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一章一話 軍師、仕官先を探す

「職業斡旋所はこっちだったかな」


 軍師学校を退学させられたアキトは、帝都の職業斡旋所を目指していた。 

 アキトは、そこで仕事を探そうと考えていた。

 とにかく仕事を見つけなければ、生きていけないからだ。

 

 帝都の職業斡旋所であれば、帝国全土の求人情報が集まる。

 

 どこか地方で良い仕事はないかとアキトは、斡旋所に向かって帝都の大通りを歩いていた。


 そんなアキトは一つだけ、心残りが有った。

 

 それはリーンハルトやアリティア達、友人へ一言も別れの挨拶が出来なかったことだ。

 幼少時からの付き合いの三人。アキトが十歳になって軍師学校に入る前から、親しい間柄であった。


 どこかで手紙でも書かかなければ、とアキトは心の中で呟く。


 その時であった。


「えい! この魔物風情が! おとなしくしろ!!」


 そう叫びを上げるのは帝都の衛兵だ。

 衛兵が三人がかりで、一体の身なりのいいゴブリンを取り押さえている。


「私は、帝国市民権を持つ者だぞ! 何故帝都から出ていかなければならん!!」

「黙れ、この下等生物!!」


 衛兵はそう言って、ゴブリンの頭を棍棒で叩く。気絶したゴブリンはそのまま馬車に乗せられ、帝都の外へ運ばれていった。


「ここはもう俺達のいる場所じゃないな……」


 アキトはそう言って、胸にぶら下げた麻袋を撫でた。

 中にはアキトの師駒であるスライムのリーンがいた。


 自分達も、なるべく早くこの帝都から出ていこう。そうアキトは、早足で歩いた。


~~~~


 職業斡旋所は、結構な人で溢れていた。皆、掲示板の前で良い求人がないか探している。


 アキトも早速群衆をかき分け、膨大な求人に目を通した。


「帝都じゃなくて、地方の依頼は…… あった。ここだ」


 アキトはそう言って、地方の求人が集まる場所へ目を向ける。


 城壁作りの作業員、補給物資を輸送する馬車の御者…… 時世を反映してか、戦争に関する仕事が多いようだ。


 どれも月の給金は帝国人の平均月収を超えているが、命の危険を考えれば安すぎる仕事だ。


 できれば、学校で学んだことを活かせる仕事に就きたい…… 

 アキトのみならず、誰でもそう願っていることだろう。

 とはいえアキトは仕事を選べる状況ではない。適当に南部の城壁建造の仕事に目を付けた。

 

「集合場所は南部の都市プーラか」


 アキトは集合場所を覚えると、職業斡旋所を出ていった。


 適当に船賃を稼いで、故郷へ帰ることにしよう…… 

 この時、アキトはそう考えるだけだった。


 アキトが帝都の外へ向かおうと、歩き始める。 

 

「アキト!! アキト、待って!!」


 辺りに女性の声が響いた。


 アキトはその声の方向に振り向く。


「アリティア?! 何でこんな場所に?!」

「はあ、はあ…… あなたこそ何で、何も言わずに行っちゃうのよ」


