第23話 ラルスという男・前編
それから三ヶ月経った
冬も終わりかけて春がやってきて……ない
「まだ少し肌寒いね」
「そうですね」
僕とエルフィは街を歩いていた
遊んでる訳じゃないよ?クエストに向かっているんだよ?
因みにレイスは今日は休んでいる……というのも
・・・・・・・
朝
「レイス?顔色悪いけど大丈夫?」
「はは、ちょっと……厳しいかな」
真っ青な顔をしながら椅子に座っているレイス
「熱は無いよね?」
ピトッとレイスの額に僕の額を当てる
「だ、大丈夫だよ、熱じゃなくて……貧血だから……」
えっ?貧血?
「どこか怪我してたの?」
「違うよ……その…………………………………女性…………特有ので………ねっ?」
レイスが恥ずかしそうに言う
貧血……女性特有……そして恥ずかしそうなレイス……………
あっ
「わ、わかったよ、ご、ごめん……」
「いいよ、気にしないで」
「キツいんだったら休んでなよ、例のクエストなら僕とエルフィで行けるから」
「だ、大丈夫かい?」
「平気平気♪」
・・・・・・・・・
って事である
「レイス君も大変ですね……」
「エルフィもキツイ時は言ってよ?」
「私は大丈夫です」
何故大丈夫か気になるけどデリケートな事だから聞かないよ
「っと、着いたね」
「ライネ孤児院、ここですね」
僕達の前には孤児院がある
今日のクエストは孤児院の子供達の面倒をみることだ
騎士の仕事か?って思うかもしれないけど僕達訓練生には丁度いい仕事なんだよ
孤児院は少し楽が出来るし
子供達は遊び相手が出来る
僕達訓練生は報酬とポイントを貰えるし
騎士団もイメージアップになる
ほら皆幸せ
「今回はもう一組来るんでしたよね?」
「そうだね」
誰だろう?
「げっ、マーティ…」
「おっ!マーティとエルフィーユか!」
後ろから声が聞こえたので振り返るとガルネクとラルスさんが居た
「ガルネク君とラルス君がもう一組ですか?」
「あぁ!………ふむ、エルフィーユの方が歳上とわかっててもラルス君は慣れないな!呼び捨てで構わない!」
「歳の話はあんまりしないでくださいね?」
エルフィの目が笑っていない
「……レイスの野郎は?」
「……レイスはちょっと体調を崩してね」
女性の日ですとは言えない
「アイツが?珍しいことがあるんだな…」
ガルネクが顔をしかめる
「まぁまぁ、今はゆっくり休んでるから今日は4人で頑張ろう!」
僕はガルネクの背中を押す
「おいこら押すな!」
・・・・・・・
孤児院のクエストは順調だった
というのも
「おじさんおじさん!次はぼく!」
「あぁ!いいぞ!」
「わたしも!」
「それそれそれ!!」
「……ラルスさん大人気だね」
「玩具扱いだな」
「いいお父さんになれますね」
ラルスさんに子供達が群がっていた
ラルスさんの腕に掴まりぶらさがったり
ラルスさんに登ってテンションを上げたり
ラルスさんもノリノリだ
「ラルスさんって子供好きだよね?」
「ですね、ガルネク君は知ってました?」
「前から子供には好かれていたな……」
筋肉に惹かれるのかな?
そんな感じで問題なく終わった
・・・・・・・・
「ははは!子供は元気だな!」
クエスト完了の報告をして建物を出てからラルスさんは愉快そうに言った
「ラルスさんも元気ですね」
僕はぐったりだよ……てか子供達に
『なんでおじさんと一緒に居るの?子供だよね?』
的な事を何回も言われた
いや確かに孤児院には僕より歳上も居たけどさ!
僕は訓練生としてクエストを受けて来たの!
だからそんな風に言われるのは心外だよ!もう!!
