願いなんて不確かなもの
「珍しいですね、貴方が帯剣するなど……」
「ふざけないで」
限時の言葉を強い口調で遮り、妖水は言い放った。
「なぜ“今”私がここにいるのか。それが理解できないほど、愚かでも無知でもないでしょう? “元第一皇女護衛魔導師”宝瓶遠限時」
妖水の言葉に限時はそれまで浮かべていた微笑を消し、どこか不適な笑みを浮かべた。
「理解していますよ? 国王直属特務隊、第三部隊隊長“獅子導妖水”様」
××××
―パラ―
王国の中心ともいえる城の敷地内、第一神殿跡。
人が殆ど近づかないその場所の遺跡とも思える噴水跡に腰掛けていた限時は、よく知る人物の気配に気づいてそれまで目を通していた本から顔を上げた。
「こんばんは、レオの姫君」
和やかにかけられた限時の言葉に、レオと呼ばれた少女は眉を寄せて暗がりから姿を現した。
「……嫌味? 宝瓶遠限時」
「いいえ」
不機嫌そうにかけられた少女―獅子導妖水の言葉に、限時と呼ばれた青年はどこか楽しげに口を開いた。
“他人には決して自分の手札を見せない、策略家”
かつて初対面でそう相手を評価した妖水は、どんなに月日を過ごそうと喰えない限時を見つめて苦笑した。
「……貴方は、変わりませんね。初めて出逢った、あの時から」
静かに告げられた言葉は、妖水が馳せていた記憶と重なり、妖水は僅かに目を見張った。
「貴方の周囲、全てが変わっても……貴方の魂のあり方だけは決して誰も変えることは出来ない」
告げられた言葉に一瞬、寂しげな表情を浮かべた妖水は、限時を見据えるように睨み付けた。
「残念だけど、私は貴方を昔話をするためにここに来た訳ではないの」
「理解していますよ?」
にこやかに告げられた言葉に、妖水は一瞬、硬く目を瞑ると短刀を抜き出して限時の首筋に当てた。
「珍しいですね、貴方が帯剣するなど……」
「ふざけないで」
限時の言葉を強い口調で遮り、妖水は言い放った。
「なぜ“今”私がここにいるのか。それが理解できないほど、愚かでも無知でもないでしょう? “元第一皇女護衛魔導師”宝瓶遠限時」
妖水の言葉に限時はそれまで浮かべていた微笑を消し、どこか不適な笑みを浮かべた。
「理解していますよ? 国王直属特務隊、第三部隊隊長“獅子導妖水”様」
今まですごしてきたどんな時よりも冷たい、限時が敵と認識した存在に向けられる限時の声に、妖水は僅かに眉を寄せた。
「宝瓶遠限時」
受けたのは限時からの完全な拒絶。
「王の名の下に」
開いた妖水の口から出るのは、心とは正反対の言葉。
「貴方を拘束します」
「……同行できません、と言ったら?」
挑発、とも思える限時の言葉に、妖水は一瞬だけ唇を噛み締めて口を開いた。
「力ずくでも、同行していただきます」
師弟関係にもあり
王宮に仕官する立場
そして、妖水にとっては想い人……。
どうして、こんなことになってしまったのだろう。
大きくみてしまえば、同じ人物に、王国に仕える存在なのに。
誰に問いかけても返らない答えに、妖水は胸を痛めながらも限時と対峙していた。
誰も気づいてはいない。
けれどそれは何より確かな、終わりへのカウントダウンのはじまり……。




