第23話 ラルスという男・後編
私はただ……強さを求めていた
ーーーパニアルの闘技場ーーー
『さぁ!今日もこの男は私達に血塗れのショー見せてくれるのか!』
実況が流れる
『鬼人ラルス!!』
『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
ドン!
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
私は闘技台に乗る
鬼人………14歳の時から闘技場で戦い始めて…いつの間にかそう呼ばれるようになった
ゴキャ!
ドサッ!
『強い!この鬼を倒せるやつはいるのかぁぁぁ!?』
私は対戦相手を次から次に倒していった
・・・・・・・
「…………」
私は街中を歩く
「ひっ!鬼人!!」
「す、すいません!!」
「命だけは!!」
街を歩いてるだけで周りの人はそんな反応をする
私は闘技場でしか戦わないのだが……
そんな事などわからない人達は私を見て怯える
どうしてこうなってしまった……
14の頃……私は強くなりたくて闘技場にやってきた
よく戦い方をわかっていない私に闘技場の人達は親切に教えてくれた
そして私は戦い続けた
相手を次から次に倒していった
私の事を嘗めて挑む戦士を
戦いを教えてくれた剣士も
傭兵として名を上げていた男も
力自慢の獣人族の者を
負けずに戦い
勝つ度に周りからの畏怖の視線が増す
「………はぁ」
私はただ、強者として認められたいだけなのに
・・・・・・・・
闘技場に行くと係の男性がハーフの子供を鎖に繋いで歩いていた
「その子をどうするんだ?」
私は男性に聞く
「こいつっすか?なんでもガキの頃から鍛えればかなり強くなるそうなんで、これから調教と訓練で奴隷闘士にするらしいっすよ?」
奴隷闘士……文字通り奴隷の闘士か
私みたいに闘技場に自らやってくる者も居れば
この子の様に奴隷として強制的に闘士にされる者もいる
しかし違和感を感じるな……あ、そうか、この子からは奴隷特有の悲壮感が無いのか
「……?」
ハーフの子は首を傾げている
そして私に近付き、見上げる
「お兄さん、かっこいいね!」
「なに?」
「ちょおま!?」
男は鎖を引っ張る
「うぇ!」
「お前奴隷なんだから勝手に喋んなっての!」
男は焦っている……今ので私の機嫌を損ねたとでも思ったのだろうか?
私は二人に近寄る
「ひぃ!?さーせん!!こいつには厳しく言っときますんで!!」
「いや構わんよ」
私は屈み、少年と目線会わせようとする……屈んでも私の方が高いか
「坊や、君はこれからどうなるのかわかっているのかい?」
「えっと、地下に連れていかれて鍛えられる!」
「その鍛えるっていうのは君が思っているよりも厳しいものだよ?」
1度だけ見せてもらった事がある
あれは訓練というより拷問だ
対象が死んでも仕方ない、生き残った者だけ使ってやる……そういうやり方だ
「仕方ないよ?僕奴隷だもん、のたれ死ぬよりはマシだよ?」
「そうか……子供なのに随分と落ち着いているんだな?」
「そうでしょ!」
「励めよ」
私は優しく子供の頭を撫でる
「えっと、旦那、このガキが気に入ったんすか?」
「少し関心を持っただけだ」
「そうっすか……こいつこれからずっと地下なんで地下に行けば会えますんで」
自由に会っていいんだな?
なら会わせてもらおうか
・・・・・・・
数ヶ月経った
私はよく少年に会いに行ってみた
訓練はやはり過酷で少年の身体には多数の傷があった
「今日は僕1番いい成績だったんだよ!」
そう言って元気に話す少年、奴隷だとは思えんな
そんなある日、私はつい聞いてしまった
「君は私が怖くないのかい?」
何故そんな事を聞いてしまったのか……それは今もわからない
少年言った
「怖くないよ?だってお兄さん格好いいし!優しいし!強いし!」
少年は屈託のない笑顔でそう言った
そうか…………そうか……私は…優しいか……
「坊や、君の名前は?」
「僕?シュガーだよ?お兄さんはラルスだったよね?」
「そうだよ、シュガー、君は奴隷のままでいたいのかい?」
「そりゃあ、奴隷のままは嫌だよ?だから闘士になったら少し貰える報酬を貯めて自分を買うんだ!」
それが今の目標だとシュガーは言った
「あーなら私が君を買おうか?」
「えっ?お兄さんってそういう趣味?」
「違うよ、ただ、君を奴隷のままにしたくないんだ……そうだな……養子にでもなるかい?」
「それってお兄さんがお父さんになるってこと?」
「そうだよ、次の試合の報酬で君を買える程のお金が手にはいる……まあ君が良ければだが?」
「………………じゃあ、うん!よろしくお願いします!お父さん!!」
「まだはやいぞ?」
「へへ!」
次の試合も負けられないな
・・・・・・
それは突然だった
試合に勝ち、報酬を貰った時だ
ドゴーン!
爆音が闘技場に響いた
「なんだ!?」
「だ、旦那!避難してくださいっす!」
「なにがあった!」
「ワイバーンっす!闘技用のワイバーン達が暴れてるっす!!」
ワイバーン……Cクラスのモンスターだ
ここには腕に覚えのある戦士達がいるから倒すことは簡単だ……いつもならな
しかし今は闘技の後だ、大量の客がいる、戦士達や用心棒達は客の避難を優先させる
それがここの決まりだからだ
「私は何をすればいい?」
「客の避難を手伝ってくれたら助かるっす!」
「わかった!!………そういえばワイバーン達はどこで暴れているんだ?」
………闘技用のモンスターはどこに捕らわれていた?
