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天空の涙

 雨が、降る。



 この国全てを、潤す雨が。冷たい雨が、大地を潤す。

 地上とは異なり、雨が降ることなどがほとんど無かった王国で、空から雨が零れ落ちたあの日。

 想いは、ここまで行けば終わり、ということは無いのだということを知った。



××××



 灰色の雲から遠く聞こえる雷鳴の音。王国では滅多に起こりえるはずの無いその現象に、キラは訝しげに空を見上げた。

「雷鳴……か?」

「遠く聞こえる雷鳴は、天が大切なものを喪失した証――は深い、深い悲しみ」

 真剣味を帯びた、それでありながらどこか冗談半分、からかい混じりなその言葉に、煌は頭上を見上げた。

「まるで煌の心、そのものだね」

 ポツリと呟かれた言葉は無視し、煌は少女を睨み付けた。

「どういうつもりだ、碧杞タマキ?」

 厳しく射抜く煌を見て軽く肩を竦ませると、碧杞と呼ばれた少女はバルコニーから煌の元へと飛び降りた。

「別に。ただなんとなく、かな……隊長、そんな感じの表情してる」

 煌に睨み付けられた事など気にしていないかのように言うと、碧杞は顔の横に手を添えて敬礼した。

「本日より第三皇女護衛隊、女官長としての任を拝命いたしました。緋巨蟹ヒギョカイ碧杞と申します」

 碧杞の口から発せられた『隊長』の言葉に軽く目を見張っていた煌に宣言すると、碧杞は軽く舌を出して言った。

「ボクは生き残った唯一の“贄巫女”だからね……わかるんだよ、そういうの」

 その言葉に呆れてその場を立ち去ろうとした煌の背中に、碧杞の言葉がかかった。

「隠しても、消えないよ」

 突きつけられた言葉に、無視を決め込んでいた煌の足は自然と歩みを止めていた。

「想いは決して消えることはない。例えそれがどんなに罪深い想いでも、禁じられた想いでも」

 碧杞の言葉に無意識に手を握り締めた煌は、静かに、そして何よりも冷たい声で突きつけた。

「お前に何がわかると……」

 煌の言葉に碧杞は悲しそうに微笑を浮かべると、静かな声で告げた。

「罪深い想いや、禁じられた想いこそ……止めなくてはいけない想いこそ、加速する。それはことわり。水の流れが変わらぬように、あなたはあなたの光に惹かれ、ボクはボクの光に惹かれた。だから、ボクにはわかるんだよ」

 その言葉に思わず振り返った煌の目に映ったのは、深い悲しみの色を浮かべたエメラルドの瞳だった。

「君もボクも……きっと同じ。この想いに、終わりなどない――来ないんだよ」

「だが、捨てなければならない……」

 搾り出された煌の声に碧杞は哀しそうに微笑み、煌から視線をそらした。

「捨てられないよ。……殺すことは出来るけど」

「……」



 僅かな沈黙の後呟かれた碧杞の言葉は、やけに煌の耳に残った。



「ボクたちが持つ想いには、決して終わりなど無いと……この恋に、終わりなど無いと……ボクは思うよ」



―それが、不相応な光に惹かれた者への罰。



××××



 降り続く雨は冷たく、加速する想いは止まることを知らない。



 終わりの無い想い―それはすでに「恋」などではない……。

 執着じみたそんな想いが、恋であるはずがないと煌にはそう感じられてならなかった。

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