「マーティ君はこれからどうします?」
エルフィが聞く
「僕は少し走ってくるよ、エルフィは?」
「少し買い物を、後で渡しますので、レイス君に渡してもらってもいいですか?」
「いいよ!」
「ガルネクさーん!!」
「ぐっ!?………ハリエル……」
ハリエルさんが駆け寄ってくる
「ガルネクさん!新作のアップルパイが出来たんです!店長からも新商品にして良いって言われました!!」
「よ、よかったな…」
ガルネクが戸惑っている
こうやって好意を向けられた事なんてなかったもんねー
「これも試食してくれたガルネクさんのお蔭です!!お礼をしたいので来てください!」
「へぇ、試食してあげたんだー」
僕はニヤニヤしながらガルネクを見る
「なんだよその顔は……ハリエル、俺のお蔭じゃなくてお前の努力が実っただけだ、礼をされることなんて………おい聞けぇ!?」
ガルネクがハリエルさんに手を引かれて去っていった
「……噂には聞いてましたけど凄い人ですね…」
「だね」
ガンガン攻めるね……
「ふむ、少し休んでからまたクエストを受けるつもりだったのだが……中止にするか」
「あ、ならラルスさんも一緒に走りません?」
一人だと寂しいんだよね
「あぁ、構わない!」
ラルスさんは親指を立てて応じてくれた
・・・・・・・・・
外壁を走る僕とラルスさん
既に16周は走っている
「前から思っていたが、マーティは体力が凄いな!」
「3歳から走ってますからね」
「ほぉ!それはいい!幼い頃から身体を鍛えているのなら、その身体能力も納得だな!」
「僕よりラルスさんの方が凄いですよ?僕と同じくらい体力があって、力も凄いじゃないですか」
僕は孤児院の事を思い出す
・・・・・・・
孤児院の庭
ラルスさんが子供に高い高いをねだられる
「よし!いいぞ!」
ガシッ!と子供の脇辺りを掴み持ち上げるラルスさん
「……高い高いって普通横腹とかじゃない?」
「そうだな……」
僕とガルネクはそれを見て話す
エルフィは中で女の子達とおままごとの相手をしてる
「いくぞ!たかいたかぁぁぁぁい!!」
ビュン!
『本当にたけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』
目の前の出来事に僕とガルネクが同時に叫んだ
高い高いされた子供が凄い飛んだのだ
5メートル……6メートル……10メートル……多分それくらいは飛んでいる
そして落ちる
「はっ!」
パシッ!
ラルスさんは余裕の表情で子供を受け止めた
「もう1回もう1回!」
「よし!いくぞ!」
・・・・・・・・
「あれは本当にビックリしましたよ」
「はっはっは!!マーティもしてやろうか?」
「結構です!」
僕とガルネクさんは走りながら談笑した
・・・・・
「むっ?」
「?」
ラルスさんが立ち止まる
僕も立ち止まる
「どうしました?」
「しっ!…………誰か居るぞ」
「えっ?」
ラルスさんが森に入る
僕もついていく
少し進むと二人ほど男が居た
………賊?なんか見た目が完全に怪しい
「…………マーティ、あそこを」
ラルスさんが指差す
「………あっ」
二人いる男の僕達から見て奥の方の男の後ろには子供が居た
縛られている……あれ?これって………誘拐?
「ど、どうします?」
「他に仲間が居るかもしれないな……それに今突撃したら子供の身が危ない」
ラルスさんは隙をみて戦うつもりみたいだ
「ぼ、僕が子供を確保しましょうか?」
「できるのか?」
「やってみます」
「なら任せる、気を付けるんだよ?」
「うん」
僕はコッソリと茂みの中に入り移動する
音をたてないように慎重に……
「にしてこのガキがそんなに高く売れるんすか?」
「あぁ、こいつはハーフだからな」
男達の会話が聞こえてきた
誘拐で間違いみたいだね
「さて、どうするか……」
結構近付いたけど……
子供の側にいる男が全然隙がない……何あの人…強いぞ
どうにか隙を見つけようとしてた僕
「おらぁ!」
バキィ!
「ぐっ!」
前に集中しすぎて後ろの賊に気付かなかった
・・・・・・・
ーーーラルス視点ーーー
マーティも捕まってしまった
くっ、私の判断ミスで彼まで危険な目に!
賊達が子供とマーティを運んで森の奥に行くのを私は追った
・・・・・・
森の奥にある開けた場所
そこにマーティと子供が運ばれた
賊の数は七人か………
むっ?マーティは縛られていないのか?
剣は取られたようだが……子供だと油断して縛っていないようだな
…………マーティの意識が戻ったようだ
周りを見て状況を把握したようだ
………普通こんな状況になれば怯えるのが子供なのだが
マーティはどうやってこの状況を覆そうか考えてるようだな
むっ!賊の一人がマーティに近付いたか……
何かを話してるみたいだな………むっ!?
次の瞬間マーティは賊の股間を蹴り、剣を奪って足を斬った
賊が足を押さえながら倒れる
残りの六人の賊がマーティに襲おうとしている
出るなら今だな、何人かはこっちに意識を向けるはずだ!
私は石を何個か掴む
そして……
「そこまでだ!!」
私は飛び出した
・・・・・・
ーーーマーティ視点ーーー
「そこまでだ!!」
そう言ってラルスさんが飛び出した
僕に襲おうとした賊達がラルスさんを見る
「なんだてめぇは!!」
「私はラルス!訓練生だ!」
堂々と話すマッスル
「今すぐ武器を捨てて投降しろ!そうすれば命は取らない!!」
ラルスさんが言う
「ふざけるな!」
賊の一人がラルスさんに向かって突撃すら
「ふん!」
ヒュ!
