表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/21

一章十二話 英雄、雷鳴を轟かす

師駒ピースはこれですべてか?」


 慌ただしく戦闘準備が行われる帝国軍の陣地で、リヒトはそう言った。


 そのリヒトの前には、数十体の師駒。リヒトとアリティアの師駒。それに軍師達から送ってもらった師駒達であった。


「は、総勢で三十五名でございます。リーンハルト様」


 リヒトの前に歩み出てそう答えた大柄な金髪な男。

 リヒトの最初の師駒にして、最強の師駒、クリストフであった。


 立派な黄金の鎧と、黄金の斧。王冠のような飾りがついた兜も黄金だ。

 帝国の師駒管理局では、A級のキングという格付け。


 アンサルスではそのキングに相応しい能力で、撤退する帝国軍の追手を倒しながら後退するという、超人的な活躍をした。


「うむ。相分かった。 ……皆、ここに集まってくれたこと、君達を派遣した主人と、諸君に感謝申し上げる」


 リヒトは、師駒達にそう言い放った。


「早速だが、配置の確認を行う。ルークは歩兵隊の左翼側。ナイトは俺に追従。ポーンは歩兵右翼側と、右翼騎兵に続く軽装歩兵の二手に分かれる。すでに割り当ては、このクリストフから伝わっているな」


 師駒達は皆、うんうんと頷く。


「よろしい。では、クラスごとに頼みたいことがある。先ほど君たちの主人から、個々の能力を見せてもらった」


 そう言ってリヒトはまず、六名のルークに呼びかけた。


「ルーク達は、接敵してしばらくしたら防御系の能力を使用してもらう。左翼側の戦線を何としても維持せよ。また先も申したが、騎乗のできる一部のルークは、私に付いてきてもらおう。 ……アリティアのルーク三名、君らは一時的に広範囲の防御力向上も出来る。以前のアンサルス同様、頼んだぞ」

「「「承知」」」


 顔まで覆った黒い兜の男たちは、自身の黒い大盾を叩いて応えた。アリティアの誇るA級のルーク達だ。

 シャッテン、オンブラ、スカー。鉄壁を誇る三兄弟。


 その中の長兄シャッテンは、リヒト率いる騎兵に同行する。

 彼ら三人兄弟は一時的ではあるものも、広範囲の防御力向上、防護結界の展開も出来る。

 

 以前のアンサルスでは狭所である谷に陣取り、谷をふさぐまでの時間稼ぎをした者達だ。


 リヒトは次に、師駒達の大半を占める二十人のポーンにこう続ける。


「さて、ポーンたちよ。君たちは皆、言ってしまえば我が利き手。ルークが盾なら、槍だ。君たちはひたすら攻撃を仕掛け、一歩でも戦線を押し上げることを考えよ。能力の使用は各自の判断に委ねる」

 

 更にビショップに目を向けるリヒト。三名ほどの魔法使いだ。


「君達ビショップは、少し忙しい。右翼の攻撃を支援した後は、左翼の支援に向かってもらう。劣勢になるだろう左翼の回復を行い、少しでも長く戦線を持たすこと」


 通常の師駒の配置。皆、リヒトの言葉にただ頷いた。


 そして最後にナイトの六人に向かってこう言った。


「さて、ナイトの諸君。君らは私の護衛。そして、槍の穂先となる。能力の使用は、俺が適宜指示する。一騎も離れぬよう頼んだぞ」

「旦那、本当についていくだけで良いんですかい?」


 そう訊ねたのはリヒトの師駒、B級のナイト、ルッツだ。


 リヒトのような長身だが、その髪はリヒトよりも黄色く、髪は肩まで伸ばした巻きのかかった髪だ。

 ひょうひょうとした雰囲気に、浅黒い肌。

 

 ナイトに似つかわしくない軽装の薄い鎧は、特に塗装も彫刻も施されておらず、鉄そのものだ。

 その剣も細く、派手さが全くない。ポーンと言われても、納得がいく出で立ちだ。


 兜すらつけていないルッツは、リヒトの二番目の師駒でもあった。


 リヒトは少し笑みを浮かべてこう言った。


「貴様は俺から離れれば最後、どことも知れぬ地の果てまで駆けてしまうだろう」

「うむ。どこに行ってしまったと周りを見れば、いつの間にはるか地平線の先だからな。前など、我らが東に向かったのに、貴様は西へ向かったというではないか」


 クリストフもそう言って、リヒトと笑う。


「なんだぁ二人とも! 俺を馬鹿にして! 俺は方向音痴じゃねえ!」

 

