第27話 親善祭2日目・強さとは
ナイラスさんとハーツさんの戦いはとても激しい
ナイラスさんが剣を振ると
ハーツさんが槍で受け流す
ハーツさんが槍で突くと
ナイラスさんが剣で槍を弾く
っというのを一瞬でやってるみたいだった
なんでそんな曖昧な感じなのかって?
よく見えないんだ、速すぎて……
「ねぇ、皆見えてる?」
僕が三人に聞く
「いや、全然わからん」
「激しいとしか……」
サース兄さんとエルフィが答える
「かろうじてなら……見えてると、思いたいね」
レイスが難しい表情で答える
僕と同じか少し見えてるくらいかな?
「これが十二聖将同士の戦いか……」
僕はそう呟いて戦いを見る
しかし違和感を感じる
「……………これって二人とも本気で戦ってるのかな?」
「えっ?」
僕の呟きにレイスが反応する
「何て言うか……もっと凄い戦いになるんじゃないのかな?本気で戦っていたら」
それこそ僕には全く見えないくらいの
「……もしかしたら、魅せる為に戦ってる?」
レイスがそう呟いた
魅せる為、そうか……これは観客を楽しませるための親善試合
本気で戦う必要は無いんだ
多分最初の一撃だけ本気でぶつかって
それからは手を抜いて観客に魅せる戦いをしているんだ
「でもそれも簡単なことじゃないですよね?」
エルフィが呟く
そうだよね
本気ではないとはいえ、明らかに手を抜いてるなんてわかる戦いではない
魅せる戦いは簡単に出来ることではないんだ
少なくとも僕には絶対に出来ない
「…………あのレベルに」
ハーツさんは励めばあのレベルになれると言っていた
な、なれるの?それって十二聖将レベルになるってことだよ?
いや無理無理無理!!
だって底が見えないもん!
いつもお酒を片手にしてるナイラスさんでもかなり強いのが今の戦いでもわかるし
そのナイラスさんと一緒に魅せてくるハーツさんも強いし!
どうやったらそのレベルになれるか全然わからないし!
うん、考えるのはやめよう、僕は僕の限界まで強くなればいいんだ!
そう考えていたら親善試合が終わった
ナイラスさんとハーツさんの剣と槍がぶっ飛び
ナイラスさんの剣が銅鑼に当たり
ハーツさんの槍が観客席の人の隙間に突き刺さった
近くに居た人達がビックリしていた
あれ狙ったの?
・・・・・・
トーナメントは正直親善試合と比べたらパッとしなかった
盛り上がりはしたけど……うん、僕はつまらなかったかな……知り合いが出たわけでもないし
あ、優勝したのはパニアルから来た傭兵だったよ
武道大会が終わって会場から観客が退場していく
レイスやエルフィ、サース兄さんも退場したけど僕は少し会場に残っていた
「…………」
僕は闘技台を見ていた
周りには人が殆んどいなくなった
「はぁ……」
あんな凄い戦いを見たらやっぱり差を感じてしまった
考えないようにしてたけど
武道大会を見て更に差を感じた
普通に強い人と十二聖将の差を
武道大会に出てた人達も強かったよ?
僕よりは絶対に強いし
でもあの二人の戦いを見た後だと
武道大会の人達のレベルが低く感じた
そしてその人達よりも弱い僕
「…………考えすぎだよね」
凄い戦いだった
かっこよかった
そういう感想を出していればいいのに
なんで僕はこんなに凹んでるんだろ……
差があるのなんて当たり前なのに
凄く悔しいと感じてる
それと焦りかな?不安もある
うん、悩みすぎてるんだよね……僕
「はぁ~なんで純粋に楽しめなかったのかなぁ……」
「何を悩んでいる?」
「!?」
声をかけられて振り返る
そこにはハーツさんがいた
なんでいるの!?
「えっ?あの?何故ここに?」
「それは私のセリフだと思うのだが?」
そう言われて僕は周りを見渡す
僕とハーツさん以外、誰もいない
あ、なんで残ってるのか疑問になるよね
「えっと、その、試合の感動が凄くて」
「嘘だな」
バレバレだぁ!?
「……ふっ、己の弱さに悩んでいたのか?」
「……わかってて聞きます?」
ハーツさんが観客席に座る
「そう悩む必要はあるまい、マーティ、君はまだ幼いのだ……これからだと思うが?」
「そう言われても……ハーツさんやナイラスさんみたいにはなれそうにないですよ」
僕はハーツさんの隣に座る
「ふむ、マーティ、君は何故騎士を目指している?」
「えっ?それは、大事な人を守る為です」
強くなって山賊を倒す、それが僕の目標だ
「ならば君は強くなれる」
「…………でも」
あんな風にはなれそうにないよ
「君は何か勘違いをしていないか?」
「勘違い?」
「何も今すぐ強くなる必要はない」
「えっ?」
「先程も言ったはずだ、励めば私の様になれると」
「そんな数年で強くなれると思いますか?」
「数年ではない数十年だ」
「……数十年?」
「ふぅ」
ハーツさんが兜を外して素顔を僕に見せる
「…………えっ?」
ハーツさんの素顔を見て僕は呆気にとられる
別に女性だったとかそんなんじゃない
ハーツさんは老人だった……多分80代くらいのお年寄り
「私も昔は弱かった、だが鍛練を続け、槍を極めんと励み続けた……そして十二聖将になれた」
時間はかかったがなっと呟きながら兜を被る
「…………」
「もう一度言おう、マーティ、励めば君は私の様に強くなれる、君にはそれだけの熱がある」
「……………」
僕が?頑張ればハーツさんみたいに?
時間はかかるけど強くなれる?
流石に15歳では無理だろうけど
励めば強くなれる?
「マーティ、焦る事はない、今は仲間と支えあえ、そして己を磨け」
「………はい」
これからも訓練とか頑張ろう
僕はそう思いながら頷いた
・・・・・・・
ハーツさんと別れて僕は会場から出た
レイスとエルフィがサース兄さんと話をしていた
「マーティは4歳の時におねしょしてな」
「4歳なら仕方ないのでは?」
「マーティ君もそんな時はあったんですね」
ちょっと!?なんでそんな話題で盛り上がってるの!?
「サース兄さん!?」
「おっ、来たかマーティ」
来たかマーティ、じゃないよ!?
「そう言う話は止めてよ!!」
恥ずかしいから!!
「あぁすまんすまん」
僕の頭を撫でながら謝るサース兄さん
悪いと思ってないでしょ?
「さて、そろそろ戻らないとな」
サース兄さんが夕方になり赤くなった空を見て言った
「もう行くの?」
僕はサース兄さんを見上げながら言う
「あぁ、そろそろループル行きの馬車に乗らないとな」
サース兄さんの視線を追うと、こっちを見ている数人の男女が居た
「皆待ってるしなっと!」
「うわ!」
サース兄さんは僕を持ち上げて抱き締める
「に、兄さん!?」
「ん~?なんだ?」
「は、恥ずかしいから降ろしてよ!」
「もう少しこうさせろ」
「ん~!!」
「マーティ……」
もがく僕にサース兄さんが囁いた
「頑張れよ」
「……うん」
僕の返事を聞いたサース兄さんは僕を降ろして歩き出した
「サース兄さん!またね!」
僕はサース兄さんに向けて叫ぶ
「おう!」
サース兄さんは振り返らずに手を振る
こうしてサース兄さんは帰っていった
「いいお兄さんですね」
エルフィが言う
「うん、自慢の兄さんだよ」
あ、勿論フライス兄さんもね?
こうして親善祭は終わった
…………あ!フルーヤ村の事を聞きそびれた!?




