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The breath of Life

 願いを星に託して、祈りを心の奥底に封じる。



 私が『女』である事は何の免罪符にもならない。

 だからせめて、何よりも強く。誰よりも気高く。



 この体躯からだが、一族にとって嫌悪と憎悪の対象でしかなくても。

 たとえこの存在が、禁忌と呼ばれても……。




××××




「おい、聞いたか? 早乙女から歴代最年少の特務仕官が入るらしいぞ!」

「早乙女!? 公大十二家の『あの』守護を生業としている一族か?」

「ちょっと待てよ! 最年少の特務仕官って確か百年前、十四で入った早乙女サオトメ怦怜ホウレンだろ?」

「――て事は、まだ成人していないのね」

「へぇ……未成年ガキが特務仕官の資格を……」


 普段は特別、噂話など蔓延しないはずの王宮内はどの場所もある一つの噂で持ちきりだった。

 話題の中心人物はただ一人。

 今年度史上最年少で王直属の部隊―特務仕官と認められた守護士、早乙女家の仕官。

「武官、早乙女の新人少年――配属先が楽しみだ」




××××




「――王宮護衛特務、第二皇女マリーウェザー姫付き、早乙女サオトメ真愛ミオ



 その日、初めて公に顔を晒した一人の武官に、人々は驚愕した。

 史上最年少の特務仕官として姿を現したのはマリーウェザーの姉であるアイリーンと同い年の十二歳、女人禁制のはずの早乙女家出身の少女だった。



 女人禁制――



 古くから続く絶対的な早乙女家の掟を破った、特例の守護士。

 ただでさえ厳しい早乙女一族の訓練を耐え抜き、厳しいといわれる武官の試験を突破したのが、儚げで―その上普通の少女にしか見えない少女だった。

 しかも特務―少女は特筆しているエリートの中でも飛びぬけて優秀な精鋭だった。





 しかし真愛の周囲のものは、真愛の外見だけで真愛の全てを決め付け、彼女を軽んじた。

 最も真愛を軽んじすぎていささか調子に乗りすぎたものは、二度とそんな気が起こらないように徹底的に真愛自身に叩きのめされていたが……。



 彼女への風当たりは強く、王宮に彼女の味方はいなかった。



 周囲から真愛が孤立し、それが日常になった頃には半年の月日が流れていた。




××××




「早乙女、真愛……?」

 唐突に掛けられた声に、真愛は訝しげに眉を寄せながら振り返った。

「……あなた、は」

 闇を映したような濃紺の長い髪を耳元で二つに結っているその少女は、深い紅の双眸をキラキラと光らせて微笑んだ。

「レオ。今期、王と契約を交わした外部仕官」

 真愛は『レオ』とだけ名乗った少女をただ見つめた。

「……私に何か用?」

「第二皇女マリーウェザー姫付きの女性仕官責任者って貴方でしょ? 私、今日からマリーウェザー姫付きの契約符術師なの」

「……付いてきて」

 にっこりと微笑んでのたまった“レオ”に溜息を一つ吐くと、真愛はレオを仕官室へと連れて行った。




××××




「――で?」

 真愛個人に与えられている仕官室にレオを連行し、制服を手渡した真愛は開口一番そう言った。

「で?」

 手渡された制服に袖を通し、スカートに深いスリットを入れ、腕部分の布を切断したレオは戦闘型術士の証である紅のラインが入った黒いケープ(のようなもの)を羽織りながら聞き返した。

「なぜ貴方がここにいるんですか?」

 殺気に近い怒気を孕み、真愛を軽く見ている宮仕え―つまりは公大十二家以外の人間―たちが聞いたら即座に逃げ出しそうな地を這うような声に、レオはまったく気にした様子もなく答えた。

「ん? だって護衛以外にも呪詛祓いや結界系に強い人間が皆無―ってマズイでしょ? 第二皇女は次代の稀有なる『希望』なんだし、念には念を―って意味であって。あ、側付きの女性仕官が真愛一人じゃ不安だって言う理由では無……」

「それくらいは理解しています! 私はなぜ貴方が来たのかを聞いているんです――妖水アヤメ!」

 珍しく声を荒げて聞いた真愛に、レオ―妖水は目を瞬かせ事も無げに言い放った。

「あぁ……見合いなんて駒扱い、ヤだから」

 さらりと言ってのけた妖水は、呆然と立ち尽くす真愛に向き直った。

「それとおせっかい――私がいれば、緩和剤とはいかなくても真愛に向く嫉みの七割程度は私に来るしね」

「っ!!」

 驚きに目を見開いた真愛に、妖水は気にした風も無く髪をいじりながら興味無さ気に言った。

「私はバックが……獅子導シシドウだから。王宮を追われた獅子導とはいえ、私は“獅子導の姫”だもの。それに『符術』って言うメンドイ術師だから表立って何かされたりはしないし。気にしたりとかしないけど、真愛はそういうの結構気にする性質でしょ? 早乙女はただでさえ閉鎖的な女人禁制だし。だから、かな?」

 そう言いながら髪を弄ぶ妖水に、真愛は自嘲的な笑みを浮かべた。

「気にしてない……って言えば嘘。でも大丈夫よ」

 真愛のどこか虚勢を張った態度に妖水は軽く溜息をつき、真愛の頭を軽く撫でた。

「そ、なら良いけど」

 それだけ言って扉のところまで歩き、顔だけで振り返った。

「真愛、早く見つけなさい」

「……何を?」

「泣ける場所。もしくは真愛が真愛で在れる場所」

 妖水の言葉に真愛は顔を伏せた。

「そんなの……」

「『必要ない』とか言わないでね」

 真愛の言葉を遮り、妖水は困ったように微笑を浮かべた。

「人は、泣けれる場所があるから、強く在れるのだから……それは性別に関係なく、ね」

 妖水の言葉に真愛は何も言わず、顔を伏せたままその場に立ち尽くした。

 そんな真愛の様子を見て妖水は溜息を一つ吐くと扉を開いた。

「今の真愛、なんだかギリギリよ?」

 呟くように言葉を残し、妖水は部屋を立ち去った。




××××




 禁じられた――女人禁制の守護士一族に生を受けた、優秀すぎる『女』の跡継ぎ。

 それは少女から全てを奪った。



 それでも少女は、そうして生きていくことを甘受している。

 それが宿命と、自らを縛るゆえに……。

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