第49話 少年は住むところを見つけたい
「……ははは」
卒業試験を終え、はれて騎士になれた僕
そんな僕は今……
「見つからない……どうしよ」
広場で途方にくれていました
「あー……」
単身用の部屋とかはどこも埋まっていた
新しい建物を建ててるそうだが……それも完成はまだ先
「どうしようもないな……最終手段に出るかな……」
最終手段、それは宿屋に滞在して空きを待つ
でもこれは……金が……
「貯金は出来ないだろうなぁ……」
目標金額に届かない……それは困る……
「どうしよう……」
とりあえず休憩したらまた不動産を巡ろう……まだ訪ねてない所もあるし……
『無かったら僕と住む?僕は全然構わないよ?』
シャルルがそう言ってくれたけど……
『嬉しいけど遠慮しとくよ……』
って断った
だって今のシャルルは完全に女性だもん!
意識しちゃうよ!いやネル一筋だけど!!それでもさ……ねぇ?
それに僕はもう13歳、子供扱いはされないからね!
シャルルも16歳だし……うん!同棲は問題だね!
「よし!行こう!」
僕はベンチから立ち上がった
「お?マーティ!」
「ふぇ?」
そこに声を掛けられた
振り返ると立派な礼服を着た男性が立っていた
顔には真っ黒な眼鏡みたいなのを付けている
「えっと?」
誰?
「なんだ?わからないか?あ、サングラスつけてたからな」
そう言って男性はサングラス?ってのを外した
「あ、サース兄さん!?」
「久し振りだな」
男性はサース兄さんだった……その格好どうしたの?
・・・・・・・
「なるほどな……住むところが見つからないと」
「うん」
僕とサース兄さんで歩きながら話す
「だったら俺に任せろ、ユニコーンで扱っている物件がある筈だ、何軒か見てみろよ」
「うん、ありがとう!!」
そうして商人ギルド『ユニコーン』の建物に入った
「あ、ロキソンさん、お戻りですか?」
「えぇ」
女の人がサース兄さんに声をかける
「おや?そちらの方は?」
「俺の弟、今は王都に住んでいるんだ、昨日騎士になったんだ」
「初めまして、マーティ・ロキソンと言います」
「初めまして……随分とお若いですね?」
「13歳だからな……この子の住むところを見つけたいから資料をまわしてもらっていいかな?」
「わかりました……えっと確か」
女の人が奥に引っ込む
「マーティ、こっちに来い」
「うん!」
兄さんに案内される
「さてと……」
「こちらです」
女の人が紙の束を持ってきた
「多いな……」
「とりあえず物件の資料を全て持ってきました……」
「ここから選ぶぞ」
そう言ってサース兄さんは資料を受け取って何枚か取り出す
「そういえばマーティはこれからもファルクムに暮らすつもりか?」
「えっ?」
「フルーヤ村に帰るつもりは無いのかって事だ」
「え……うーん」
フルーヤ村に帰る……里帰りはたまにするつもりだけど
……そもそも騎士になる目的は僕を鍛えるのと仲間を集める為だったし……
山賊を撃退できたら騎士を続ける意味は無いのか……
…………それなら騎士をやめてフルーヤ村に帰るのもありなのかもしれない……
……でも
皆と過ごした日々は楽しかった……
出来ればこのまま騎士を続けたい……
うん、だから……
「そうだね、里帰りはするけどファルクムに永住するかな?」
「そうか、なら単身者用より家を買った方が良いと思うぞ?」
「家?マイホーム?」
「ああ、いつか結婚して家庭を持った時とかな」
そう言ってサース兄さんは書類を並べる
「マーティ、騎士の特典は聞いてるよな?」
「えっと、クエストを受けなくても一定の給金が貰えるんだよね?」
まあ等級で変わるけど
「……なんだ?それしか聞いてなかったのか?」
「えっ?」
「えっと……あったあった」
サース兄さんが1枚の書類を僕に渡す
「……ローン?」
「そうだ、騎士は特典として特殊なローンが組めるんだよ」
「えっと……支払いはクエスト払い」
「そう、クエストの報酬の1割から3割を選んで支払えるんだ」
支払いはクエストカウンターでやってくれるんだ
「それにここを読んでみろ」
「えっと……1度支払いをしたら1年の猶予が発生します?」
どういうこと?
