第29話 その頃のマーティ
またこの夢か
家が焼ける臭い
血の臭い
身体中に走る激痛
そして
「マー……ティ……」
目の前で凌辱されるネル
周りの山賊達が楽しそうにしている
奴等の顔がボヤけている、僕が顔を忘れ始めているのだろう
だけど
「ガキだと思ったが楽しめるじゃねえか!!」
この賊の顔だけはハッキリしてる
ボサボサした茶髪
蓄えてる髭
特徴的な眼帯
この賊の顔だけは忘れない
「殺して……やる………」
・・・・・・・
「…………」
そんな夢を見てしまって起きた僕
「……………はぁ」
最近ずっとこの悪夢だ……
これはなんなんだろ?
忘れるなっていうメッセージなのかな?
こんなことなくても忘れないのに……
「……………」
あの悪夢を見てから起きたら考えるのはどうやって山賊を始末するかだ
とくにネルを苦しめたあの男……アイツだけは必ず僕の手で殺す
どうやって殺すかは全く考えてないけど……
取り敢えず楽には死なせない……絶対に後悔させてやる
っと!朝からこんな物騒なこと考えてたら駄目だよね!皆に怖がられちゃう!
「ん~!」
僕は伸びをする
目覚めのいい朝ではないけど、今日も頑張ろう!
・・・・・・・
そう張り切ったけどレイスが何かエルフィに相談があるらしかった
「僕も聞こうか?」
「大丈夫だよ、それに……その、デリケートな事でね?」
頬を赤く染めながら言うレイス
それを見て僕は女性としての悩みなんだなっと理解した
僕はそういうのを察するんだよ
「わかった!じゃあ今日は自由行動って事で!」
そう言って僕は鎧を着ないで部屋を出た
服だけで出るのは久しぶりだな……昨日までずっとクエストしてたし
だからポイントにはかなり余裕があるんだけどね!
・・・・・・
さて、僕は特に目的もなく部屋を出た
いやだってさ?僕が部屋に居たらレイスが着替えられないからね?
僕も11歳になってからそういうのをは意識しちゃうからね?
ネルに操を立ててるけどさ、その……男の本能って言うか……異性を意識しちゃうのはね?仕方ないからね?
だから部屋を出てレイスが落ち着いて着替えられる状況を作るわけだよ?
「取り敢えずご飯かな……」
僕は食堂に向かう
食堂はまだ早朝だからかあまり人は居なかった
しかし、食堂のおばちゃんはもう仕事を始めてるわけで
「おばちゃん!いつもの頂戴!」
「はいよ!」
僕は朝食セットを注文する
そして受け取る
パン1個(希望により3個まで増やせる)
目玉焼き1個(希望により2個まで増やせる)
ベーコン2枚(希望により0~3枚)
サラダ(葉物系中心)
飲み物(水、コーヒー、紅茶のどれか)
という結構豪勢だったりする
信じられる?これ、実質タダなんだよ?
僕は椅子に座り、パンを噛る
パンを噛みながらベーコンをナイフで一口サイズに切る
そして目玉焼きの白身も一口サイズに切って、パンを飲み込み空っぽになった口に運ぶ
ベーコンの脂が白身と絡まって……美味い!
サラダもしゃきしゃきとした食感であり食べごたえがある
紅茶を飲んで口の中をスッキリさせて、また食べていく
うん、セットメニュー最高!
毎回食べてるけど飽きはこないね!
・・・・・・・
僕が食べ終わって回収台に食器を運ぶ頃に他の訓練生達がやって来た
新人に先輩に、見知った顔もちらほら
「マーティか、早いな」
スルトが眠そうにしながら僕に言った
「早寝早起きだよ!」
僕は元気よく答えた
「そうかい、あ、おばちゃん!俺コーヒーね!」
スルトはそう言って朝食セットを受け取った
・・・・・・・・
朝食を終えた僕は街を歩く
「お、マーティ君今日は休みかい?」
「はい!」
「マーティ君!この間は助かったよ!」
「また困ったときは言ってください!」
「マーティ!ほい!リンゴ!」
「ありがとおじさん!」
色んな人が僕に声をかける
1年以上暮らしていたら顔も覚えてもらえるよね!
さてと………
「…………」
僕は後ろを振り返る
視界にはさっき会話したおじさんやおばさんしかうつらない
でも………わかる
「……尾行されてる」
誰?同期の皆なら尾行する必要なんてないし
訓練生じゃない?
あ、もしかしたらこの間撃退したチンピラかな?
僕は曲がり角を曲がり、曲がった先に有った樽や箱の陰に隠れる
「……………」
「あれ?」
少ししたら1人の少年が走ってきた
僕と同じくらいかな?あ、訓練生の鎧を着てる、青か……ということは一年生
後輩だね
「何で僕を尾行してるのかな?」
「うひゃぁ!?」
僕は少年に声をかけた、少年が驚いて僕を見る
「あ、あぁ!マーティ先輩!」
少年は僕の姿を見ると目を輝かせた
えっ?なにこの反応?
取り敢えずもう一回聞こう
「何で、僕を、尾行してるのかな?」
強調して聞く
「あ、えと、その、マーティ先輩って俺と同じ歳なのに凄い活躍してるんで!その、どんな鍛え方してるのか気になって……」
少年が言う…………そんな活躍してる?
「君誰?」
僕は聞く
「レックス・スタールっていいます!11歳です!」
レックスは元気よく答えた
「じゃあ、レックスは僕の訓練方法が知りたくて尾行してたんだね?」
「そうっす!」
「…………鎧を着てるけど相棒は?」
「別行動っす!」
……えぇ~?
「言っとくけど僕は特別な訓練とかしてないよ?」
「そんな筈ないでしょう!」
いや本当に特別な訓練はしてないんだけど……こういうのは積み重ねだからね?
「だから君に教えることはないよ!……あ、でもあえて言うなら」
僕は外壁を指差す
「外壁の周りを何周も走るんだ!」
そう言って僕は走った
「あ!マーティ先輩ぃぃぃ!!」
レックスは完全に僕の姿を見失った
「………ま、撒けたかな?」
僕は周りを見渡す、よしよし、レックスの姿は無いぞ
「全く、人に聞く前に先ずはやれるだけやってみるべきなんだよ……」
僕はそうやって鍛えてきたんだから!
っと!そうやってる間にあちこちのお店が開店し始めた!
「……そうだ!」
だいぶ先になるけどフルーヤ村の皆の為のお土産とか考えとこ!
帰った時に喜んでもらえそうなのを探すんだ!
・・・・・・・・
そうやって1日を潰した僕
部屋に居たらレイスが帰ってきたから僕は浴場に言ったんだ
なんかスッキリした顔してたなぁ、悩みは解決したのかな?
レックスが浴場に来てしつこく話しかけてきたけどね!
こうして今日という一日は終わったんだ
まあまた、例の悪夢を見てしまったんだけどね………