 ルッツは恥ずかしいのか、声を荒げてそう言った。

 周りの師駒も、おかしくなったのか、笑いが巻き起こる。


 ルッツは軍師学校の師駒達の間でも、方向音痴として有名だったのだ。


「それだけ貴様は正直で真っすぐだ、と褒めているのだ。こたびもその脚、俺のため走らせよ」

「そりゃもう。ここにいる皆、置き去りにしてやりますよ!」


 ルッツは自信ありげな顔で、リヒトにそう答えた。


「その意気やよし! さあ、諸君。これにてお別れだ! 次に全員が会うときは、我が帝国が勝利するとき。必ずや我らの手で勝利を掴もうぞ!!」

「「「おお!」」」

  

 リヒトの呼びかけに、師駒達が一斉に応えた。


 師駒達は各々の配置に向かって行く。


 この一部終始を見ていたのは、プライス将軍と、今会戦で騎兵を率いてきた帝国騎士フェルモであった。


 壮年の帝国騎士、フェルモはプライス将軍にこう言った。

 

「ふむ…… プライス将軍、本当によろしかったので?」

「ああ、もう決めたことだ。全ての責任は私にある」


 昨日リヒトがプライス将軍の前で披露した布陣、戦術。

 それをプライス将軍は、全面に渡って採用した。


 リヒトが昨日幕舎を出て、プライス将軍は軍団長、軍師達と協議する。

 伝統的な騎兵を両翼に配し、包囲を狙う戦術も根強かったが、リヒトの案はそれなりの評価が得られた。


 しかし、リヒトに右翼の騎兵主力を任せることに賛成する者はいなかった。

 ただ一人、プライス将軍を除いては。


 協議は深夜にわたって繰り広げられた。歴戦のプライス将軍ですら、そこまで長く一度に作戦を協議したことはなかった。


 議論は拮抗し、終わりが見えなくなる。最終的な判断を下したのは、プライス将軍であった。


「……我ら帝国騎士は、ただ将軍の命に従いましょう。だが、彼が将の器でなかった時、私がすぐに指揮を替わる」

「うむ、それはもちろんだ。だが、それはないだろう。任せたよ、フェルモ」


 フェルモにそう言った将軍。フェルモは根拠のないことを、と内心毒づいたが自分の馬へと向かって行った。


「さあ帝国騎士達よ! 若きロードス選帝侯をお守りいたすぞ!!」


 フェルモは、帝国騎士たちにそう命じた。


 帝国騎士九千。騎乗する騎士も、その馬も重厚な鎧を身に纏った超重装の騎兵集団。

 それが帝国軍の右翼、騎兵主力であった。彼らは馬を進ませ、本陣を後にする。


 その騎士たちの先頭を行くのは、リヒトと師駒であるナイト。リヒトの隣にはフェルモが馬を並べて走らせる。


 その右翼騎兵達が先頭になる様に、帝国軍は斜めに陣形を進ませるのであった。


~~~~


 南魔王軍と帝国軍の戦いは、両軍の飛び道具、魔法によってその火ぶたが切って落とされた。


 南魔王軍の布陣は、歩兵を中心に左翼に騎兵主力、右翼に少数の騎兵という布陣であった。

 

 つまりは帝国軍右翼の騎兵主力、と南魔王軍の騎兵主力が激突することになったのである。


 帝国軍右翼の騎士九千に対し、南魔王軍左翼のケンタウロスを中心とした機動軍七千。

 だが帝国軍の騎士の後方には、一千の軽装歩兵が騎士たちに追いつけとその脚で駆けていた。


 そして帝国軍左翼の騎士一千に対し、南魔王軍右翼の機動軍三千。

 これは戦闘が長引けば、帝国軍は左翼から崩壊することを意味していた。


 両軍の飛び道具での攻撃が止む。それは歩兵同士が衝突する合図でもあった。


 まずは帝国軍右翼側の歩兵と、南魔王軍左翼側の歩兵が衝突する。

 次第にそれは帝国軍の左側、西側でも見られるようになった。


 歩兵が衝突を始めたそのころ、リヒト率いる右翼騎兵は、南魔王軍左翼を前にして、東へ大きく転回した。


 南魔王軍の左翼は、迂回するのか、自分たち左翼の機動軍を包囲するのか、と帝国軍右翼の騎兵を追わねばならならなかった。


 帝国軍の騎兵主力、南魔王軍の機動軍。彼らは互いに、併走するように東へ駆けていく。