……嫌な予感がする
「地下っす!って旦那ぁ!?」
地下、その言葉を聞いて私は走った
この闘技場は客と職員を優先し、次に闘士達を優先する
奴隷は……最後だ
避難していてくれ!
私は地下に駆け込んだ
「シュガー!!居るか!!」
返事はない
「グルゥゥゥゥゥ!!」
ワイバーンが二体、私の前に立つ
「どけ!」
私は筋肉を膨張させ、ワイバーンの頭を殴り潰した
「シュガー!!居るなら返事をしてくれ!!」
私は地下を走る
あちこちに死体が転がっている
子供の死体はない……
だが安心できない……食べられた可能性もある
「シュガー!!」
私はワイバーンを次々と殺す
「……ん」
「!?」
声が聞こえた、シュガーの声だ
「お兄さん?」
「シュガー!!」
シュガーが居た……だが
「へへ、お兄さん、一匹、倒したよ?」
ワイバーンの亡骸の側でボロボロになっていた
「あぁ、よくやった!すぐに出よう!医者に診てもらおう!」
私はシュガーを抱き上げる
「お兄さん、あのね」
「喋るな!体力を消耗する!」
「僕ね…お兄さんに嘘ついてたんだ」
「喋るなって言ってるだろ!」
「最初ね…お兄さんの事、ほんとはね…怖かったんだ…」
「そうか、わかった!だからもう喋らなくていい!」
「でもね、お兄さんがね、僕の頭を撫でてくれてね、それでね………」
「もういいから!私は怒っていない!!」
地下を飛び出す
「旦那!ワイバーンは!?」
「殆んど倒した!それより医者だ!」
「ここの医者は避難してるっす!!」
私は闘技場を飛び出す
「僕……お兄さんのこと……好きだよ?」
「ああ、私もだ!最初はどうあれお前は私を受け入れてくれた!!だから死ぬな!私の息子になるんだ!」
「へへ、お兄さんが……お父さんに……うれ、しい……」
「シュガァァァァァ!!」
・・・・・・・
私は……何を求めていたんだ?
強さ?
名声?
栄光?
違う………私は……私が欲しかったのは
・・・・・・・
ーーーマーティ視点ーーー
僕とラルスさんは賊を騎士達に引き渡した
ハーフの少年も保護して貰った、すぐに親元に送るそうだ
ハーフは珍しいけど別に嫌われてる訳じゃない、良かった良かった
ただ不安もある、豹剣のバドスが消えたのだ………
ラルスさんは気にするなって言っていた……
なんでも彼は傭兵だから金さえ出せば敵にも味方にもなる
もしかしたら次は味方かもしれないからって
そんなもんなの?
そして帰り道にラルスさんが話してくれた
元々はパニアルの闘技場で闘士をやっていたこと
パニアルの人達に怖がられていたこと
そしてシュガーという少年に出会ったこと
しかしワイバーンが暴れて闘技場が半壊したこと
そして思うことがあって、ファルクムに来て訓練生になったこと
「凄いマッスルだと思ってたら闘士だったんですね?鬼人なんて格好いい二つ名まであるなんて」
「すまないな、拒絶されるかもしれんと思うと…言えなくてな」
「そんなんで拒絶なんてしませんよ?」
僕は……いや僕達は知ってる
ラルスさんが優しい事も
頼りになる事も
強い事も
だから
「僕はラルスさんの事好きですよ?多分他の皆も同じ事を言います」
「そうか………ありがとうマーティ」
ところで……
「ラルスさん何処に向かってるんです?」
僕たちが歩いてる場所は寮とは反対側だ
「少しな……」
?
「……マーティ」
「はい?」
「私は君をずっと子供だと思っていた」
「あぁ、でしょうね」
よく頭を撫でてくるし
「だが今回の君の戦いを見て考えを変えたよ、君は立派な男だ」
「ふふん!」
よし!ならもう高い高いしようとかしないですよね?
「これからもよろしく頼む」
「はい!ってあれ?ここって……」
ライネ孤児院?
「お父さーん!!」
ハーフの少年が走ってきた
「シュガー!!」
ラルスさんが少年……シュガーを抱き上げた
って待て!
「死んでなかったの!?」
「むっ?私は死んだとは一言も言ってないが?」
「いやいや!あの言い方だと死んだようにしか聞こえないから!?」
「お父さん?この子は?」
「彼はマーティ、私の仲間であり、友達だ」
ラルスさんがシュガーを降ろす
「はじめまして!シュガー・ペルンです!」
「あ、うんはじめまして、マーティ・ロキソンです」
僕とシュガーは挨拶する
「えっ?なんで孤児院に?」
「訓練生の間は寮住まいだからな、ここで預かってもらっているんだ」
へぇ……
「お父さんお父さん!聞いて聞いて!」
「どうしたんだ?」
シュガーとラルスさんが談笑する
「僕、先に戻ってますね、エルフィと会わないと」
「あぁ、ここまで連れてきてすまなかったな」
「構いませんよ」
シュガーと会わせたかったんだろうね
・・・・・・・・
ーーーラルス視点ーーー
マーティが戻っていった
「マーティってちっちゃいね?僕と同じくらい?」
「シュガーより少しお兄さんだよ」
シュガーは8歳だ
「………お父さん、楽しそうだね?」
「んっ?そうだね…今、凄く楽しいよ」
息子がいて
仲間がいて
友がいる
今の私は充実している
私が欲しかったものは………もう手に入っている
これからはこれを失わないようにしていこう




