間章 スルトの悪知恵
時間を少し戻そう
マーティが教官達を説得する為に建物に入った後の事だ
ーーースルト視点ーーー
マーティが拠点に駆け込んでいった
「……あの馬鹿が」
ガルネクが肩を落とす
「お前らはどうしたいんだ?」
「えっ?」
俺が聞くとエルフィが俺を見る
「お前らはレイスを助けたいのか?」
俺はエルフィ、ガルネク、ラルスを見る
「私は助けたいです、レイス君は頑張っていましたから!!」
エルフィが答える
「ほっとけねえだろ!」
ガルネクが叫ぶ
「彼女は報われるべきだ」
とおっさん
「よし、なら俺に考えがある!時間が無いからさっさと動くぞ!!」
正直マーティ1人が行っても一緒に処罰されるだけだ
だから人数を増やす!
1人で駄目なら2人
2人で駄目なら3人ってな!
「エルフィとおっさんはそこの連中に事情を話してくれ、味方を増やす」
『わかりました!/わかった!』
「俺は?」
「ガルネクはこのゴミを片付けるのを手伝え」
「いいぜ!」
俺とガルネクは気絶しているシールを見る
コイツはこのままにしてたら邪魔になるからな!
大きな袋を持ってきて縄で縛ったシールを詰め込む
「人気の無いところに隠しとくぞ!」
「隠すのか?」
「後で本格的に片付ける」
コイツは痛い目にあわせてやらないとな
・・・・・・・
人数は予想以上に集まった
まさか訓練生全員と騎士になった先輩達まで来るとは……レイスの人望だな
俺達は彼等を連れて突撃した
結果は上々
上手くいった
建物から出たときにレイスに土下座されたが、俺達はそんなものを見たいわけじゃないし
皆が励ますことで何とかなった
さてと……
「エルフィ」
「スルト君!ありがとうございます!君のお蔭で何とかなりました!」
「皆が動いたからだ……それより頼みがあるんだが」
「頼みですか?なんでしょう?」
「明日の朝早くに、エルフィの姉であるラルフィーユ・マールスに会わせてほしい」
「姉さんにですか?何故です?」
「俺達の今後の為だ、頼む」
「わ、わかりました!連絡しておきますね!」
「助かる!」
さて、後はゴミの処理だな
・・・・・・・
俺とガルネクとルークは馬に乗ってファルクムから少し離れた森に向かう
「ねぇスルト、その袋の中身はなんなの?」
「知らない方がいいぞ?」
「あぁ、お前は俺達の護衛だからな」
「んん?」
俺とガルネクは馬を走らせながら言う
森の奥の広い場所に着く
この辺りでいいだろう
「よっと!」
「そら!」
俺とガルネクは袋から縛っていたシールを出す
「…………」
シールはまだ気絶していた、好都合だ
「えっ?人?なんで?」
ルークが混乱している
「気にするな」
俺はシールの縄を切ってシールの身体を縄から解放する
そして近くの木にもたれさせる
足下には剣と食料と地図を置く
「さて、戻るか」
「殺らないのか?」
「殺らねえよ、そこまでするつもりはない」
「???」
ルークが訳がわからないって顔をしている
「帰ろうぜ」
俺は馬に跨がる
・・・・・・・・
「スルトは何がしたかったの?」
走りながらルークが聞く
「あの野郎にキツイお仕置きだ」
「お仕置き?」
「馬なら数時間のあの森から歩いて帰るには2日は必要だ、それに念のために武器と食料と地図もあるから死にはしないだろ……アイツが雑魚じゃない限りはな!モンスターもいない森だし!」
俺は前を見ながら言う
「それで?これでアイツが懲りると思うのか?」
ガルネクが言う
「まさか、更に俺達を恨むだろうな、これは時間稼ぎだ」
『???』
後ろで2人が首をかしげているのを気配でなんとなく感じながら俺達は戻った
・・・・・・・・
翌日
城の近くにある大きな建物
「エルフィーユ・マールスです」
エルフィが門で見張りをしている兵士に名乗る
「君がラルフィーユ様の妹さんだね?話は聞いてるよ、どうぞ」
兵士は門を開く
「失礼します」
「お邪魔しま~す!」
「待て、君は?」
呼び止められた
「スルト・オックスと申します、今回のラルフィーユ様への謁見を望んだのは自分でしてね」
俺は丁寧に答える
これでも貴族なんでね、ある程度の礼儀はわきまえてるさ
「確かかい?」
「はい」
「ならいいかな……」
俺も通してもらった
門をくぐり、建物に入る
零騎士のみが住む事を許されている建物
初めて入ったが……豪華だな……シャンデリアとかやべえぞおい
「姉さんの部屋はこっちでしたね……」
エルフィが進む
俺もついていく
そして大きな扉の前についた
「よし」
トントン
っとエルフィがノックをする
「エルフィーユ・マールスです!」
『開いてるわよ、どうぞ』
エルフィが扉を開き中に入る
俺も続いて中に入る
「んっ?そいつは?」
部屋の中には女性がいた、見た目は10代後半くらいか?