「例えば不死鳥の月に支払いをしたとする……そうしたら翌年の不死鳥の月までは払わなくても請求をしないって事だ……ほら長期任務とかあるだろ?」
「あー成る程……半年ぐらいは王都から離れたりする事もあるらしいからね」
それじゃあ払えないよね……だから猶予か
「でもこんな事してたらユニコーンは損するんじゃないの?」
利子とか無いみたいだけど
「大丈夫大丈夫、例えば支払いを拒否するだろ?そうしたら国の方に報告がいって、差し押さえる」
「わぉ……」
「ちゃんと払えばそんな事はしないから安心しろよ、マーティは支払いを拒否とかしないだろ?」
「まあ普通は払うよね」
「それに、もし相手が死んだ場合は国から金が払われるんだ」
「どういうこと?」
サース兄さんは僕の目を見ながら言う
「例えば騎士の男が結婚したとする」
「うん」
「そうしたら子供を作るだろ?」
「うんうん」
「んで、騎士の男が病気やクエストで死ぬか動けない状態になったとする」
「うん」
「そうしたらローンを払えないよな?」
「そうだね」
働けないもんね
「だから国がローンを肩代わりするわけだ」
「それって国の財政が大丈夫なの?」
「そこは知らんよ……しかし、騎士にはそれだけ特別扱いする価値があるって事だ」
「そんなに特別な職業だったの?」
「……お前、それ知らないで騎士になったのか?」
サース兄さんが苦笑いしながら僕の頭を撫でる
「う、うん……訓練生になってから自分の世間知らずを思い知らされたよ……」
「そうか……まあ、そんなわけで騎士は安心してローンを組めるわけだ」
「そうなんだ……」
「現に家を持つ騎士はこのローンを使って買ってるし……よっぽど高い所でも買わない限りは中級騎士になる頃には完済してるぞ?」
「うーん……だったら僕もやった方が良いのかな?」
「騎士を続けるならな?辞めるつもりだったらオススメはしない」
「続けるつもりだから勧めるんだね?」
「当たり前だろ?じゃないとローンなんて言わないって」
ローンってつまりは借金だもんね
「僕は騎士を続けるつもりだから……うん、組もうかな?」
「なら買える家も大分増えるぞ」
そう言ってサース兄さんは物件の資料を大量に取り出す
「1日で決まるとは思えないが……まあ俺が滞在してる間に見つけようか」
「何日滞在してるの?」
「んっ?1週間だ、1週間後には他の都に移動だ」
「へぇ~ループルに帰るの?」
「いや、ループルには半年は帰らないな」
「えっ?そうなの?」
「ああ、支部長に昇進が決まったからな、どこの支部に勤めるか決めるために移動してるからな」
「…………えっ!?」
支部長!?えっ?ちょ!?
「サース兄さん!?そういう話は速く言ってよ!?お祝いしなきゃ!!」
「あ、祝ってくれるのか?」
「当たり前だよ!」
「じゃあマーティの家を決めてから一緒に祝おうぜ!」
・・・・・・・
こうして僕の家探しが始まった
「一軒目はこれだ!」
そう言って連れていかれた家は大きな家だった
「大きいね、あっ!庭もある!」
「ああ、3階建てだし、地下室もある!かなり立派な家だ」
「凄いね!お値段は?」
「これぐらいだ!」
…………いやいやいや高い高い!?
「無理だね!」
「だよな!よし次!」
・・・・・・
「二件目はここだ!」
「わぁ、ボロい!」
「だろ?建て替える必要があるんだ……それで金がかかる」
「……おいくら?」
「これぐらいだ」
「うん、無理!」
・・・・・・
「三軒目はここだ!」
「あ、いい家だね」
「値段もこれくらいだ!」
「えっ?安くない?」
見せられた値段はかなり破格だった
「安いだろ?理由はな……」
ベチャ!