「ロードス選帝侯!! まだですか!!」


 フェルモは馬上から、リヒトへそう訊ねた。


「まだだ! 今少し耐えよ!!」


 リヒトも大きな声でそう叫ぶ。


 反対の帝国軍左翼が、敵の右翼と衝突する少し前。そして敵の右翼と中央が大きく開いた時。

 その絶妙な時機を、リヒトは窺う。


 針の穴を通すかのようなその短い時間の見極めを、リヒトは自分でしかできないと思っていた。


 そしてリヒトは、十分に敵左翼を惹きつけたのを確認すると、こう発した。


「西へ回頭だ!!」


 リヒトのその命に、騎士たちは綺麗に二つ分かれる。一方はそのまま敵左翼の機動軍へ突撃。

 もう一方はリヒトとともに、敵中央後方へと向かう。


 だが案の定、敵左翼も騎兵を分け、リヒト率いる分遣隊三千に向かってくる。

 リヒトは予定通り、後ろへ続く軽装歩兵一千へ、その機動軍を擦り付けた。


 敵左翼は完全に足を取られてしまった。それを尻目に、リヒトたちは敵中央の後方を目指す。


「お見事!!」


 綺麗に決まった。これで自分達右翼の分遣隊を邪魔する者はいない。フェルモはリヒトへそう賛辞の言葉を送った。


 だが、リヒトは少しもホッとした様子を見せない。騎士たちに向け、さらに発破をかける。


「まだ終わっていない! もっと! もっと早くだ!! 我が左翼が持ちこたえられるまで、死ぬ気で駆けよ!!」

「「おう!!」」


 リヒトの言葉に皆、そう掛け声を返した。


 丁度この時、帝国軍左翼と、南魔王軍は激突していた。


 アリティアの師駒、アンブラ、スカーを中心に、ルーク達は防護魔法を繰り出し戦線を維持しようとしていた。

 それでも帝国側が圧倒的劣勢。左翼の戦線が崩壊すれば、堰を切ったように右翼側の戦線も崩れる。


~~~~


 丁度この時、アリティアは戦況を本陣近くから眺め、ただ皆の無事を祈っていた。


「リヒト、お願い……」


 皇女という立場のアリティアは通常、前線へ立つことが許されない。

 アンサルスでの一件で、アリティアには今回、皇帝が派遣した見張りが付いている。

 彼らはアリティアの行動を逐一監視し、決して前線には出さないよう、皇帝から命を受けていた。


 アンサルスでの撤退戦は成功したから、まだ皇帝から怒鳴られるだけで済んだ。

 しかし本来であれば、軍師学校など退学させられてもおかしくなかった。


 幕舎でも戦場でも、何も出来ない自分。アリティアはそんな自分を情けなく思うのであった。


~~~~


 もう一人、戦況を眺める者の影が。


 軍師学校の学長、エレンフリートであった。


 彼は戦況を見るも、内心は帝国を応援できなかった。

 

 あのリヒトの立案で負けてしまえば…… 

 リヒトやプライス将軍に、それ見たことかと、と言いたい。

 そうすれば自分のアンサルスでの敗戦も、少しは恥ずかしくなくなるだろうとも思っていた。


 いつしかエレンフリートは、帝国の勝敗よりも自分のメンツを気にし始めていたのだ。


~~~~


 リーンハルト率いる三千の騎士は、今まさに敵歩兵左翼側の横から、その後方へと回り込もうとしていた。


 勝った…… 帝国騎士であるフェルモはそう思った。

 十年前と変わらない。敵の背中を取ったと。


 だが後方へ回り込んで、目の前に飛び込んできたのは、こちらへ向かってくる敵の一団だった。


「敵?!」


 フェルモは思わずそう叫んだ。

 全ての歩兵が、すでに帝国軍歩兵と接敵したと思っていたフェルモ。


 だがフェルモ達の前には、長い槍を手にしたオークの部隊が。


「ロードス選帝侯!! 前に!!」


 フェルモはオーク達を指さして、そう叫んだ。


 フェルモに言われずとも、リヒトもオーク達を見ていた。


--長い槍を使える手練れ。そして重装の鎧兜。

 恐らくは古参兵や上流階級の兵士。

 今回はやつら南魔王軍が戦力で勝るから、騎兵対策に予備を置けたのだろう。

 