 アリティアは護衛もつれず、ただ一人でここまで来たようだった。

 軍師学校の制服は、ネクタイが曲がるなどして崩れている。


「お前やリヒトには一言挨拶したかったよ。でも、三十分以内に寮の部屋を片付けたら出ていけって、学長に言われたからな」

「本当、最低な男ね。自分の策が失敗を招いたからって、アキトに当たって。ああいうのを老害っていうのよ」

「まあまあ。ああやって過去の栄光を忘れられないんだ。どっちにしろ俺にはこの師杖しかなかったから、特に困ることもなかったし」

「何がまあまあよ。おかげで私もリヒトも、こうやって帝都を探し回る羽目になったのよ。リヒトは今どこかしら…… それで、アキト。これからどうするつもりなの?」

「お前たちと離れるのは悲しいが、適当に仕事して、故郷に帰るよ」

「そう…… 仕事は見つかったの?」

「南部の城壁建造の仕事だ」


 アリティアはアキトの言葉を聞くなり、制服の胸ポケットから紙を取り出す。


「アキト、人には得意な仕事が有るわ。アキトは力がないわけじゃないけど、もっとあなたを必要としてる仕事が有る」


 そう言ってアリティアは、アキトに紙を渡す。


「何だこれ?」

「私の遠い親戚宛の手紙よ。これを持ってアルシュタートまで行きなさい。領地は荒れているけど…… アキトなら、力になれるはずだわ」


 アリティアは、自分の親戚であるアルシュタート大公に、アキトを軍師として雇ってくれるよう手紙を書いていた。


 アルシュタート大公…… 大陸の東海岸中央に位置するアルシュタート州を治める領主。

 その領地は広大で昔は豊かな地であったが、北と南の魔王軍に攻められ、今では荒廃しているという。


 アリティアの親戚となると、アキトも一応は遠い親戚となる。


「ちょっと待て、アリティア。俺は軍師にはもう」


 アキトがそう言おうとした瞬間、衛兵がこう叫んだ。


「魔物の反応が有るぞ!! 近くを探せ!!」

「まずいわ、探知魔法を使う衛兵がいる。アキト、早く逃げて!」


 アリティアは、アキトに早く出ていくように促した。


 衛兵の中にローブを被った男がいる。帝国軍の魔導士で、探知魔法を使い魔物を探しているのだ。


「アリティア…… ありがとうな。リヒトにもそう伝えてくれ」

「礼なんかいらないわ。 ……だから絶対、また三人で会いましょう。行って、アキト!」

「ああ、必ずだ!」


 アキトはそう言って、早足で帝都の東門へ向かう。


 一人の衛兵が何かに気付いたように、こう言った。


「待て! そこの軍師学校の制服を着た者!」

「お兄さん、何か用かしら?」


 その衛兵の前にアリティアが立ち塞がる。


「君じゃなくて…… ま、アリティア殿下?! 失礼しました!!」

「いいのよ。彼は私の使い。怪しい者じゃないわ」

「ははっ。かしこまりました」


 アキトは救いの手を差し伸べてくれたアリティアに、心の中で深く感謝するのであった。


 そして再び、アリティアとリヒトに必ず会うことを誓った。