僕達の目の前に何か落ちる
「んっ?なにこれ?」
僕は近付こうとしたら
「近付くなマーティ!」
「うわっと!」
サース兄さんに引っ張られる
グチュ
何かが動く……あ、これって……
「生首ぃぃぃぃ!?」
「よし、逃げるぞマーティ!この家は事故物件なんだ!」
「そんなの紹介しないでよ!?」
・・・・・・
こうして数日かけて色々な家を紹介された
けど……高いか問題があるかの物件ばかりだった
「この時期だとこんなのしか無くてな……」
「そ、そうなんだ……取り敢えず……事故物件多くない!?」
首吊りとか!一家惨殺とか!
「次で最後だ」
「……そこも問題あるんでしょ?」
「まあな……取り敢えず見ていくか?」
「うん……」
最後だしね……
僕は最後の物件に案内される
「ここだ」
「……?普通だね?」
2階建ての家だ、少しの広さだけど庭もある
見た目は問題が有るようには見えない
「中見るか?」
「うん」
サース兄さんが家の鍵を開けて扉を開く
「ほい、どうぞ」
「……うわぁ!」
中に入ると立派な内装だった……少し古いけど、家としてはかなり立派だと思えた
「部屋も多そうだね?」
「1階に3つ、2階に4つだ」
「トイレもお風呂もしっかりしてるね」
僕は1階を見る
キッチンとリビングが1つの部屋にある
物置もあるし
もう1つは……
んっ?なんだこれ?扉なの?見たことない形だ
「その部屋は後だ」
サース兄さんが言う
「その部屋が問題なんだよ」
「そ、そうなんだ」
取り敢えず2階を先に見る
寝室に……書斎に……あ、ここにもトイレがある
そして部屋にベランダがある……洗濯とかはここに干せそうだね
「問題の部屋以外は普通に良いところだね」
「そうだろ?」
てことは問題の部屋はよっぽどな問題があるんだね
僕とサース兄さんは1階に戻る
そして問題の部屋の前に行く
「ここはな『引き戸』って呼ばれる扉なんだ、こうやって開ける」
ガラララ!
サース兄さんが引き戸を両側に引っ張って開けた
成る程、引っ張るから引き戸か……
「……んっ?床がなんか違うね?」
部屋の中を見ると段差があって、その段差の先には変わった形状の床があった
なんだろ……触るとワシワシって感触だ……
「えっと……この部屋は『ワシーツ』と呼ばれていて、床のは『タターミ』って呼ぶらしいな」
サース兄さんが書類を見ながら言う
「ワシーツにタターミね……」
「あ、靴は脱ぐらしい」
僕は段差の前で靴を脱いで部屋に入る
「へぇ……狭いけど……なんだろう……」
なんか……落ち着く
「落ち着く?他の奴は気味が悪いと言っていたぞ?だから売れなくてな」
そうなんだ……
僕はなんか落ち着くけどなぁ
「あ、窓だ、小さい……」
小窓を開けると空が見える……夜だと月とか見えそうだな
「この家の最初の持ち主が作ったらしくてな……ふむ、マーティが落ち着くって言うんだったら問題ないのか?」
「どうして問題なのかわからないよ……凄く良いと思う」
「そうか……」
「この家っていくらなの?」
「これくらいだ……」
……うわ、安い!?
この内装でこの値段は安いよ!?
「ここにするか?」
「うん!」
僕は迷うことなく答えた
・・・・・・・
更に数日後
僕は荷物を新居に運んだ
サース兄さんが心配してくれたけど、僕は大丈夫と答えて送り出した
「ふぅ、これで最後!」
最後の荷物を降ろす
「ふぅ……僕の家か……」
ちょっと予定外だったけど……住む家も決まった
「……ネル、気に入ってくれるかな?」
ワシーツが問題かもしれないけど……まあ近付かなければいいよね?
「よし!取り敢えずクエスト受けに行こう!!」
家としては安いけど、手痛い出費なのだ!
それを取り戻して更に貯金もしないといけない
「頑張るぞ!!」
僕は家を出る、戸締まりをちゃんとして、本拠地に向かって走る
2年後の不死鳥の月に山賊がフルーヤ村を襲撃する……それまでに仲間と一緒に村に戻らないとね!!