 彼らは大将を守る最後の砦。リヒトはそう推察した。


「うろたえるな!! フェルモ、君は騎兵二千を率いて転進し、敵左翼の騎兵後方を突け! 我が右翼と挟撃後、すぐに敵歩兵の側面を叩くのだ!!」

「しかし、ロードス選帝侯はいかがされるのです?!」

「俺は戦を制す!! さあ、早く行け!! 一刻を争うぞ!!」

「……かしこまりました!!」


 フェルモはリヒトへそう答えた。予想外のオーク達の出現に、リヒトの命令を聞くしかなかったのだ。

 そして手を上げて、二千の騎兵へ転進指示を出した。


 リヒト率いる一千はそのまま重装のオーク達へ、フェルモ率いる二千は戻るような形で敵左翼後方へ。


 リヒトはオークへ向かう最中、ルッツへこう指令を出した。


「ルッツ!! 今だ! 我々を加速させよ!!」

「へい!!! ……行きまっせ!!」 


 そう言うとルッツは、自身が持っていた細剣を掲げ、光を発した。

 光はやがて騎士一千を包み込んだ。


 すると騎士達の馬足が速くなる。どんどんと騎士たちは加速すると、最終的には倍の速さまでに到達した。


 ルッツはこう叫んだ。


「旦那ぁ!! この数走らせるのは、もって二、三分だ!!」

「十分すぎるほどだ!」


 リヒトはそう返す。


 オーク達は、接敵寸前で何やらその周りに緑色の光を纏い始める。

 それはオーク達の師駒の能力による、部隊の防御力向上だった。


 アエシュマもいくつかの部隊に師駒を配し、その能力を戦闘で活用しようとしていたのだ。


 リヒトはそれを見て、こう全体へ命令した。


「諸君!! 私に続け!!」

「「「おう!!」」」


 リヒトを先頭に騎士たちは、オークとの接敵寸前で、その右側を迂回するように進路を変えた


 そのあまりの速さに、オークの重装兵達はリヒト達を捉えることができす、迂回を許してしまう。

 何とかしなければと、リヒト達を追うが、重装であるがゆえに追いつかない。


 アエシュマが最も信頼のおく親衛隊を、後方へ配置するという布陣。

 それが今回では仇となった。


 だが、アエシュマにはもう一つの防衛線があった。


「リーンハルト様、敵本陣の前に投射兵が集まっております!!!」


 リヒトの師駒、キングのクリストフが、もう少しでアエシュマへ突撃できるというとこでそう叫んだ。


 近接歩兵が衝突して遊兵になった弓兵や投石兵。アエシュマは、親衛隊を騎兵へ向けたので、その投射兵を自身の周りへ配置していた。


 弓兵や投石兵が射撃の準備をし、リヒト達、帝国騎士一千に攻撃を喰らわせようとした。


 リヒトはこう命令する。


「シャッテン!! 頼む!!」

「承知!!」


 アリティアの師駒、ルークのシャッテンはそう言って自身の大きな盾を振り回した。

 すると、リヒト達騎士を囲む結界が現れる。


「二十秒…… いや三十秒、持たせまする!!」

「心得た!! 皆、槍を前に!!」


 シャッテンにリヒトはそう答えると、騎士へ突撃の準備をさせる。


 矢や石、魔法が騎士達を襲うが、シャッテンの展開した結界で弾かれた。


「クリストフ!! 衝撃強化だ!!」

「承ったぁ!!」


 キングであるクリストフは、リヒトにそう答え、騎士たちの槍の穂先へ光を放った。


「突撃!!!」


 リヒトはそう言った。


 ルッツの速度上昇により、南魔王軍は二射目を放つ前に、リヒト達の接近を許してしまう。


 その速度も相まって、馬のひづめの音も速く迫ってくる。


 地鳴りのような音、地面から伝わる衝撃。アエシュマの周りの投射兵は蜘蛛の子を散らすように、リヒト達から逃げていく。


 全てはこの一回の突撃のための布陣だった。

 完璧で狂いのない突撃。


 自分と師駒達の力がなければ、それは成し遂げられなかった。


 そう自分がいなければ。リヒトはアキトの言葉を思い出す。