~~~~

 

 かくして帝都の東門を出たアキトとリーン。


 アルシュタートまでは真っすぐ東へ街道が続いているので、それを進んでいけばいい。


 帝国郵便や伝令の馬なら一日もかからないが、人の脚なら六日はかかる距離だ。


 途中、巡礼者用の無料の宿で夜を超しながら、アキトとリーンはアルシュタートを目指す。


 帝都からは大分離れたので、リーンは麻袋から出てアキトの隣を進んだ。


「大丈夫か、リーン?」


 アキトは時折、リーンを気遣った。しかし、リーンはその度に大きく体を動かして頷くだけだ。


「丁度、三分の二は歩いた。明日の昼には着くからもう少しの辛抱だ、リーン」


 だが、アキトには心配事が有った……


~~~~


 六日目、アキトとリーンは再び、アルシュタートへ向け宿を立つ。


「やはり、大分道が変わってきたな」


 アキトは街道の石畳が、所々陥没していることに気が付く。

 それだけじゃない、廃墟と廃村、人の手が入らなくなった田畑が目立つようになってきた。


 昨日までの道は、綺麗に整備されており、多くの人が行き交っていた。

 だが、今アキト達とすれ違う者は誰一人現れない。

 そればかりか、街道を巡回している軍団兵の姿すらないようだ。


 アキトも知っているように、東海岸はここ何十年の戦乱で荒廃していた。


 東海岸は、常に戦争に悩まされていた場所だった。


 帝国と南魔王軍が休戦していた時も、北と南、北と帝国が互いに争っていた地域だ。

 帝国の国土は北と南に大きな山脈を抱える。その山脈を境に、魔物と国境を接していた。


 それ故、北と南の魔王軍が互いに争う時は、大陸中央の帝国や王国等の人間領を避けなければいけない。

 つまりは必然的に、山脈で遮られていない東海岸と西海岸が主戦場になるのだ。


 ディオス大公率いる南部方面の帝国軍は、南山脈の小さな山道を封鎖して、南から南魔王軍を入ってこれないようにしていた。

 

 となれば、アキトが向かう東海岸にはますます南魔王軍が殺到するだろう。


 先程アキト達が立った宿の有る街は、帝国東部方面の防衛線の中心。

 その外側のアルシュタート大公領は、帝都の人間からすれば正に化外の地であった。


 アキトは難しいことを考えながらも、アルシュタートへ進んでいく。

 野盗が襲ってこないとも限らない。早くアルシュタートへ到着したい一心だった。


 しばらく歩いていると、アキトは何かの視線を感じた。


 そしてこう叫ぶ。


「リーン、避けろ!!」


 アキトの言葉に、リーンはすぐにその場を動いた。

 リーンのいた場所には、三本の矢が落ちる。


「何者だ?!」


 アキトはそう言って、右側、矢の方向へ刀を抜いた。


 その言葉に、六体ほどのゴブリンが出てくる。

 三体は弓持ち。三体は槍持ちのようだ。

 槍持ちの一人、弓持ちの一人、それぞれ隊長のようで、角の生えた兜被っている。


 槍持ちの隊長がアキトには分からない言語で、何かを叫ぶ。


 すると、弓持ちのゴブリン達がアキトに向けて矢を番えた。


 恐らくは南魔王軍の哨戒部隊か、とアキトは刀を構えゴブリンに向かって行く。


 矢を放つゴブリン。しかし、アキトは矢を刀で払いのけながら進んでいく。


 アキトはF級軍師であった。しかし、それは駒がなかったからこその評価だ。


 その実は、剣技も魔法も座学も最優秀。

 駒がなければ自分を磨こう、と鍛錬した結果であった。

 

 アキトはすぐに弓使いの隊長をその刀で切りつける。一撃では倒れない、ならばと弓持ちの隊長の首に刀を刺すアキト。そこまでしてようやく、弓持ちの隊長格のゴブリンは倒れた。

 

 途中弓持ちが短剣に持ち換えたり、槍持ちがアキトを襲う。


 しかしそれも、一人、二人、三人とアキトは倒していった。

 

 残るは槍持ち二人。アキトはすぐに槍持ちの隊長格を切り捨てる。


 次は最後の一体。そう思った時だった。切り捨てはずの槍持ちの隊長がアキトの脚を掴む。


 そして何かを叫ぶと、もう一体の槍持ちがアキトへ槍を向けてきた。


 だが、その槍持ちは何かに足を取られ、転んでしまう。


 槍持ちの脚を掬ったのはスライムのリーンであった。


 アキトはまず隊長に止めを刺して、その後転んだ槍持ちを刀で倒した。


「リーン…… 助かったよ」


 アキトはリーンにそう言った。リーンは飛び跳ねて喜びを表現する。

 

 何も指示を出していないのにリーンが自分を助けてくれた、とアキトは内心で喜ぶ。


「……しかし、隊長格がこんなに強いとは」


 アキトは何度か魔物と戦ったことが有る。軍師学校の実習で、北の魔王軍との小競り合いに何度か参加したし、この前はアンサルスの撤退戦でも刀を振るった。