エルフィを少し大人にした感じか
そんな女性が書類にペンを走らせていた
「初めましてラルフィーユ様、スルト・オックスと申します」
「エルフィ、こいつはなに?」
俺の挨拶をスルーか、まあ予想の範囲内だ気にしない
「彼は私の友人です」
「友人ねぇ……で?なんでいるの?」
ラルフィーユ様が俺を見る……普通の表情に見えるが威圧感が……
「率直に言います、貴女の力をお借りしたく訪ねました」
「断る」
即答か……
「姉さん!それは酷いですよ!」
「……少しだけよ」
よし、エルフィも一緒で良かった
ラルフィーユ様が
「では……ラルフィーユ様は先日の訓練生の出来事をご存知でしょうか?」
「先日の?…………あぁ、マルクーの奴が何か言ってたわね……それはもう解決したはずだけど?」
「えぇ、レイス……シャルルの処罰は軽いもので済みました」
「なら、私の力を借りることなんてないんじゃない?」
「いえいえ、必要があるんですよ、事の発端であるシール・ハーレンの事で」
「ハーレン……」
ピタッとラルフィーユ様の手が止まる
「ハーレンって、あのハーレン家?」
「そのハーレン家です」
ハーレン家……様々な手段を使い、色んな情報を手に入れている貴族
その情報を利用して成り上がっていき、現在は上級貴族にまでなった
国王もハーレン家の情報を重宝してるって話だ
「なに?まさか私にハーレン家を潰せって言うの?時間がかなりかかるけど?」
「いえ、そんなつもりはありません、ハーレン家の情報はかなり有用ですからね」
でも彼女は潰す事が出来る……それだけの権力が零騎士にはあるのだ
「じゃあ何をしてほしいわけ?」
「シール・ハーレンをハーレン家から勘当させてください」
「何故かしら?」
俺はラルフィーユ様を見ながら言う
「シール・ハーレンはハーレン家の権力を使って好き勝手してきました、今回も家の力を使って騒ぎを起こしました……恐らくこれからも何かしらの騒ぎを起こすでしょう」
「ふーん……」
「ですので……」
「断る……そもそも私が動く理由がないわ」
そうだよな、シャルルの事も俺らの事もこの人には関係ないよな
さて、これから俺は最低な事をする
でも……これしか浮かばなかったんだよな
利用できるものは利用するさ!
