二皇女付き仕官の中で唯一生き残った真愛が命を落とす、僅か三ヶ月前の出来事だった。