 ゴブリンであれば、今まで刀の一撃で倒せたのだ。


 だから、今回現れた隊長格の体力にアキトは驚かされた。


 倒れた二体の隊長へ目をやるアキト。すると、隊長の体は光って消えた。


「まさか、師駒ピースか?」


 アキトは思わずそう言った。それであれば、この隊長の強さも納得がいくと。


 アキトは隊長がいた場所へ歩み寄る。そこには光る石が落ちていた。


「やっぱり…… 師駒ピースだったようだな」


 師駒ピースは死ぬと、絶対ではないが師駒石を落とす。

 その師駒石の色は、死ぬ前の(ピース)に依存するとも言われている。


 アキトは早速その師駒石を拾った。


 弓持ちの方は白い石。リーンをエルゼが召喚した時に使った白魔石だ。

 槍持ちの方は、黄色に黒の斑点が浮かんだ石だった。だが、人間の使う黄石と位置づけは同じである。


 ここから更に敵が出てくるかもしれない。味方は多い方が良いだろうと、アキトは早速召喚してみることにする。


 アキトはまず黒い斑点の黄石のほうを刀で叩こうとする。


 こうやってアキトが師駒石を使うのは、入学式のあの日以来。

 だがその日、師駒石は偽物なのか、使用済みなのか師駒ピースを召喚できなかった。 

 

 師駒ピースを召喚して、その出会いを喜ぶ軍師学校の生徒達。

 アキトはただそれを見ているしかなかった。


 だが、アキトには今リーンという師駒ピースがいる。


 それでも、師駒石は貴重品。自身が行う初召喚ともあって、アキトは身の引き締まる思いがした。


 アキトは、ゆっくりと刀で師駒石を叩いた。


 アキトの目の前に光の柱が現れる。

 しかし随分と大きい光であった。アキトの背丈の三倍は有る。


 光が収まると、アキトは思わず顔を上げた。


「ゴーレム…… でかいな」


 アキトが召喚したのはゴーレムのようだ。しかし通常のゴーレムよりも巨体だ。

 アキトはすぐに紙を取り出し、ゴーレムの情報を写しだす。


「C級のルーク。 ……すごい能力ばかりだ」


 ルーク。人間の師駒であればポーンをより重装にしたクラスだ。その防御能力は、キングに匹敵する例も珍しくない。ルークでC級となると、上位の師駒にあたる。


「周りの腕力を上げたり、石工術にも長けているようだな」


 戦闘も内政もこなせる強力なゴーレム。アキトは強い味方を得たと喜ぶ。


「俺はアキトって言うんだ。よろしくな、ゴーレム。 ……いや、ゴーレムは失礼だな。名前は少し考えさせてくれ」


 俺がそう言うと、ゴーレムは大きく腕を上げた。


 まさか怒っている? とアキトは不安になるが、ゴーレムは腕で自分の胸を叩いただけだった。

 どうやら、言葉がつかえないので身振りで応えてくれたようだ。

 

 アキトは強力な師駒を引き当てたのであった。


「よし、もう一体召喚するとしよう…… ん、待てよ」


 アキトは白魔石を叩こうとする刀を止める。


「闇雲に仲間を増やすより、ここはリーンの強化に使った方が良いか? リーン、さっきの礼だ。こっちへ来てくれ」


 アキトはリーンが今の戦いで助けてくれたことのお礼をすることにした。

 白魔石を、リーンの強化に使うのである。


 リーンはぴょんぴょんと跳ねてアキトの隣に来る。


 アキトはリーンの体に白魔石を置くと、それを刀で叩いた。


 光を放ち弾ける白魔石。どうやら強化は終わったようだ。


 だが一見してリーンの外見は変わらない。ただのスライムのまま、そこに鎮座している。


「どれどれ、早速能力を調べるか」


 アキトは紙にリーンの情報を浮かべる。


「特に既存の能力に変化はなし、と。だが、新たな能力が追加されているな。えっと…… 駄目だ、読めん。見たことのない文字のようだが」


 既存の能力の下に、新たに二つの項目が出来ていた。しかし、帝国文字でないのでアキトは読めない。

 恐らくは、魔族特有の能力なのかもしれないとアキトは推測した。


「ま、何かしら得られたってことだな。行こうか、リーン、それと……」


 アキトはゴーレムの名前に頭を悩ます。


 だが、アキトに返事をする声が。


「はい、行きましょう! アキト様!」

「おう! って、え?」


 アキトは思わず声の方向へ振り返った。


 そこには、リーンが先ほどと変わらずにプルプルと震えていた。


「り、リーン?」

「はい、リーンはここに! 何でしょうか、アキト様!!」


 リーンは新たに人の言葉を話す能力を得たのであった。


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