「いいえ、理由ならあります」
「何?」
「ラルフィーユ様……シール・ハーレンはエルフィを殺そうとしました」
「スルト君!?」
「!?」
ガタッとラルフィーユ様が椅子から立ち上がる
怒りの表情だ
「詳しく話しなさい」
「あれは約3年前です、我々の入団試験の時です、ラルフィーユ様は試験の事をご存知ですよね?」
「魔法試験と戦闘試験、最後に体力試験をやるわね」
ラルフィーユ様が椅子に座る
「その体力試験の時です……全員が崖を半分以上登っていました、最後尾にエルフィ、次にシールの順番でした」
俺は自分の記憶と聞いた話を頭の中で結ぶ
「試験でエルフィには負けたくないと思ったのかシール・ハーレンはエルフィの手を何度も踏みつけたのです」
「エルフィの手を?手を!?」
「きゃ!?」
エルフィがラルフィーユ様の側に一瞬で移動した
何をしたかわからないが……まあ彼女ならそれくらい出来るだろう
「エルフィのこの可愛らしい手を……」
「ね、姉さん!!」
「そして、エルフィの手が崖から離れ、落下しそうになりました」
「!?」
「まぁ、幸いマーティ・ロキソンという人物が崖を飛び降りてエルフィを助けたんですけどね」
「マーティ・ロキソンが……へぇ……」
「その後試験を落ちてからは俺達の前には現れませんでしたが、先日現れて、そして騒ぎを起こしました」
「ふぅん……」
「シール・ハーレンは執念深い男です、さらに口ぶりからするに奴は『人間至上主義』です、この意味がわかりますね?」
「つまりシール・ハーレンはこのままだと逆恨みでエルフィを殺す可能性があるのね」
色々と段階を飛ばした考えだが……まあいい
「そうです!ですが奴にハーレン家の権力が使えなければ?逆にハーレン家を利用すれば、シールが何かをやる前に対処できます」
「なるほどね……ふぅん……」
ラルフィーユ様は少し考える素振りをして
「あんた悪どいわね」
ニヤリと笑いながら言った
「汚れ役は必要でしょう?」
「ふん、いいわ、ハーレン家には私から命令しておく……逆らったら潰すって脅せばすぐよ」
「ご助力感謝します」
「用件が済んだなら帰ってもらえる?これから姉妹の時間なんだから」
「えっ?ちょっと!?姉さん!?」
「わかりました、失礼しました!」
「スルト君!?」
俺はエルフィを置いて部屋を出た
さて、これで一応安心かな
取り敢えず自衛はしておこう
・・・・・・・・・・
更に翌日
「ちくしょう……嘗めやがって!!」
シール・ハーレンはフラフラになりながらファルクムに帰って来た
「アイツら、全員殺してやる!!野郎は八つ裂きだ!女は賊にでも売っぱらってやる!!」
物騒なことを言いながら彼は屋敷に戻った
「おい!門を開けろ!!」
門番に叫ぶシール
「…………」
「聞こえないのか?開けろこのデカブツ!!」
「…………」
門番は無視する
「ふざけやがって!!」
シールが門を開けようとすると
「ふっ!」
「ぐぉ!?」
門番に殴られて吹っ飛ばされた
「てめぇ、何しやがる!!」
「部外者の立ち入りは禁止です」
「ふざけるな!俺様はシール・ハーレンだ!!」
「そのような者は存在しません」
「貴様!」
シールが持っていた剣を抜こうとしたとき
「そこまでだ!!」
ハーレン家の門の内側に男性が立っていた
男性はモルスア・ハーレン
シール・ハーレンの
「父上!」
父親である
「シール、貴様よくここに戻ってこれたな」
「な、何ですか?」
シールが下がる
「貴様、零騎士様の身内を殺そうとしたようだな?」
「なっ!?」
シールが驚いた顔をする
「零騎士様から貴様を処罰するよう指示が来た」
「零騎士から!?」
「貴様が勝手にやったことの報告も来ているぞ!今までは大したことではないと大目に見ていたが、もう許さん!貴様は勘当だ!」
「そ、そんな!父上!待ってください!父上!!」
モルスアは屋敷に戻っていった
「そ、そんな……嘘だろ?」
座り込むシール
「…………」
門番はシールを掴むとおもいっきり投げ飛ばした
「ごふっ!……くそ!!」
シールは立ち上がる
「ふざけやがって!どいつもこいつも!!」
その表情は怒りの形相だ
「絶対に許さねえ……」
その後、シールはファルクムから出ていった
「上手くいったか……」
その様子を少し離れた所からスルトは見ていた
モルスアがシールを庇って保護したりしていないかの確認だ
「ま、これで俺等の身は安全かな……家にも被害は出ないな」
スルトがシールを社会的に始末した理由は2つある
1つはシャルルやエルフィなど自分達の身の安全の為である
もう1つは
実家であるオックス家等の訓練生達の家族を守るためである
ハーレン家は上級貴族、シールに危害を加えたとして家に被害が出る可能性もあったのだ
しかし、シールがハーレン家を勘当されることでそのような心配も無くなるのである
「さてと、確認を出来たし戻るかな」
シールは寮の向かう
もう大丈夫だということを皆に伝える為に…………