バスッ!
「ぎゃぁぁぁぁ!?」
ラルスさんが何かを投げた
それは賊の右腕を貫いた
賊が剣を落とす
後五人!
「な、なにしやがった!」
他の賊がラルスさんに言う
「こうしたのさ!」
ヒュ!
バスッ!
「あぁぁぁぁぁぁ!?」
今度は賊の両足の太ももを貫いた
あれは……えっ?石?
僕の近くに転がって来たのは血の付いた石ころだった
取り敢えず動ける賊は後四人
「筋肉に不可能は無い!!」
そう言って次々と石を投げるラルスさん
その石は次々と賊を貫いた
そして隙の無かった人だけを残した賊達は倒れた………死んではいないみたいだね
「お前、何者だ?」
男が言う
「先程申した筈だが?私はラルス!訓練生だ!」
「そうか、どうやらお前は戦える奴みたいだな……なら俺も戦おう……豹剣のバドス……参る!」
バドスと名乗った男がラルスさんに斬りかかる
「ぬぅ!」
ラルスさんは後ろに下がって剣を避ける
…………二人が戦っているうちにこの子を安全な所に運んで、僕も援護に
そう思って子供を抱えようとしたら
ヒュ!
ザクッ!
「いっ!?」
僕の肩にナイフが刺さった
振り返ると
「逃がさねえぞ?」
ラルスさんに斬りかかりながらバドスが僕に言った
こいつ……ラルスさんと戦いながら僕を警戒してる……下手に動いたら次は殺られる……
ど、どうしよう………
・・・・・・
ーーーラルス視点ーーー
この豹剣バドスと名乗った男、かなりの手練れだ
………豹剣?
「貴様、傭兵の?」
「知ってたか」
豹剣バドス……素早い動きで相手を翻弄しながら斬っていく傭兵だ
その世界ではかなり有名な男だ
「貴様ほどの男が何故誘拐など!」
「報酬がいいんだよ」
そう言ってバドスは私を斬っていく
血の噴き出す私の身体
「あんた頑丈だな」
「それが取り柄でな!」
私は拳を振るう
「ふっ!」
バドスが距離を取る
「………強いな、豹剣」
「あんたもな、お前が初めてだぞ?俺の剣で斬られて立ってる男は」
「そうか……」
どうやら……本気を出さねば私は勝てそうにないな……
「おい、身体が震えてるぞ?怖いのか?」
確かに……私の身体は恐怖で震えている
しかし、この恐怖は豹剣に対してではない
この恐怖は……マーティに対してだ
正確には本気を出した私を見た時のマーティが私は怖いのだ
豹剣を倒した後の私を見て…怯えられるかもしれない
拒絶されるかもしれない……そんな恐怖が私に襲いかかる
だが………やらなくてはならない!!
もう………私は………壊す者ではないからな!!
「豹剣バドス!貴様は強い!だがな……上には上がいることを今、教えてやろう!!」
「何?」
ドゴン!
私は右手で左胸を殴る
これが……スイッチだ
私を………鬼とするスイッチだ
「ぬおおおおおおお!!」
ビリビリ
私の筋肉が膨張して上の装備が弾け飛ぶ
「なっ!?」
「うぇ!?」
バドスとマーティの驚く声が聞こえる
「おいおい……待てよ!なんだよそれは!!」
バドスが私に斬りかかる
だが無駄だ
パキン!
「!?」
バドスの剣が折れる
当然だ……今の私の身体は……鋼より硬い
「改めて名乗ろう………私はラルス………かつては『鬼人』と呼ばれた男だ!!」
「鬼人?……嘘だろ……まさかパニアルの!」
ドゴン!
私は地面を思いっきり踏みつける
「ぐぅ!?」
地面が揺れ、バドスはバランスを崩す
「終わりだな!」
「!?」
私は跳んでバドスに近付き捕まえる
「ぐわぁ!」
「ゆくぞ!『鬼の拳!!』
私の拳がバドスにめり込む
「ごぉ!?」
バドスがうめき声を上げて吹っ飛ぶ
そして木に激突して倒れた
安心しろ、死なないように加減はした
私は元の姿に戻る
そしてマーティを見る
「…………」
マーティは目を丸くしている
この後の反応は予想できる……拒絶だ
「ま……ま………」
しかしマーティの反応は予想外の反応だった
「マッスルすげぇ!?」
「えっ?」
ガクッと身体の力が抜けた




