第35話 警備二日目
翌日
朝食を終えた僕は道を歩いていた
昼の集合の時間までどうやって暇を潰すかを考えていた
因みにレイスには包帯を巻くのに手間取っていたから先に行っててと言われた
スルトはもう少し寝とくらしいし
ルークは道具屋を見に行くと言って走っていった
エルフィ達はなんでも結構遅くまで飲んでたらしく(主にミストが)
もう少し休むらしい
だから僕は今、一人で行動している
「うーん、どうするかな……」
歩きながら考える
あ、そうだ!武器屋があったよね!ちょっと覗いてみよう!
「そうと決まれば……」
僕は武器屋を目指す
っといってもすぐそこだ、数分で着く
・・・・・・・
「………んっ?」
もうすぐ武器屋に着く
そんな時に僕は凄い速さで近付いてくる気配に気付く
「な、なんだろ?」
どこから来てるかわからないけど……何かが高速で近付いてくるのはわかる
「…………」
僕は気配を探るのに集中する
「……上!?」
そしてわかった
上から近付いてきている
僕は見上げる
青い空……空を見渡すと何か黒いものが見えた
「んっ?」
東の方から黒いものが近付いてきている
あれはなんだ!
鳥か?
魔物か?
いや!人だ!!
「って人ぉ!?」
黒いものはだいぶ近くまできた、それが人間だとハッキリわかるくらい近くまで
いや、人間なの?なんか翼生えてるよ?
その人はドンドンこっちに向かってくる
てか僕の方に向かってきてる!?
ヒュン!
ドゴン!
風を切る音
その人が地面に着地する音が響く
「………」
その人は僕の目の前に着地した
そして僕を……いや、僕の後ろを見て歩き出した
「えっと?」
「…………」
その人は僕を素通りした、まるで僕の存在に気付いてないみたいだ
そのまま武器屋に入っていった
「な、何今の?」
僕はそう呟いてから武器屋に入った
・・・・・・
武器屋に入るとさっきの人が店主であろう人と話していた
「やっぱりあんたいい腕してる、俺の専属の鍛冶になってほしいくらいだ」
男の人は鉄の弓を見ながら言った
「それは光栄な事だがな、俺はここが気にいってんだ、わりいな!」
「いいさ、俺が飛んで来ればいいだけだ、これが代金な」
男の人は小袋をカウンターに置く
店主が小袋を開く
「おいおい、こんなに高くはねえぞ?」
「それでも少ないくらいだと思うが?」
店主が小袋からお金を取り出す
………えっ?金貨!?6枚は一気に取り出したよ!?
「いやいや、普通の仕事の何千倍の金だぞ?」
「金はあり余ってるからな、受け取ってくれ」
そう言って男の人はこっちに向かって歩き出した
「んっ?」
「あっ」
男の人が僕を見た、やっと存在に気付いたみたいな
「訓練生か、頑張れよ」
「は、はい……」
そう言って男の人は店を出た
ドン!
大きな音が響く
多分、男の人が飛んだ音だ
「えっ?な、なんだったの?」
僕は呆気にとられていた
てか空を飛んで……えぇ?
「おう坊主!どうした?」
店主が僕に話しかける
「あの、今の人は?」
「あん?お前訓練生なのに知らんのか?」
「は、はい……」
有名な人なのかな?
「あの人は零騎士のカンシュ様だろ」
「カンシュ様?……あの、空を飛んでいましたよね?」
「そりゃあ飛ぶだろ?あの人は鳥の獣人と人間のハーフだからな」
鳥の獣人……僕は見たことないけどエルフィがその人達は飛べるって言ってたな……
「零騎士……」
ライナスさんと同じ……
ファルクムの最高戦力………
「はぁ……」
何て言うのかな……あっという間だったから
こう、色々と感想があるはずなのに浮かばない……
ただただ、僕はカンシュ様が飛んでいった方向を見ていた
・・・・・・
それから昼まで武器屋で武器を見て時間を潰してから僕は屯所に行った
そして皆と合流してから警備の仕事を始めた
「カンシュ様に会った!?」
昼の事を警備しながら話したらスルトがくいついた
「うん、弓を受け取ってたよ」
「あ~成る程な、あの人はアーチャーだからな……」
サハルと同じ?
「なんでも、山を1つ越えた先にある的の真ん中を撃ち抜いたとか聞いたことあるぞ」
「んなバカな……」
そんな遠くの的を撃ち抜くって……嘘だよね?
「~♪」
ミストが酒場を見ている
昨日行ったお店があそこなのかな?
「塩焼き、干物、丸焼き……にゃふん♪」
「仕事に集中してよ?」
そんな風に雑談しながらも町を廻る
・・・・・・・
暗くなってきた、そろそろ勤務も終わりだね
「帰る前にみんにゃで飲むにゃ!」
ミストが言う
「お、飲むか?」
スルトが乗る
「僕未成年だけど?」
「マーティはジュースだにぇ!」
うーん……確かに僕だけ未成年だけど……あれ?
「ルークは何歳なの?」
ルークの年齢を知らないや
「ルークか?アイツは今15だな、今年で成人だから飲めるぞ」
スルトがそう言って懐から袋を出して中を確認する
お金の確認かな?