--アキト…… 君はよく、多数の意見から良い意見が生まれると言ったな。確かにそうだ。

 だがそれを選ぶ者が優秀でなくては、その良い意見も日の目を見ない。

 そして無能な人間が選ぶ側であるこの帝国の現状。君はそれでも元老院の肩を持つ。

 ……アキト、俺は。


 リヒトの槍の穂先が光を保ちながら、アエシュマの胸を貫いた。そして、アエシュマの部隊も騎士達にその陣形を食いちぎられる。


 その衝突は、空を割く雷のようにアエシュマ本隊を引き裂いた。

 

 そして雷鳴のような音を戦場へ響かせる。


 南魔王軍の誰もが、その衝突の方へ耳、目、何らかの意識を向けた。


 横たわる総大将の黒い旗。誰もが、アエシュマが死んだと理解した。


「敵総大将アエシュマ!! このロードス選帝侯が打ち破ったぞ!!」

「「おおおぉー!!!」」


 リヒトの名乗りに、騎士達が勝鬨を上げた。


 南魔王軍はそれを耳にし、慌てふためきだした。


「さあ、諸君!! 我らはこのまま敵の右翼を我が左翼と挟撃する!! 続け!!」


 リヒトは騎士達を率いて、敵の右翼後方を突きに向かった。


~~~~


 メルティッヒの戦いは、帝国軍の勝利に終わった。


 劣勢である帝国軍は、右翼の騎兵を巧みに運用し、敵総大将、敵左翼を殲滅する。

 総大将を失い、歩兵左翼側を突かれた南魔王軍はすぐに潰走し始めた。


 脆弱であった帝国軍の左翼は、リヒト率いる帝国騎士一千との挟撃まで何とか耐えることができた。


 全ては策を講じた若きロードス選帝侯、リーンハルトの目論見通りに戦は終わる。


 この戦いはロードス選帝侯の名を、否応なしに帝国全土へ轟かせることになった。


~~~~


 騎士達を率い、帝国本陣へと帰還するリヒト。

 先に本陣に帰っていた兵や師駒、従軍者、軍師、そして将軍たちがリヒト達へ喝采を浴びせる。


 リヒトは馬を止めて降りると、プライス将軍の前に歩み出た。


 そして跪き、こう言った。


「プライス将軍、只今帰還しました」

「うむ。リヒト君、いや、ロードス選帝侯。よくやった。君は帝国の危機を救ったのだ!! 皆、ロードス選帝侯へ拍手を!!」

 

 元々あった拍手がさらに強いものになった。


 リヒトへ付いてきた騎士達や師駒も、次々と賛辞の言葉が送られる。


 その中で、リヒトへ駆け寄る者が。

 皇女アリティアであった。


「リヒト!!」

「アリティア。君のルーク達は良く戦ってくれたぞ!!」

「うん、良かった…… 私のルークも、あなたも無事で……」

「俺は死なん。いつもそう言ってるはずだ」

「うん……うん……」

「泣くな、アリティア。アキトに笑われてしまうぞ!」


 微笑ましい光景に、周りも拍手する。

 

 このあとも、騎士や兵士、皆が互いに健闘を称えていた。


 誰もが勝利を祝い、その完璧な勝利に酔いしれた。


 だがこの祝福のムードの中、不快感をあらわにする者が。

 セケムとエレンフリートであった。

 

 セケムは、貧乏ゆすりをして露骨に不機嫌そうにしている。

 気に入らない男、とセケムは思った。

 しかし、セケムにとってリヒトはいつでも気にいらない存在だったので、珍しい事ではなかった。


 しかし一方のエレンフリートは、眉間にわずかに皺を寄せて、リヒトを見るだけ。


 新たな英雄と、変われない自分。


 エレンフリートは、自身の地位が脅かされるという不安に苛まれるのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
右の新米領主のお話も、何卒よろしくお願いします!クリックで飛べます→ 「転生貴族のスライム無双
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