「みんにゃで宴にゃ!」
ミストが楽しそうに言う
「よし、酔った勢いで胸揉んでやろう!」
「そしたらお前は八つ裂きにゃ?」
ひぇ、凄い殺気だ……
「…………ちょっと黙るにゃ」
ミストが急に立ち止まって言う
?……どうしたんだろう?
「…………んん?」
ミストが近くの路地に入る
『?』
僕とスルトもついていく
路地に入って
左、右、右、左
と分かれ道を進んでいく
そして……
「誰……か……」
弱々しい声が聞こえた
「ここかにゃ」
「!?」
ミストが立ち止まった先を見る
そこは路地裏の人気のない場所
そこに女の人が倒れていた
お腹にはナイフが刺さっている
「おいおい、傷害事件かよ!」
スルトが女性に駆け寄り
ナイフを抜きながらヒーリングをかける
「はぁ、はぁ……んっ」
女性は安心したのか気絶した
「くんくん……血の匂いがまだ近いにゃ……」
「犯人か?」
「多分にぇ」
「マーティ、ミスト、二人で追ってくれ、俺はこの人を医者に見せてくる」
「わかった!」
僕とミストは走った
・・・・・・
ミストが匂いを追って走る
速い速い!見失わないように僕も全力で走る
「いたにゃ!」
ミストが立ち止まる
「あの人か!」
僕達の前には男の人が歩いていた
路地から出ようとしている
「逃がさにゃい!」
ミストが走る、跳ぶ、壁を蹴って男の人の目の前に着地した
「追い付いたぞ!大人しく捕まるにゃ」
「ぐぅ!」
「観念しろ!」
僕も男の人の後ろに立つ
「ち、ちくしょ!!」
男の人が僕に突撃する
「よっと!」
「ぐぉぉ!!」
僕は身体をずらして男の人を足に引っかけた
倒れる男の人
僕はすかさず
「確保ぉぉぉぉぉぉ!!」
転けた男の人に僕はとびかかった
「にゃあああああ!!」
ミストも男を押さえる
「くっ!放せ!」
暴れる男、力強いね!
「この!暴れるな!」
「マーティ!ぶっ叩いて落とすにゃ!!」
ミストが男の顔を引っ掻く
「いっで!このガキどもがぁ!」
男が左手を僕に向ける
「!?」
「火球!!」
僕の胸元に衝撃が走る
熱い、火が僕の身体をぶっ飛ばす
「がっ!」
僕は壁に激突する
「マーティ!」
「てめえもどけ!」
男が何かを投げる
「にゃ!?げふ!ごほごほ!」
何かはミストの顔に当たり、ミストは噎せる
「おら!」
「ぐにゃ!」
力が弛んだミストを男が蹴飛ばす
蹴飛ばされたミストは近くの箱にぶつかる
そして男は立ち上がり走り出した
「ま、待て!」
僕は痛む身体を立たせて男を追おうとする
「……」
が、その足を僕は止めた
男が走る路地の外、そこには彼が居た
いや彼等だ
「よし、間に合ったな!」
スルトがそこに居た、両脇には中等騎士が立ってる
「!?」
男がスルト達に気付いて止まった
「確保!!」
中等騎士の一人がそう言うやいなや、男の足を土が押さえる
土属性の魔法かな?
「はぁ!」
もう一人の中等騎士が木剣で男を殴り倒した
「通り魔確保!」
そして男は捕まった
「二人とも大丈夫か?」
スルトが僕とミストに近寄りヒーリングをかける
「スルト、病院に行ったんじゃ?」
「途中であの人達に会ってな、一人に女性を渡して、他の二人についてきてもらった」
「よくここがわかったね?結構移動したのに」
「んっ?あぁ、色々と予測してな、ここから入ったら遭遇出来ると判断して来たんだ、まさかここまでタイミングが良いとは思わなかったが」
そう言って笑うスルト
「本当、スルトのそういうとこは凄いと思うよ」
「そうか!もっと褒めろ!」
あ、台無しだ……
・・・・・・
「任務完了を祝して、乾杯!!」
『乾杯!!』
警備を終えて交代した僕達
酒場に移動してスルトの掛け声で宴が始まった
僕だけジュースだよ!!
「マーティ達は大変だったみたいだね?通り魔だって?」
レイスが言う
「まあね、まあ被害が広がる前に捕まえられたよ」
あの男の人は通り魔だった
ムカムカするから刺したんだってさ!怖いよね!
「あ、これ……美味しい」
ルークが料理を摘まみながら呟く
「ふぁ……疲れましたね……」
既に酔ってるのか、頬を赤くしてるエルフィ
「さかにゃ!」
魚を夢中で食べるミスト
「ふふふ」
それを楽しそうに見てるサハル
「ぷは!」
ジョッキに入ったお酒を飲むスルト
皆が思い思いに飲んで過ごした
うん、楽しかったよ?
ルークが酔って僕に抱きついたり
エルフィが酔ってレイスの膝の上に乗ったり
そんな風になってきたときに解散して部屋に戻ったんだ
翌日
二日酔いでダウンしてるエルフィとルークを乗せて馬車で帰る僕達
スルトは酔い止めが効いてるからか酔わずにすみ
レイスと一緒にエルフィとルークの看病をしながら僕達は2日かけてファルクムに帰ったのだった




